子供の情景 | ナノ

ねえ、笑って。

楽しいはずの修学旅行で窮地に陥りました、ホテルに到着して夕食まで自由時間があったから友人達と辺りをぶらぶらしようと外へ繰り出した時に事件発生。

観光地ということもあって人が多い、だからこれは人通りが多いせいだ、むしろみんなが私とはぐれたんだ、私は決して迷子じゃない。気付いたら見知らぬ観光地で独りぽつねん、やばいと思った時にはもう手遅れ、極度の方向音痴な私は一人だとホテルに帰れねーよ、来た道なんか覚えてねーよどうしようよ。

必死に来た道の記憶を手繰り寄せようとしてみたけれどまるで手応えなし、全然思い出せない、頼りのスマフォはホテルに置いてきたスーツケースの上、ぶらぶらするだけだからとお財布さんも一緒にお留守番。

お金がないから公衆電話も使えない、お店の人に電話を借りようにも自分以外の電話番号なんか覚えてるはずもないわけで、究極のピンチに陥っている。(便利になり過ぎた世の中も考えものよねとか悟ってる場合じゃない)

更に雨まで降ってきやがって!

「だがしかしめげないもんね!なまえさん折り畳み傘だけは持ってるんだなあ、これが!」

じゃーん!と鞄から取り出した折り畳み傘、何故スマフォも財布も入れず折り畳み傘だけを鞄に入れたのか、自分でも甚だ疑問である。まあいいやそこだけはラッキーってことで。

独り言による周りの冷たい視線なんて何のその。賑わう出店通りを折り畳み傘をさしながら闊歩する、傘がなくて慌てて避難し始める人達にこっそりほくそ笑んだ。ざまみろ。

「でも帰り道わかんないからあんまり笑えないな、この状況」

あてもなく見覚えがあるような、ないような道を行ったり来たり、友人達を探しつつウロウロしていた矢先、自分と同じ学校の制服を着ているやつを発見した、やったね奇跡!これで帰れるゥ!スキップで駆け寄れば、彼は私に気付いたようで、ぎょっとした表情を見せてくれた。

おい、なんだその顔は。

「どこのどなたか同じ学校であることしか存じ上げませんけど、どうかこの私とホテルまでご一緒させろください青年!」
「……」
「こっちガン見のくせにガン無視か!」
「……」
「おい青年名乗るがよいぞ!」
「……」
「私はなまえである!」
「……」
「……え、ちょ、どこまでガン無視?聞いてる?私の声聞こえてる?」

どうしよう青年どうしよう、これ新しいいじめかな、青年にガン見されながらガン無視って何これ新しい!苦痛の新境地かよやめようよつらいじゃないの、いじめいくない。

向こうがガン見するからこっちもガン見し返すんだけど、はて、この青年どこかで見たことあるぞ。(同じ学校だから見かけたことくらいあるのは当たり前だけど)

おでこにある『愛』っていうタトゥーみたいなものに見覚えがある気がする、あれは彼にとって自らを主張するものなのだろうか、粋がる不良君達がこぞってリーゼントにするみたいな。え?例えが古い?

うむむ、私にしては珍しく名前を思い出せそう、3文字くらいだったような気がする、私ってば友達の名前さえも間違えちゃうお茶目さんだから完璧に思い出せる確証はない、どこで見たっけ?なんで見たんだっけ?

「えーっと、うーんと」
「……」
「ポプラ?いやそんなポワポワした名前じゃないか、モスラ?あれは蛾だよね、うーんドアラ?キメラ?……あ、ガメラ?」
「……我愛羅」
「があら……おお!我愛羅!そうそう我愛羅だ我愛羅!」

思い出した。

見たわけじゃない、いろんな人づてにいろんな話を聞いてたんだ、両親を殺したとか目が合っただけで殺されるだとか、髪が赤いのはボコしてきたやつらの返り血のせいだとかそんな感じのやつを諸々、っていうか髪の色が返り血ってあり得な過ぎて笑える、どんなネタ話ですか。

全部所詮噂話、今だってお互いガン見だけど我愛羅は私のことボコボコにしたりしてないし。でもなんでそんな噂話が出来たんだろ、不っ思議。

「なんで話しかけた」
「なんでって私迷子……じゃないや、ホテルまでの道のりがわからないから我愛羅君一緒に行けください」
「横暴なのか謙虚なのかどっちなんだ、迷子のなまえ」
「迷子じゃないし、ホテルまでの道のりがわかんないだけだし」
「迷子だと自分で言った、どっちにしろ意味は同じだ」
「だから迷子じゃないってば、このわからんちん」
「……」

あ、やばい。機嫌損ねちゃった?我愛羅がだんまりしたことによりいつも一言多い自分を再確認、訂正する気はさらさらないけどたまに反省したりすることはある、ごくたまにね。

我愛羅はだんまりしたまま私から体ごと視線を外して横を向いた。徹底的に無視する気かこんにゃろ。

「えーウソー!」
「マジだってばー」
「次どうすんの?ホテル帰る?」

我愛羅がそっぽ向いてからすぐに、楽しげに談笑しながら男女数人のグループが前を通過、彼らも折り畳み傘を持っていたようだ、通り過ぎざまに我愛羅を一瞥して横に居た私にも視線が刺さる、探るような勘繰るようなちょっとヤな感じ。

あの我愛羅ともう一人の子、どういう関係?確か隣のクラスのみょうじなまえって子でしょ、友達?仲いいの?たまたま雨宿りして鉢合わせたんじゃね?うわ災難。

少し聞こえた会話はすごくヤな感じ。

「何あれ感じわっるー」
「早く帰れ」
「腹立つ!……え」

横を向いたままの我愛羅はあまり唇を動かさないようにしながら呟いた、いきなりなんてこと言い出してるのこの子は、君が頼りなんだよ我愛羅君、私は一人でホテルに帰れないんだよ、それともなんだ、ホテルに帰れない私を内心嘲笑ってんのか。なんとか言いたまえよこっち向けこのやろ。

一向にこっちを見ようとしないから、それにも腹が立って我愛羅の肩を掴む、むりやりこっちを向かせたら我愛羅はちょっと瞳がうるうるしてた。

えええ、なんで我愛羅が泣きそうなんですか、帰りたいのに帰れない私が泣きたい方なんだけど!

「え、な……泣きたいのは私の方なんだけどなー!」
「……」
「ほ、ほーら我愛羅くーんこっち向いてー?いないなーい、ぶわあ!」
「……っ」

うわー!どうしよう本格的に泣いちゃったどうしよう我愛羅には効果がないようだどうしよう、必殺子供騙しはまるで通用しなかったらしい、結果的に私が恥ずかしいだけの技でした。

20121228
20201207修正
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