一番気怠い水曜日。
「ぼく、なまえがすきだよ」
「うん、私も好きだよー」
「ほんとに、本っ当にだいすきだよ!」
なまえはずるい、ぼくばかりだいすきな気持ちがたくさんありあまってる気がするんだ。たくさん言葉にすればするほど意味がなくなっていくような気がしてしまうけれど、やめるわけにはいかなくて、なまえは知ってるよ、とかもちろん!と、ぜんぶにうなずいてわかってくれてるみたいだけど。
ひらひら舞う花びらや蝶々みたいに上手いことかわされて、はぐらかされてるみたいで……。知っててくれることはとっても嬉しいけどそうじゃないんだ、なまえのすきっていう気持ちも、もっとぼくにぶつけてほしい!
そう思うのはわがままなのかな、しつこいときらいだよって言われちゃうかな。どうしてだろう、なまえはぼくに遠慮しているように感じちゃうんだ。
「大きくなったぼくは、なまえの、恋人……なんだよね?」
「そう、風影でね!」
未来の自分が羨ましい、こんなにもなまえに想ってもらえてきらきらした瞳でうなずく姿がまぶしい、ぼくもなまえがだいすきなのに。未来のぼくと今のぼくは同一人物らしいんだけど、ぼくには全然実感も何もないからすごく不安で仕方がない。
こんなぼくが風影になってるなんて。
恋人ができてるなんて。
ここに来てから不思議なことばっかりだ、里の人は誰もぼくを邪険にしたりしないし(なまえがいるってこともあるのかな?)ぼくの中にいるはずの守鶴は怖いくらいに静か、なまえが言うには今のぼくに守鶴はいないんだって。
「なまえ、なまえ」
「んー?今日の我愛羅は甘えたさんだねー」
ぼくは、だれ?
本当に我愛羅?
ぼくは、どこからきたんだっけ。
「こわい」
「我愛羅?」
「なまえ、こわ、い」
「我愛羅!?」
なまえにしがみつく、ここはぼくのいるべき場所じゃないの?なんにもわからない、ただただ怖いと思ったんだ。絶対に剥がされないくらいに強く服を握り締めてなまえの体に顔を押し付ける、すり寄ればあやすように優しい手がしっかりと抱きしめていてくれる。
「大丈夫?我愛羅、どこか痛い?」
「なまえ……っ」
「うん?」
「どこにも……いか、ないで」
「大丈夫、私はここに居るから、傍に居るよ」
離したくない離れたくない、臆病なぼくはすがることしかできないんだ。どこにもいかないでと懇願するしか、他にどうすることもできない、弱いぼく。
20130416
20201207修正
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