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学期末の試験を終えた放課後、帰ろうとした時に先生から呼び出しを受けた、何かをやらかした覚えはないし授業態度も成績もまあまあ、呼び出しを喰らうほど悪くはなかったと思う。

一体何だろうかと職員室に出向き、呼び出した張本人である諸葛亮先生の元へ行けば、いつもの胡散臭いあの微笑みを携えながら彼は私にこう言った。

『申し訳ないのですが、明日の授業で使う資料の仕分けをお願いします』

要するに雑用をしろと、やり方等が書かれたメモと資料室の鍵を渡され諸葛亮先生は、今から会議があるので後は任せました、とかなんとかぬかしてさっさと退散。

有無も言わせてくれず、拒否権もないときたからにはため息以外何が出ようか、鍵まで渡されたということは戸締まりもしろっていう意味、資料室って大体鍵が開いていて誰でも簡単に使えるしね。

ちぇっ、せっかく早く帰れると思ってたのになあ……。ぶちぶち文句を言いながら資料室へと足を運び、軋む扉を押し開ける。建て付けわっる!中に入って閉めようにも全然閉まらなくて、しまいにはイラッとしてついつい蹴っ飛ばした扉はおとなしくきっちり閉まった。

独特の埃っぽさが鼻をつき、西日で資料がだめにならないようにと、遮光カーテンで閉め切られた室内は薄暗い。

そんな中にうごめく人の気配を感じてよくよく目を凝らしてみると、見慣れた顔、クラスメイトの馬岱がそこに居た。こんな場所で思いがけない遭遇に緊張感がにじむ。

「なまえじゃん、やっほう!」
「何してんの?」
「それがさあ、聞いてよお」

箒を持っているから掃除をしているのはわかる、でも清掃時間はとうに過ぎているし、こんな場所を自ら進んで掃除するはずもない。

「若ってば、部活に遅れるのは俺の正義が許さーん!とか言いながら俺に掃除当番押し付けたんだよ、全くもう」
「ああ馬超先輩……っていうかそれでも掃除してあげる馬岱は偉いよ、私だったら放棄して絶対帰る」
「そういえばなまえは何しに?」
「私は諸葛亮先生のパシリ」
「ん?さっき見たけど、月英先生と仲良さげに帰って……」
「帰ったあ!?」

くっそあのやろ、自分が早く帰りたいがために面倒事を私に押し付けて下さりやがって!会議なんて嘘付きやがって!悔しい!

馬岱と私、二人揃ってツイてない。

「ああもうやめやめ、やってらんない」
「やるも何も、なまえはここにきてからまだ何もしてないよねえ」
「細かいことは気にしない!よし馬岱、帰ろう」
「いいのかい?後で怒られちゃうんじゃないの?」

そんなのお互い様、おあいこ。

構うもんか怒られる筋合いなんかどこにもない、馬超は掃除をサボったし、諸葛亮先生も自分の仕事を私に押し付けて帰っちゃったわけだしね。

さあ帰ろうと扉に手をかける。

「誰も咎めやしな……ん、あれ?」

薄暗い資料室の扉は建て付けがあまりよろしくない、開ける時も軋む音が耳障りだし閉まりが悪いから強く閉めないと閉まらない、さっきも室内に入ってから扉がきっちり閉まらずちょっと蹴っちゃったわけなんだけれども。

なんてこったい、開かなくなってしまった、何回ノブを回しても押しても引いてもびくともしない。

「馬岱いいい!」
「あっちゃあ……困ったねえ、閉じ込められちゃったよ」

資料室の場所は端っこ、通る人は資料室に用がある人のみだから、滅多なことがなければ通る人はいない。唯一の連絡手段である携帯は私も馬岱も教室の鞄の中。

「パシられるわ閉じ込められるわ、私達ツイてないなあ」
「確かにツイてないねえ」

ため息をつきながら資料室の椅子に力無く座り込む、馬岱も箒を片付けて隣に座った、心なしか楽しそうなんだけど……なんで?

「ニヤついて気持ち悪、なに?」
「ちょい!気持ち悪いってひどいよお!俺は最後の最後でラッキーだったっていうか」
「なんで」
「だって思いがけずなまえと二人っきりになれちゃったからね」

にへら、と笑う馬岱。急に何を言い出すかと思えば……なんなのなにこれ、考えれば考えるほど自惚れる方向に行くんですけど馬岱君、どういうことですか。

「こういうこと!」

呆然と馬岱を見つめていたら、あっという間に視界が馬岱の制服でいっぱいになる、ぎゅううっと抱きしめられて、今日はツイてるとかツイてないとかそんなことは一瞬で全部どうでもよくなった。

「つまり、俺はなまえが大好きってことなんだよね!」

そう言われてなんだか嬉しくなってきたから返事の代わりに、ぎゅううっと抱きしめ返したら顔は見えないけど馬岱が笑ったのがわかった。

20140103
20200422修正
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