子供の情景 | ナノ

私はそろそろ学習した方がいいかのかもしれない。

「……たい焼き冷めちゃう」

そうじゃなくて、来た道を覚えるとか、ねえ?

のらくら

ああ、また怒られる。勝手に飛び出して勝手に迷子。みんな探してくれてるのかな、いやまたかよ!って呆れて放置されてそう。悲しいかなすごくありえる。たい焼き屋さんから少し離れて路地をうろうろしてみたり、全く見覚えのない表の通りを見回したり。
うちの学校の制服を着た人は誰もいなくて、なんで誰もいないんだよ!と勝手にキレたくなる始末。あっちでもないしこっちでもない、やっぱりうろうろしないでたい焼き屋さんでみんなが呆れながらも探しに来てくれるのを待っていた方がいいのかな。

うん、それがいいそうしよう。たい焼き屋さんの前で待っていようと振り返れば、たい焼き屋さんはいずこ?あらら?うろちょろし過ぎて見失ってしまったらしい、なんてことだ!
き、きっと進行方向と反対に行けば戻れると思う、きっと大丈夫。ローファーの踵が石畳を不安げに鳴らして不規則なリズムを刻む。

しかし行けども行けども目当てのたい焼き屋さんは見当たらなくて、そもそも匂いを辿ってきたんだから行けないはずがないというのに。なんでだろ、少し考えてはたと気付く。
辿ったたい焼きの匂いが目の前からする、言わずもがなさっき買ったやつである。多分この手元のやつがあるおかげで私の鼻は混乱しているんだ。

……どう、しよう。

ぽつねんと見知らぬ土地で独り寂しく佇んだ。急に不安と恐怖に苛まれる、みんなが見つけてくれなかったら、置いてかれちゃったら、帰れなかったら……どうしよう。
後悔したってどうにもならない、 本気で反省しているしみんなにすごく迷惑を掛けてるってことに今更ながらに気が付いた。思い立ったらすぐ行動は時に悪い癖にもなる、途方に暮れながら情緒あふれる古民家の軒下で足を止めた。

たい焼きのいい匂いが余計に寂びしい気持ちにさせてくる、みんなで食べたかったんだ。はふはふしながらおいしー!って笑いたくて、ただそれだけだったんだ。大きく息を吸い込んで深々とため息、みんなとはぐれてからどのくらい経ったかなあ。
ふと携帯を取り出して時間を確認すれば15分ほど経過している……ってあれ?私スマフォ持ってる、そうだよスマフォがあるじゃないか電話すればいいじゃない!

「うわー私ってすっごいバカー!」

さっきの寂びしい気持ちはどこへやら、急におかしくなってきちゃって一人で笑いながら電話帳を開く。するとディスプレイが着信画面に切り替わって画面いっぱいに「我愛羅」の文字が表示された。我愛羅だ!

「もしもし我愛羅?我愛羅たち今どこ」
『このバカ!そっちこそ今どこなんだ!』
「っ、ご、ごめん……えっと」

安心しきって電話に出た、通話口の向こうからは怒って声を張る我愛羅がまくし立てるようにしゃべっている、奥の方では美代か伊代のどちらかが、我愛羅くん少し落ち着いてと言っていた。

「えと、古民家が並んでるとこ」
『この辺りはほとんど古民家だ、他に目印のようなものはないか』
「目印……あ、櫛とか簪とか売ってる小物屋さんがある!」
『わかった、いいか絶対にそこを動くな、絶対だ』
「うん」

返事をすると通話がすぐに切られ、スマフォのディスプレイはホーム画面に戻っている。似たような古民家がならぶ周辺を意味もなく見回した、みんなどこからくるのかな。
まばらな人通りのおかげか、辺りは静まり返っていていくつもの足音が聞こえてくるのにそう時間はかからなかった。存外近い場所にいたらしい、足音は後ろの方から聞こえてくる。振り向こうとしたところでぐっと制服を引っ張られた。

「え、わっ!」
「……」
「えと、我愛羅?」
「……よかった、見つけた」

後ろに倒れ込みそうになったけれど、それを支えるように後ろから我愛羅に羽交い締めにされていて、無様に転ぶような事態にはならずに済んだ。
深くて大きいため息が背後から聞こえて何も言えなくなってしまった、この状態がとてつもなく恥ずかしいものだとわかっていても、我愛羅の重々しい雰囲気には到底勝てるはずもない。

何度もつかれる短いけれど深いため息、じっと黙ってそのままでいると何故か我愛羅は引き攣ったような音を喉の奥から出して大袈裟にもほどがあるくらいの勢いで私から一気に距離をとった。我愛羅自身ひどく驚いた顔をしているけれどこっちも、他の4人も突然のことに間抜け面である。

「わ、悪い、独りの辛さは俺も痛いほどよくわかっているから、その、や、やましい気持ちは微塵もない!」
「え、あっ、うん!心配させてごめん!」

妙な雰囲気になってしまって焦って赤くなっている我愛羅につられてこっちまで照れてしまう、このまま無言状態になってしまうのはいささか気まずい。ふと抱えていたたい焼きのことを思い出して、たい焼きの入った紙袋をずいと前に掲げた。

みんなごめんね、私いつも突っ走っちゃって迷惑ばっかりかけちゃって、お詫びのしるしといったらなんだけど一緒にたい焼き食べよう。少し道から逸れたところにちょうどいいベンチを見つけてみんなでそこに座って休憩がてらたい焼きを食べることにした。

伊代も美代もなまえは昔からそそっかしくて無鉄砲だけど底抜けの明るさと能天気さがあるから憎めないのよね、とくすくす笑う。横暴で時々むちゃぶりもしてくるけどな、と田中と中田が付け加える。悪口の比率の方が多いけど全部本当のことだから何も言い返せないぐぬぬ。

冷めちゃっていたけどこうしてみんなで食べるたい焼きは格別に美味しかった。

「我愛羅」
「なんだ」
「あんこついてる」
「ん、ああ、すまない」

黙々と食べる我愛羅の口の端にあんこがついているのを見つけて親指で拭おうとしたら、我愛羅が少し唇を動かしてそのまま舐め取った。なんだろうちょっとお腹の底辺りがキュッとなる、妙に色っぽく見えたんだけど。

「どうした」
「なんでもないよ」

じっと見つめていたら我愛羅は不思議そうに見つめ返してくる、結局理由はよくわからないけどあえて聞こうにもどう聞いたらいいものか、言葉選びが間に合わなくて適当にはぐらかした。

20201208
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