淡色エスポワール | ナノ

ルフランルフラン

少し前の後輩たちのお話。

くるくる変わる表情がくしゃっとした、見ているこっちまで幸せになれるような笑顔が印象的で、気が付けばずっと目で追っていた。

「ねえ文鴦」
「うん?どうした」
「私好きな人がいるんだけどさ、どうも彼女がいるっぽくてしかも熟年夫婦みたいに仲が良さげで私勝ち目ないっぽくてつらいんだよね、諦めた方がいいのかな」
「確かめたのか?」
「確かめてない、でもあんなに仲が良さげなら絶対付き合ってると思う」
「確かめもせずに決めつけるのはどうかと思うが」

ああ言えばこう言う、あんた他人事だと思ってるでしょ。同じクラスで片想い仲間の文鴦に、今日私は自分の秘めたる想いをカミングアウト。言っておくけどなんの脈絡もなしにこんなことを暴露したわけじゃないからね、私の好きな人の名前を聞けば文鴦だってうなだれること請け合いなんだからね!

「相手は夏侯覇先輩だからね、言ってる意味、わかるでしょ」
「……すまない、私が悪かった、つらい」

ずぅん……と鬱モードになった文鴦、巨躯をこれでもかと縮こめて湿っぽいため息を吐き出した。

文鴦にも好きな人がいる、それは学年がひとつ上の先輩で同じ委員会の人、一番最初の委員会の集まりの時に一目惚れをして、意を決して挨拶をしてみたところ反応は上々、委員会で何気なく話し掛けるたびに優しく接してくれるその人に、完全にノックアウトだったらしい。

だがしかしその人にはどうも彼氏がいるような雰囲気なのだ、それがまさかの私の好きな人、夏侯覇先輩。
あの二人、どこからどう見ても仲が良すぎる、ラブラブカップルというよりも、幾度となく襲いくる修羅場をくぐり抜けてきたような熟年夫婦、そんなイメージである。

「文鴦の方こそ、確かめたの?」
「それとなくは聞いたのだが……」
「うっそ勇者!それでなんて?」
「この間カウンター当番が被っていて、彼女の方からヴァレンタインの話題を振ってきたんだ」
「ああ、昔から文鴦って毎年すっごい追い掛けられてるもんね、さっすが天命ファイブの一員キャーカッコイイー」
「不本意なんだ、やめてくれ」
「ごめんごめん、それで?」
「たくさんもらえそうだね、と言われたから少々攻めてみようと、誰からも受け取らないつもりだと答えておいた」
「それで?」
「……それで会話が終わり、だった」
「うわあ、典型的な脈なしのパターンだ」
「しかし私は諦めずに少しずつ前進を試みた!」
「で、どうしたの」
「誰かにあげないのか、夏侯覇先輩には?と聞いてみた」
「結構直球に聞くねー、なんて返ってきたの?」
「お返し等が面倒だから誰にも……と」
「あの先輩見かけに寄らず面倒くさがりなのね、で、夏侯覇先輩にはどうだって?」
「ひどく驚いた表情で、あんなちんちくりんにあげるわけがないと言っていた」
「……なんか、ものすごい敗北感……夫婦だからこその余裕が窺えるんだけど……」
「……同じく」

文鴦と一緒にずぅん、と鬱モード突入、私達失恋組には暗い雰囲気がお似合いなのね……つらい超つらい。

「で、後輩」
「なに」
「結局のところヴァレンタインはどうするんだ?」
「あげたい、とは思ってるけど……文鴦は?逆チョコとか」
「……自信がない」

重なったため息、もう諦めちゃおうかな、脈がなさそうなのにいつまでもうだうだするのって想像以上にしんどい。夏侯覇先輩は本当に今まで出会ってきた人の中で一番素敵だと思えた人、出会ったのは入学式、自分のクラスの下駄箱の場所がわからなくて、うろうろしていたところに夏侯覇先輩が現れた。私はてっきり同学年だと思って話し掛けたんだっけ。


「あ、あの!」
「ん?どうしたよ」
「下駄箱の場所がわかんなくって……どっちに行けばいいかな?」
「入学早々迷子ってやつか」
「ち、違うし!」
「ま、この学校広過ぎだもんなー無理ないわ」
「君は何組?私1組なんだけど」
「え、俺?俺は1組」
「い、一緒?でも入学式にいなかったよね?」
「入学式って……新入生か!いやいやいや俺は1組っつっても2年な、2年1組」
「えっあっ、せ、先輩!?ご、ごめんなさい!てっきり同学年かと……!」
「俺、結構傷付いたな……」
「あの!ほんとにごめんなさい!って謝るのも失礼かもですけど!」
「ぷ、冗談冗談、お前焦りすぎ」
「……っ!」
「俺は夏侯覇、そっちは?」
「えと、後輩です」
「夏侯覇ぁ、せんせー呼んでるー!」
「いっけね、入学おめでとうな後輩!んじゃ、またなー」

あの日あの時見た笑顔は一生忘れない、私だけの宝物だ。
文鴦が横でなんとも言えない表情をしているけれど無視を決めてやる、あんただって例の先輩について話してる時、こんな感じだからね!人のこと言えないから。

20140326
20200422修正
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