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はじけとんだ理性

薄暗い寝室にふたりきり、ふたりだけなのは当たり前だ、ここは私のマンションの一室なのだから。

「ぶん、お?」
「なまえが、いけないんだ」
「ちょ、待って、まだ髪の毛乾かしてな……」
「待てない」

そんな薄着でいるからいけないんだ、いくら付き合っている仲とは言え、キャミソールとホットパンツという出で立ちで目の前をうろつかれては目のやり場に困る。ちらちらと見え隠れする下着が煽情的で神経が昂ぶる。不安げに揺れる瞳がその感情を余計に煽り立てていることになまえは気付いていない。

広々としていて、濃紺で揃えた自分のベッドになまえを縫い付け、風呂から上がったばかりでしっとりと濡れている髪にそっと唇を落とし、上気している頬を一瞥。

半ばむりやりとも取れるやり方は、決して好ましいとは言えない、しかし不安げに揺れる瞳の奥に、燻っている期待を垣間見てしまったら、それはむりやりではないと思う。

「文鴦、待っ、ひゃ……!」
「綺麗だ、なまえ」

さっきからなまえは待てと言うばかりで嫌だとは言わない、それは行為に対して肯定とみなされるのだ。じっと見上げてくるなまえの瞳には、今度こそはっきりと熱を感じ取ることができた。

二律背反の恋心

遠くから見つめるだけだったなまえ先輩がすぐそこにいる、手をのばせば簡単に触れることのできる距離にいる、先輩が身を翻したり、顔に掛かる髪を耳に掛けたりと、何かしら動くたびにふわりと漂うほのかな甘い香り。

「文鴦くん、これ、どうしよう」
「え、あ、すみませんどれでしょうか」
「この本なんだけど一部ページがなくなっちゃってて、先生に頼んで新しくしてもらうってことでいいかな?」
「はい、ページがないものは貸し出せませんし」

不躾にもなまえ先輩をじっつ見つめ続けていたら不意に声を掛けられハッとする、澄んだ瞳、ぷくりとした薄紅色の唇が動くたびにどきりと心臓が跳ねた。慌てて取り繕った挙動になまえ先輩が少し首を傾け、私を覗き込むように見つめてくる。

「文鴦くん、眠たい?」
「え?」
「わかるよーお昼食べた後だし、お昼の休み時間って眠くなるよね、図書室って静かだし、図書委員のお昼のカウンター当番ってもっと眠くなるもん、全然人が来ないし」
「あ……はは、そうですね」

騒がしく早鐘を打つ心臓、緊張のせいで相槌を打つ他に気の利いたことが何ひとつ言えない自分が嫌になる、眠いわけではないのです、なまえ先輩に見惚れてしまっていましたなどとは、口が避けても言えない。

言ってしまえたらどんなにいいか、なまえ先輩に会うたびに膨れ上がり溢れる恋慕の情、伝えたい、しかし迷惑がられてしまうのではないかと常に不安が付きまとう。言いたい、だが、言えない。

なまえ先輩とのふたりきりのこの時間がいつまで永遠に続いてくれたなら、私は他に何もいらない。

 あいしてる
ふああ眠いな……。

お昼の後の授業は拷問かと思うくらいに睡魔が容赦なく甘い誘惑を携えて邁進、先生の声がものすごく遠くに聞こえて、いよいよやば

これは落ちる寸前だ、あくびを噛み殺しながら隣の席の文鴦くんをチラ見、とってもいい姿勢できりりと引き締められた表情が実にイケメンである、そんな彼は生真面目で、真剣に先生の話しを聞いている、偉いなあ、私なんかもうなんの授業をやっているのかすらわかんなくなってくるくらいボーッとしてるのに。それにしても文鴦くんってほんとでかいなあ、誰かが190オーバーとかなんとか言ってなかったっけ?しかもまだ伸びてるっていう話しだ

すごいな、どこまで伸びるつもりだよ、なんか肌も綺麗っぽい、いいなあ羨ましい、ツヤツヤした黒髪も綺麗だしなんなの?文鴦くんってほんとは女の子の敵なの?あ、板書し始めた、でもでもやっぱり手はおっきい、男の人の手って感じ、シャーペンを持つ指も長くて筋張って

文鴦くんの視線が、ノートと黒板を行ったり来たりするたびにふとこっち向かないかなあなんて、ちょこっと期待をしてチラ見からガン見に移行したけど、文鴦くんは完全に授業に集中していて私の熱視線に全然気付いていない、半ば私もやけくそになって(どうしようもない睡魔を追い払うためにも)授業に使えばいいものを、くだらない方向へ思考回路をフル稼働、メモ帳を一枚破って、文鴦くんに一筆したため

ぶんおくんへ
からさまな無視を決め込んでいるわけではないと信じていますけれどもこうも気付いてくれないとさすがのなまえさんも傷付きますわたしの熱い視線に気付いてー!
まとっても眠たいよー先生の声が子守唄みたいでつらい。
んどいのでぶんおくんにお願いがあります何か一発芸やってわたしに取り憑いてる睡魔を追い払ってくれると嬉しいな。
がみでお返事ほしいなーたぶんぶんおくんならいいお返事くれるって信じて

なまえより


くしゃくしゃと紙を丸めて、相変わらず前しか見てない文鴦くん目掛けて投げた。ぽこんと文鴦くんのノートのど真ん中に落ちたそれに気付く文鴦くん、え?というような顔を作って私の方を見た。

見て見て、紙を指差しながら口ぱくで促すと、文鴦くんは少し首を傾げてくしゃくしゃのお手紙を丁寧に広げた。その様子を観察する限り、文鴦くんの視線はお手紙を上から下まで少なくとも3往復はしていた、見る見るうちに頬っぺたと耳が赤くなってきて、大きな手のひらが口元を覆う。

すると急に視線がふわふわと落ち着きなく彷徨い出して、困ったようにおずおず私に落ち着いた。

「あ、あの、からかうのはやめてくれ」
「眠たいけど本気なのだよ文鴦くん、お返事ください」
「っ、授業終わってからでも、いいか?」
「うん、待ってる」

こそっと話しかけてきた文鴦くんは面白いくらいに真っ赤っかで、未だに口元を手のひらで覆っている。ついでに言っておくとシャーペン逆に持ってるよ、文鴦くん。

文鴦への3つの恋のお題:はじけとんだ理性/二律背反の恋心/あいしてる http://shindanmaker.com/125562 

20140218
20200422修正
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