子供の情景 | ナノ

時間を忘れて

オセロがこんなに楽しいものだとは知らなかった、なまえはおもしろいほど弱かった、次の手で取った数よりも多く取られるような場所ばかり選ぶ、本気で悔しがってる辺り本人は無意識のようだ、それにしても可哀相になるくらい弱い。そんななまえが5回目の負けを悟った時、思い出したように立ち上がった。

「着替えとか持ってくる!」
「は?」
「ちょっと行ってくるねー」

俺の返事も聞かずになまえは部屋を飛び出した、どういうことだ、まさかここで一晩明かすつもりなのか、正座はいやだ、あいつは一体何を考えているんだ。なまえと居るのは本当に楽しい、俺のことを友と呼んで土足で深いところまで入り込んでくる、嫌味のない遠慮のなさだから土足であったとしても全く気にならなかった。

今までずっとモノクロで味気なかった世界が一瞬でカラフルに彩られ、渇いていた感情が潤う、昔から俺にはいつもよくない噂がついてきていた、両親が自ら命を断ち、この根暗に等しい気質から好んで寄ってくる奴は居ない。

誰も俺を知ろうとしないが、俺も誰かに理解されようとは思わなかった、例え寄ってきた奴が居たとしても俺の風評を耳にした途端逃げるように離れていく、だからどうせなまえもそうだと。

一緒に居た時間は純粋に楽しいと思った、なまえの言葉はくすぐったくて心地良かった、だがぽつねんと独りになった今、あいつもどうせ今までの奴らと同じだと思わざるをえなかった。戻ってきやしない、期待はするだけ無駄だと。

卑屈になるのが常だったから。



「ちょーっとお邪魔するよー」
「……」
「あらら?田中と中田はどーこ行っちゃったんだ?」
「知らない」
「そんな落胆した顔してどーしたの、もしかしてなまえがきたとでも思ってた?」
「……」

突然部屋のドアが開いた、なまえかと一瞬でも期待した自分がいやだ、顔を覗かせたのはカカシ先生だった、落胆したのが顔に出てしまった自分にも嫌になる、カカシ先生は黙り込んだ俺に向かってにっこり笑いかけた。

「そうかそうか、まあ今回だけは大目に見てあげようじゃないの」
「……?」
「なまえなら心配ないから、あんまりハメを外し過ぎないよーに」

意味深な言葉を残して去っていく。

それから驚いたことに数分後に入れ替わりでなまえが頭にタオルを巻き付けた状態で周囲を気にしながら静かに戻ってきた。タオルの意味がわからない。

「いやー焦ったー!途中でカカシ先生がうろうろしてるからさあ、すごい遠回りしてきちゃった」
「……」
「で、同室の子に危うく殺されかけるとこだった!田中と中田はベランダに放置されてたけどなんだか嬉しそうで気持ち悪かったなあ」
「さっきカカシ先生がきた」
「うっそ!あっぶなー」
「なんで戻ってきた」
「え?だから着替えとか取ってくるって言ったでしょ」
「……」

不思議そうにするなまえにカカシ先生の言った意味がよくわかった、ほんの少しだけ期待をしてみてもいいような気がする、なまえの負けは確定だがまだゲーム途中で終わってないオセロが目の前にある。

「続きを」
「それもうやだ!負け確定でしょそれ!」
「まだ終わってない」
「うるさーい!」

中田か田中、どちらの荷物かはわからないが乱雑にオセロを放り込みなまえは強制的にゲームを終わらせた、勝っても負けてもゲームの行く末なんかどうでもいい、目の前になまえが居るだけで俺は心の底から十分楽しいと思えたから。

20121229
20201207修正
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