short | ナノ
@逆トリ

摩訶不思議だの奇想天外だの散々はしゃいで質問攻めにしておきながら、最後は「この断続的な揺れ、なんだか心地いいね」とあれこれ始終懇切丁寧に説明してあげていた途中で彼は寝た。ナチュラルに寝た。

「なんか腹立つ」

私だって疲れて眠いんですけど。

聞こえているかいないかは定かじゃないけれど声に出して零した、別に聞こえていても問題はない、むしろ聞こえていればいい、本心である。嫌味だからね、通じているかどうかも定かではない。少しは私を労れ敬え気を遣え。

高速特有の橙色の照明、断続的な路面の繋ぎ目、少しばかり遠出をしたため自宅までの道程は長い、どうにもこうにも夜の運転は苦手だ。対向車のライトが異常に眩しく感じる、最近の車種のライトって眩しすぎじゃないかな。運転している側は見やすいけれど。

助手席で悠々と眠る彼、かなり昔の中国から突然入浴中の私の眼前に現れた満寵さん。日本史も危うい私がそんな人を知る由もなく、一度ググって途中まで読んで諦めた、いかんせん人物の名前が難しすぎた。地名も何もかも聴き慣れないものばかり。それでも歴史に残る人物なので当時はそれなりの地位にいた人らしい。

そんなことよりも私の至福の時、バスタイム中に現れたりするものだから叫ぶというコマンド以外がはたして出現するだろうか、いや、ない。

だから流れに任せて叫ぼうとしたんだけど、満寵さんは慌てず騒がず極めて冷静に、長い長い人差し指を口元にやって「しー」のポーズ、反対側の手で叫ぼうとした私の口を完全に覆いながら。はは、これは失敬!なんて笑い事にするんじゃない!

私も戸惑っているんだ、危害を加えるつもりはないし状況を整理させて欲しい。そう言われてジワジワやってくる恐怖に耐えつつとりあえず押し黙った。

そんな出会いから早3ヶ月、仕事をしながら満寵さんのお世話は大変かと思いきや、逆にとっても快適だった、何故かって満寵さんは主夫と化していたから。要領がよくて物覚えがよすぎる満寵さんはすぐに順応していた、料理に関しては目も当てられないが、家電やスマフォなどの電子機器の使い方をすんなりと覚えてくれたおかげだ。

なので凝った料理はキッチンが消滅するかもしれない不安が付き纏うけれど、レンチンやちょっとした焼き物炒め物程度であれば、すぐにそつなくこなせるようになっていた。

時代を超えてきたらしいことは未だに俄かには信じ難いが、あえて触れないようにしている。何故か過去から来た、歴史上の人物。それくらいしか知らないしあえて聞いていない、聞かなきゃ聞かないで満寵さんも別に何も言わないから。

それに現代科学に興味深々の満寵さんにあれこれ聞かれまくる毎日、満寵さんの時代のことを聞く暇がまずない。正直困ることも多々ある。本日は高速道路をテレビで見て行きたいとのたまう彼を連れて行くあてもなく愛車を出した。(少し窮屈だと言われたが無視をした)

彼は耳がいいのかいろんな音に敏感だ、さっきも愛車の変化に気付いて何の音かと尋ねられた。ルームミラーを一瞥すれば可変式リアスポイラーが立ち上がっている、多分これだろう。風を切る、というか風の流れの変化。正直よく聞こえたなと思う、運転しているのであればまだしも。

私の愛車は車速120kmを超えると普段は収納されている可変式のリアスポイラーが自動的にが立ち上がる、走行中の安定性を高めるために後部にダウンフォースを発生させてリフトを抑制するためのもの。一息に言い切ってみたはいいけれど満寵さんは首を傾げていた。

言葉、選び間違えたかな。

つまり、速く走るとこの乗り物は空気抵抗云々で浮き上がっちゃう構造をしているわけなんです、それを抑えるためにあの後ろの羽根みたいなものが上がっているんです。

理解したんだかしてないんだか。

空を飛べるのかい!?と興奮気味に聞いてきたけれどそれはさすがに無理ですよ、と笑って答えた。満寵さんは流れて移り行く景色に釘付け。

それでうとうとし始めてすぐに小さい寝息が聞こえて、全く行きたいっていうから連れてきても振り回されてばっかり、何だかんだ言いながら甘い私も私だけれど。

「本当に感謝しているよ」
「……はい?」
「なまえといると楽しくて、ついついあれもこれもってなっちゃうんだ」

起きてたんだ、寝てるものだとばかり思っていたから返事の声が上ずった、満寵さんは何が面白いのか目を閉じたまま笑ってる。

「いい時代だね」
「はあ」

意味深で意味のわからない呟きは大抵スルー、楽しかったと言っているんだね、きっと!と勝手に解釈して私は少しだけアクセルペダルから足を持ち上げた。

高速ランデヴー

20130627
20200713修正
 / 
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -