子供の情景 | ナノ

期待していいんだよ

「ぐぬぬぬ」
「……」
「今に見てろよカカシ先生このや、ぐうぅだめだなまえさん死にかけてるつらい」
「……」
「我愛羅は微動だにしてないけど平気なの、足」
「……いたい」

あ、微動だにしたくないわけね、なるほど納得、びりっびり静電気を流し続けられているような錯覚に陥ってる真っ最中の我々は二人仲良く正座中です。

死に物狂いでひた走り、15分掛かるホテルまでの道程を5分にまで縮めてやりましたよ、こっそり入ってさりげなく紛れ込めばバレないでしょうよ、なんて考えはお子様用の甘口カレーよりも甘かった。

ホテルの入り口にはすでにカカシ先生がお立ちになられて「ハイ、二名様ご案なーい」なんて別室に直行、ねちねち厭味混じりに集合時間は守らないとねえって腹立つ笑顔で怒られて、2時間正座の刑。

夕食は別個で取っておいてくれるみたいだけどせっかくバイキングだったのに、ちぇっ!残り10分、すでに足の感覚なくて自分の足が今どこにあるのかすらも謎な感覚、しばらく立てなさそう。

そろそろ10分経ったかなと思った頃にカカシ先生が夕食を持ってきた。

「はぁーい二人共お疲れさん、夕食の時間はとっくに過ぎてるからここで食べてから部屋に戻るよーに」
「はーい……チッ」
「ああそうか、なまえはデザートいらないのね、おいしいおいしいフルーツタルト他諸々ケーキなのになあ」
「うわぁい!ありがとうカカシ先生って優し過ぎて涙出るー!」
「よろしい、じゃ、俺は見回り行ってきますかね」

トレイに乗せられた夕食はオードブル、デザートにいろんな種類のケーキっていうのは本当だった、たまに嘘かホントかわからないこと言い出すからねカカシ先生は。トレイを置いたらまたすぐに出ていったカカシ先生の背中にあっかんべーをしたら不意に振り向かれた、慌ててそっぽ向いて夕食に手を延ばす。

しかし痺れの切れた足のせいで延ばした手は空を掻いた、そうでしたなまえさんは足が死にかけでした。うごああ!と乙女としてあるまじきダミ声が出る、あれあれ?我愛羅はいつの間にか普通にしてるし!

「復活早いな我愛羅!」
「まだ痺れてるのか」
「うん、そ……いででで何すんの!」
「早く痺れが終わればと思って」
「そこは放っといていいから!突かなくていいから!」
「でも」
「でもじゃなくて、やめいだだだだ!わざとでしょ面白がってるでしょ我愛羅このや、ぎゃあ!」
「これは俺の親切心」

あまり変化のない我愛羅からは、ふざけてるのか素なのか判断がしにくい、どっちにしろその親切心はいりません。それでも我愛羅の荒療治のおかげさまで痺れはだいぶ楽になってきた、ゆっくり座り直してケーキに手を延ばした。

「デザートは最後と相場が決まってる」
「ええー!」

延ばした手をぺちりと叩かれ、代わりにグラタンを渡された、仕方ないなあ。あ、でもこのグラタンおいしい、黙々と食べる我愛羅は何を話すわけでもなく食事をする、とりあえず「おいしいね!」と話し掛けてみたが反応は薄く「ああ」しか返ってこなかった。

なんだそれつまらん。

会話はキャッチボールでしょうが、投げたら取るだけじゃなくて投げ返してほしいわけですよ、このグラタンソースはほにゃほにゃ高原のなんたら牛から搾られた特濃牛乳が使われてるな!なんて高度な変化球はさすがに無理だけど。

我愛羅が投げ返してくれるまで私、投げます!無言の食事は堪えられません。

「我愛羅そのハンバーグ一口ちょうだい」
「ん」
「わーい」
「……」
「じゃあお礼にマカロニあげる」
「いらない」
「あ、そう」
「……」
「我愛羅お茶いる?」
「いる」
「はい、どーぞ」
「すまない」
「いーえ!」
「……」

会話、我愛羅、会話!ぶつ切りにされてる感が否めないね、それキャッチのみだね、投げ返せよ会話にならねーよこれ、単なる受け答えじゃないか!むぎぎ!奮闘する私を不思議そうに見る我愛羅にでこぴんの刑。

「……いたい」
「ねーねー」
「ん」
「つまんないからなんか面白いこと言ってよ」
「は」
「無言で食べてたってつまんないでしょうが」
「そんなこと、言われても」
「我愛羅の持ちギャグ披露してよねえねえ」
「そんなの、ない」
「しょーがないなあ、じゃあ次までに考えといてね」

考えとく、と静かに言った我愛羅はきっと真面目に考えてくれると私は予想する、真面目に考えすぎて寒い寒い親父ギャグになりそうだから今のうちに身構えとくよ、笑う準備ね、例えつまんなくても。

黙々とカカシ先生が持ってきてくれた夕飯を完食した、ほとんど我愛羅が。やっぱ育ち盛りは違うね!並々ならぬ食欲に若干見ていて気持ちが悪くなったよ。おえ。

「あれ、我愛羅どこ行くの?」

立ち上がる我愛羅に尋ねれば言ってる意味がわからんとでも言いたげに変な顔をされた、えー私も意味わからん。

「部屋に戻るんじゃないのか」
「うっそ我愛羅すんなり部屋に帰るとか馬鹿なの?」
「……」
「あ、ごめん睨まないで」
「じゃあなまえはどうするんだ」
「普通誰かの部屋に遊びに行くでしょ!」
「……」
「そんなわけで我愛羅の部屋って何号室?」
「また正座するのはいやだ」
「私は115号室ね!」

私の部屋番号教えたんだから教えてよ。渋る我愛羅は、もう正座はいやだとしか言ってくれない。

「えー!なんでなんでー!」
「何度言えばわかるんだ、俺と、居たら」
「なんですってー?」
「だから、俺と!」
「あーむりむりなまえさん今は我愛羅の部屋番号以外聞こえなーい」
「……」

全く頑固なやつめ!他にどうやって聞き出そうかと試行錯誤……と、考える間もなくいいものを見つけた、ここはカカシ先生と、あと暑苦しいうざめのガイ先生の部屋。(ダンベルを見つけたから間違いない、ガイだけに)

でかでかと「青春」の文字入りのボストンバッグは絶対ガイ先生のだ、そこからちらリズムしている冊子は修学旅行の生徒の名簿、三日間のホテルや旅館の部屋割りと班割りが載ってるやつ。

「ふはは!ゲジ眉マヌケ過ぎてうける!」
「!?」

お宝発見です、急に笑い出したから我愛羅がびっくりしてこっちをまじまじ見てた、ガイ先生のボストンバッグをちょっとだけ失礼して中身をがさごそ漁る、お目当ての部屋割りと班割りの冊子をめくって我愛羅の部屋割りと班割りを失敬した。

ふむふむ今回の部屋は567号室ね!同室は、ああ、田中と中田か。紛らわしい苗字しやがって。

「よしじゃあ567号室行こっか」
「!?」

心底びっくりしたらしい、我愛羅は私のしたことを瞬時に理解してまた正座はいやだと繰り返した、私だっていやだからせいぜい見つからないように協力してね、我愛羅の手を取ってカカシ先生とガイ先生の部屋を出た。我愛羅の同室のやつらはちょっと脅……じゃなくて頼めばきっと快く私を受け入れてくれるであろう、あの二人は私と同じ部屋の子に惚れちゃってるからね!それをエサ……じゃなくて情報を提供すればいい。

先生達に見つからないようエレベーターは使わずに非常階段から上へ上がる、我愛羅を先頭に567号室のドアをノックすれば中田と田中が「へいへい」と返事をした、心なしか我愛羅は全体的に強張っているみたい。緊張?

「先生さっき見回り来たば……が、我愛羅、か」

気怠そうにしていたやつの顔も一気に強張った、中にいたやつが我愛羅の名前を聞いてものすごい顔で振り向いた、何この我愛羅に対する態度、失礼なやつらだな。

怯え、嫌悪、我愛羅に向けられる様々な感情は全てマイナスばかり、そうなる所以がわからない、たぶん全部噂がそうさせているのかもしれない。気まずい雰囲気の中我愛羅の後ろから私がひょっこり顔を覗かせれば田中と中田は驚きながらもあからさまにほっとしてた。

「ちょっと何だその顔は田中てめえ」
「いや俺中田」
「どっちでもいいし、そこの中田!今我愛羅に向かって変な顔しただろベランダから紐なしバンジーね」
「俺田中、っつーか死ぬ!紐なし確実に死ぬ!なんで、なまえが我愛羅と一緒に?」
「察せよ愚民共め、マブだ!ふふん」
「マブとか死語だろ」
「初めて聞いたわ」
「黙らっしゃい」

我愛羅が不思議そうな目で私と田中田を見た、若干の羨望混じりな視線、本当は田中田の二人を追い出さなくてもいいんだけど今日は修学旅行だし、こいつらにいい思いさせといて貸しを作っとくのも悪くない。こっそり湧き出てた私の使命感、新たな友達我愛羅と仲良しさんになって我愛羅も私の友達と仲良しさんになる。

友達が多いに越したことはない、それに我愛羅はいい子だ、私といいコンビになれる気がする、淡い色の瞳がすごく綺麗でちょっと見惚れたことはこれが最初で最後の内緒話。

「とにかくお前らちょっと部屋を明け渡せくださいませ」
「相変わらず横暴なのか丁寧なのかわかんねえな」
「つーか俺らはどうすりゃいいんだよ」
「大丈夫だ問題ない、私の部屋は115号室なんだけど同室が伊代たんと美代たんなんだよねー」
「おいなまえ、うまくやれよな!」
「そういうことなら早く言えよ、協力もなにも全力で任せろ」
「……」

田中田は途端に目の色を変えて部屋を飛び出していった、お前らこそうまくやれよな!現金な奴らめ。我愛羅は呆然としてた、ちなみに伊代と美代は双子の姉妹、すごく可愛い、私を放ってったことは許さんがふざけた軽口を言い合える仲、うーんきっと明日怒られちゃうな、私。伊代も美代も田中と中田が嫌いだからね。

ま、明日のことは明日考えよう、今は目先の物事を考えて楽しむべきだ、田中と中田が残していったお菓子とオセロやらトランプ、付けっぱなしのテレビをひと通り見回して我愛羅に視線を移す、何しよっか!

「正座は、いやだ」
「まだ言ってんの?へーきへーき」
「でも」
「仲間が居るし、同罪の奴らがね、最悪ばれてもあいつらに罪を被せちゃえばいいんだからいーの」
「陰険」
「何とでもどうぞ、よし我愛羅オセロやろ!」

やりかけだったらしいオセロの白黒の比率を同じに戻す、どっちが黒だったかはわからないけど黒が圧倒的優勢、今度は白を優勢にしようじゃないか。迷うことなく私が白を選んで我愛羅が黒。

「はあ」

ため息をつきながらも我愛羅は素直にオセロの前へと腰掛けた、案外乗り気のようだ、なんだかんだでやっさしー!意気揚々とゲームを始めたはいいが、結局私は我愛羅から一度も四隅を取れず、どんでん返しも不可能なまでにぼろ負け続けてた。

何このオセロ楽しくない!でも我愛羅が想像以上に楽しげにしてるからそれはそれでいいや。

20121228
20201207修正
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