short | ナノ
自分にはこの状況をどうしたらよいか皆目見当もつかないのだが、いかんせんどうにかせねばならない。こんなことを言うのは忍びないが、あえて言うなれば……そう、司馬昭殿の言葉を拝借致して、めんどくさいとでも言っておこう。

「窮地を脱してやったことを感謝させてやろう、存分に私を賞賛するがいい」
「………」
「……鍾会殿、ご助力感謝申」
「トウ艾殿、少し黙っていてくれません?」

じとり、とそんなふうに形容できる視線を、鼻高々な鍾会殿に向けているのは我が軍の副将を任せているなまえ。

鍾会殿に自分が何かと目の敵にされていることは重々承知、更に彼がこのなまえに気があることも知っている。自分の何から何まで気に喰わない上に、好意を寄せているなまえが自分の副将であることも更に更に気に喰わない、と。

自尊心の高い鍾会殿であるから、自分から想いを告げるなど到底無理な話、それゆえについつい高圧的になってしまうのが常、ほんの少しだけでも素直になれれば万事が上手くいくと思うのだが、それを言って素直に受け入れる鍾会殿ではない。

「私を褒め、讃え、崇めるがいい」
「嫌です」
「なっ!?助けてやった恩を仇で返すつもりか!」
「むしろ仇すらも返しませんのでご安心を、それに誰も援軍の要請などしていませんし、鍾会様もさっさとご自分の持ち場に戻られてはいかがでしょうか?ね、トウ艾様」

そして何故そこで自分に振るのだ、頼むからやめてくれ、鍾会殿がいかにも悔しいというように外套の裾を、ぎちぎちと噛みちぎらんばかりの勢いで噛みつつこちらを睨み付けてくる。なまえ、頼むから自分を巻き込まないでほしい。

事の発端は敵の進軍中、奇襲にあった我が軍が少々の劣勢に陥ったことから始まる、緩急の激しい地形のため奇襲があることは承知の上での強行突破。

劣勢は否めない覚悟でいたわけなのだが、特になまえから誉めそやされたい感謝されたいあわよくば好かれたい鍾会殿が、なまえの窮地を知るなり光の速さで援軍に駆け付けた。

無論、そのような気持ちを気どられるのは自尊心が許さないためであろうあくまでも、たまたま近場を通り掛かったからもののついでに助けてやろうという素振りで。

このくらいの劣勢ならばなんてことなく、もとより素直(というか馬鹿正直)ななまえは鍾会殿が援軍に来るなり

『こんなところで何遊んでるんですか鍾会様』

そう言ってしまったものだから鍾会殿の自尊心はずたずただ、賞賛されるはずが逆に邪魔者扱い、少々捻くれているだけであって悪い方ではないのだろう。

だがなまえからしてみれば何となく苦手な人、と認識されていることが見て取れた。

「もしかして鍾会様、私達の手柄を横取りするために来たんですか?うわ最低」
「ち、違っ!トウ艾殿!なまえに何を吹き込んだんですか!」
「いや、自分は何も」
「そういうのやめていただきたいですね!なまえをそそのかすなんて……まさかトウ艾殿もなまえを……!?」

ああ、もうこれは何を言ってもだめだ。

全く聞き入れてくれない、もはやなまえも我関せず状態で口を開く気配は皆無、鍾会殿は相変わらず被害妄想と厭味の連発、どうしたらいいんだ。

20110317
20200422修正
← / 
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -