short | ナノ
すっかり疲弊した兵達、もはや虫の息とも言える自軍の状況、暴君……呂布殿の勢いは誰にも止められない、それに従い似通った目付きの張遼殿もまた然り、血に飢えた獣、行く末は……想像したくもない結末が待っている。

頭の痛い状況を幾度となく乗り越え、なんとか打開してこれたのは全て陳宮先生の尽力あってこそだ。

「私の……私の話しさえ聞いてくだされば、ほんの少しでも私の策通りに動いてくださればあんな無様な負け戦など……」

しかしいくら策が素晴らしくとも、それに従い動かなければまるで意味がない、自由気ままに好き勝手な呂布殿、どれだけ強くとも多勢相手に単騎ではさすがに限界がある。

戦況の挽回もままならない。

「呂布殿の行動に合わせていては兵達が持たぬ……巧妙な駆け引き、巧みな伏兵、地の利さえも無駄にしてしまわれては……自ら死に急ぐも同然……」

束の間の休息、自室に閉じこもり休む間もなくひたすら策を練り続ける陳宮先生、どのくらいの時間が経っただろうか、ぶつぶつと独り言を呟いて、苛立ち無意識のうちに爪を噛む、がり、と嫌な音がしたかと思えば指先は赤く染まっていた。

構わず爪を噛み続ける姿をついに見ていられなくなり、そばへと歩み寄ると赤く濡れている手を極力優しく包んで声を掛けた。

「陳宮先生、少し休みましょう、ここであなたが倒れては元も子も」
「うるさい黙れ!」

甲高い声が荒げられ、包んでいた手が振り払われる、その拍子に血濡れていた手が私の頬をはたいた、乾いた音、同時にぬるりとしたものが頬を濡らす。

はたかれた場所が熱を持ち、緩やかな痛みがやってくる、音と衝撃に我に返ったらしい陳宮先生がようやく私の方を見てくれた、年の割に幼い顔立ち、驚愕から焦燥へと変わる表情が妙におかしく思えて口元が緩む。(こんな時に笑いが込み上げてくるなんてどうかしてる)

「なまえ……なまえ!ああ、なんということだ私は……血が……血が出ている!ああ、すまないなまえ、痛かっただろうに」
「落ち着いてください陳宮先生、これはあなたの血です、爪を強く噛みすぎて割れたんです」
「すまないなまえ、すまない、私は……私は!」
「ひとまず落ち着いてもう一度最初から策を考えましょう、今必要なものは休息です、お休みください、陳宮先生」

血が伝う指先にそっと唇を寄せる、その様子を食い入るように見つめ、陳宮先生のもう一方の手が私の顔に掛かった髪を耳に掛ける、そのまま頬に滑る手はひどく冷たい。

「しばし、休もうと思う」
「賢明な判断です」
「そばに、そばにいて欲しい」
「もちろんです」

険しかった表情がようやく和らいだ。

20131128
20200422修正
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