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鍛錬の合間、修練場の床に腰を下ろして他愛ない話に花を咲かせていたら、一緒に鍛錬に励んでいたやつの一人が、隣に座っていたやつのことを顎でしゃくって話し出した。

「こないだ、こいつ池に落ちて助けて溺れるぅうう!って騒いでさ」
「おい、その話はやめろって!」
「俺は泳げねぇんだよぉ!ってこーんな情けねえ顔してて、すぐにハッとした顔になったんだよ」
「……」
「実はその池、すっげえ浅くてよ!」

だっせえ!いや気付けよ!けらけらと笑い出す面々にバツが悪そうにする当人だったが、話の中心になれたことで満更でもない様子、それを見て一緒に笑いながら私は話を切り出したやつに注目していた。

あいつモノマネめっちゃ上手いな!

今のすごい似てたからもっかいやって!もっかい!釣られて囃し立てる外野にノリノリで応えてくれた、うんやっぱり似てる。

そんなことをしていたら、俺も俺もと何時の間にかモノマネ大会になっていて、私も渾身の持ちネタを披露。

「なまえできんのかよ」
「私の本気舐めんな」
「もっと違うところで本気出せよ」
「はい、じゃあ曹操様がつまらない執務を放り出して逃走したことに気付いた夏侯惇殿やりまーす」
「おま、微妙なネタだな」
「おのれ……も゛ー゛と゛く゛ゥ゛ウ゛ウ゛」
「ぶはっ、ちょ、そんな夏侯惇殿見たことねえけどなんかわかる」

でしょでしょ?私は実際見たけどね!曹操様の逃走劇と夏侯惇殿の追撃は実に愉快……いやいやごほん。

夏侯惇殿のネタは山ほどある、張遼殿もできるよ、ヤマダァアアって言ってれば段々似てくるから!でもそれよりもっと凄いのがあるんだ、渾身も渾身、見たい?と焦らせば皆ノリがいい、いいぞもっとやれ、と。

ふふふ、じゃあ見せてあげちゃおうではないか!

「それではいきまーす、戦場で遭遇した将が思いがけずあっぱらぱーなやつだった時の于禁殿の顔真似!」

物凄く嫌そう、かつ憎悪を全面に押し出すように顔に力を入れる、声真似はちょっと無理があるけどできる限りの低い声で「なんだ……お前は」とおどろおどろしく言ってみる。

「その雰囲気作りに並々ならない努力を感じる!」
「これはアリだな!」
「期待を想像以上に上回ったわ!」
「……ほう」

笑い過ぎてひーひー転げ回る皆にしめしめとしたり顔、鍛錬に疲れた時は笑うのが一番だ、ひとしきり笑っていると、突然皆弾かれたように立ち上がると、そそくさ身支度を始める。え、なに?もう戻るの?

「さ、さあて、俺は厩の掃除でもしてこよっかなあ!」
「あ、俺手伝ってやるよ!」
「ようし俺は城の外壁修復の手伝い行くかな!」

皆のただならぬ様子にふと嫌な予感、背後に気配を感じて予感が確信に変わる。

「なまえ……お前はこの後、暇を持て余すとみた」
「あ、あー……于禁殿じゃないですかァ!」

ひくひくと頬を引き攣らせる于禁殿、これもいつかネタに……じゃなくてやべえこっわ!見られたァアア!

「暇ならば私と手合わせせよ」
「え、いやあ、その、私も用事が……」
「なんだ、どのような用事だ」

凄まれた、物凄く凄まれた。

「あーいえいえやっぱり全然どうでもいい用事ですのであはは!それでは手合わせお願いしまーす!(うわああどうしようどうしよう逃げられない!)」

しっかりみっちりしごかれました。

今度于禁殿にモノマネする時は絶対于禁殿に見つからないようにしようと思いました。

ただの日常。
20131204
20200422修正
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