もう動けない、1ミリも動けない。瞬きも呼吸さえしんどいし心臓がはちきれそうなくらい大きく動いてる。これ以上は死んでしまう、多分、いや絶対。
「あの……す、すまない、なまえ、大丈夫……ではなさそうだな」
「……っは、は」
「一応その、加減はしたつもりなのだが、あの」
ひゅうひゅうぜえぜえ嫌な呼吸音が耳につく、ふかふかのベッドで仰向けに転がっている私の上に、覆い被さっているのは体格身長ともに規格外な文鴦。その体格から想像はつくと思うが下半身も規格外である。
顔を赤くしたり青くしたり忙しい文鴦は、イタリアの彫刻さえも羨むほどの体躯をさらけ出し、何もまとっていない。かくいう私も然り、そんな男女がベッドでとなれば想像される事柄はひとつ。
「……も、かんべ、んして」
「えっ」
情事に溺れ、弾け飛んだ理性をかき集めてはまたばらばらに、そんなことを何度繰り返したことか。底なしの文鴦とでも呼んでやりたいくらいに彼の下半身は全く静まる気配を見せないのだ。私はもうギブアップ、その旨を伝えるとひどく悲しそうな表情と切ない感嘆詞を押し付けやがる。
私に苦行を強いるのか。気を失いかけては引き戻され、ゆるゆると与えられ続ける快楽にいっそ殺せと極端な結論が出てくる始末。文鴦に至っては私に負担をかけ過ぎないようにという配慮から、自分にセーブをかけていたらしい。その結果がこれである。
私だけが何度も……当の本人は未だに達せず。
「なまえ……もう少しだけ、耐えてはくれないか」
捨てられた子犬のような表情に弱い私は、文鴦の潤んだ瞳にもはやノーとは言えなくなっていた。天然混じりな彼はこれを計算してやっているわけではないので余計にタチが悪い。さらさらと癖のある黒髪が溢れ、なんとも言い難い艶めかしさが漂う。
「なまえ……」
ああもうそんな目で見ないで、惚れた弱みか愛しさからか、普段わがままもそれほど多くない文鴦の限られたおねだり。今夜も仕方がないと肯定の意味を込めて彼の名前を囁いた。
20160616
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