一大事、事件簿
ポツンと私はそこにいた。
「……ここどこ?みんなは?」
冷や汗たらり。
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遡ること、待ちに待った自由行動開始の直後、若干人目を憚り我愛羅を捕縛して、私達は修学旅行前に決めておいた従来の行動コースから大きく逸れた。
私と同じグループの美人の双子、伊代と美代は特に気にした様子もなく周辺地図を眺めながら、あの店行きたいこの店どうかしら、とノリノリである。
捕縛した我愛羅といえば私に引きずられるようにしてついてきており、同じグループの田中と中田のややこしいコンビは美人の双子に釘付け。感謝したまえよと視線で訴えたが全然気付きやしない、このやろ。
最初こそ我愛羅に怯えていた4人だったけれど、しばらく一緒にいることで恐怖心も遥か彼方。
そりゃそうよ、我愛羅は別に怖くもなんともない。噂はただの噂、だってみんなが考えるよりも我愛羅は誰よりもうんと優しいいい子なのだ。
「抹茶ソフトおいしー!」
「……なまえ」
「うん?」
「付いてる」
「え、どこ?」
「ここ」
「ん?」
「ほら」
「ありがと我愛羅」
こんなふうに口元のアイスを拭いてくれる我愛羅マジお母さん、遊園地に来てはしゃいでる子供をたしなめるママさながらである。(ぎょっとしていた4人は無視した)
そんなこんなで割と楽しく行動していて、みんなお互いに普通に軽口を叩けるようになってきた頃のこと。ふんわりふわふわ漂ってきたスメルに私の足はふらふらと揺れる。
たい焼きだ!食べたい、たい焼き食べたいよ我愛羅、ねえねえみんな!たい焼き美味しそうだよ。
「なまえよお、さっきから食ってばっかだなお前」
「ほんと食い意地張り過ぎてるよね」
「中田も美代もうるさーい、美味しそうなんだもん、ほら我愛羅も食べたいって」
「俺は何も言ってない」
何このコントみたいな息ぴったりのノリツッコミ、我愛羅なんかキョトン顔だから突っ込んでるはずなのにボケみたい。
こういう時の我愛羅は優しくないのである、美代と田中は太るだなんだって言うし、いいじゃないちょっとくらい羽目を外したって!
いっぱい歩いたしもっと歩く予定でいるわけだから、このくらい平気だもん。我愛羅ー我愛羅ー!と駄々をこねくり回す私に我愛羅本人はだいぶ困惑している様子だった。
「いいもんねー私が人数分買ってきてあげちゃうんだからー!」
「あ、おいなまえ!」
呆れる周囲の視線もなんのその、自分でも褒め称えたいくらいの瞬発力を見せるかのように、スーパーダッシュ。
あっという間にたい焼きを買ってきてみせた、きっとあの時の私はあまりのたい焼きの食べたさに取り憑かれていたんだと思う。
店の位置もよくわかっていないのに匂いと勘で猛進したのだから。
結果、たい焼きを買って振り向いたら帰り道が全くわからないという恐ろしい事態に陥って冒頭に戻る。
なにこれつらい。
20150109
20201207修正
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