WEEKLY☆KAZEKAGE | ナノ

「う、うそ!」
「ほんとほんと、君は将来風影になってるから、そんで私のこと大好き過ぎて任務でしばらく会えなくなるとサボテンのことなまえって呼んで話し掛け始めんの」
「……ぼく、はずかしい」
「言えるものなら未来の我愛羅に言ってあげたらいいと思う、私も恥ずかしい」

消毒と手当てを終え、簡単だがシュガートーストとホットミルクを与えたら我愛羅は随分と懐いてくれた、いや元々懐いてたから懐き直したって言った方が正しいか。この頃はまだそれほど荒んでいなかった時期のはずだ。服は私のお古で申し訳ない、着なくなった七分丈のズボンを折って履かせ、一番サイズの小さいTシャツを着せた。

どこからどう見ても愛くるしい、あどけなさがとにかく可愛い。我愛羅は床に届かない足をぷらぷらさせながら椅子に腰掛け一生懸命トーストを頬張る、食べる前に手を合わせて律儀にいただきますと言う仕種がひたすら可愛い。もう何しても可愛いとしか言えない自信がある。

しかし、記憶まで逆成長したものだから我愛羅の身に起きたことを説明するのは困難を極めた、ただ恋人云々の説明はすんなり理解した上に恥ずかしげもなく、元に戻ったら結婚もするんだね!と言い放ったから驚いた。天然小悪魔め。

「ふむ」
「ど、どうしたの?」

我愛羅を見つめて考える、この状況を誰にどう説明するか、未だ我愛羅をよく思っていない上役達がこれを知ったら、やれ好機!大盤振る舞いとばかりに刺客を投入することは目に見えてる、だからと言って何でもかんでも我愛羅に洗いざらい話して風影としての職務を全うさせるのも酷な話。

とりあえずテマリとカンクロウには伝えておくのが妥当かな。

「よし我愛羅、姉と兄に会おう」
「誰の?」
「我愛羅の」
「……え」
「テマリとカンクロウ」
「……」
「会いたくないの?」
「だって、あんまり、会わせてもらったこと、ない」

みんなぼくのこと怖がるし嫌いだから、きっと会ってくれないと思う、一緒に居てくれたのは夜叉丸だけだったよ、でも一緒に居てくれるのはなまえで二人目、そういえば夜叉丸は、どこ?

純粋な疑問、まさかすでにこの世に居ませんなんて言えない、夜叉丸は只今席を外しております、果てしなく長い長期任務のため。上手くぼかして言ってみたが我愛羅は寂しげに頷くだけ、夜叉丸の代わりにはなれないけど今は私がずっとずっとそばにいるから。

「それにテマリもカンクロウも我愛羅のことすっごい心配してるし、一応元気でいることだけは伝えた方がいいかな」
「こわい」
「誰も一人で会えなんて言ってるわけじゃないから」
「なまえ、一緒にいてくれるの?」
「当たり前でしょ、今までずっと一緒にいたんだから」
「……じゃあ、会う」

もさもさとトーストの最後のひと口を食べ終え我愛羅が椅子から降りる、皿とコップを片付けとてとて私の元に寄ってきた、不安げに見上げてくる我愛羅の頭を撫で、手を差し延べたら控えめに恐る恐る握ってくれた、もっと甘えればいいのに、可愛いやつめ。

どこに行くのかと尋ねられたから、呼べば来ると返す、我愛羅は無事に保護したからって言えばあの二人は即行来る、その答えに我愛羅は目を丸くしていた。すでに我愛羅と私専用の伝書梟(名前はムソルグスキだ)をテマリとカンクロウの元に飛ばしたからそろそろ。

「我愛羅が見付かったって!?」
「どこじゃん我愛羅!」

鬼のような形相で突撃してきたテマリとカンクロウ、もうちょっと静かに入ってこれないのか、壊した扉は経費で落ちるかしら。ひっ!と怯えきった我愛羅を視界に入れて罪悪感を感じろお前ら。

「こっちこっち、ほら」
「な……」
「ちょ、まさかじゃん!?」

私の後ろに隠れようとする我愛羅を二人の前に押し出す、食い入るように見られてる我愛羅は居心地が悪そうに俯いた、怖がってるでしょ自重しなさい自重を。そして上から下まで見つめきった後、二人は私を指差してぬかしやがった。

「いつ産んだんだ!」
「俺らなんも聞いてねーじゃん!」
「洒落にならないボケはやめてね!」

縮んだ原因は未だ不明だからそれ以外を事細かに説明した、正真正銘我愛羅である、小さいけど。あらぬ誤解を解いてこれからのことについてそれとなく尋ねたら、やはり二人共今の我愛羅に風影の職務は無理だと判断した。

前途多難ではあるが、何より我愛羅が無事だったことにテマリもカンクロウも心底安堵したようだ、そんな反応に我愛羅は戸惑っていたが。

「ほら我愛羅、怖くないしみんな我愛羅のこと心配してるんだよ」
「ぼ、ぼくを?」
「兄弟なんだから当たり前じゃないか」
「心配させやがって、でも見付かってよかったじゃん」
「テマリ……カンクロウ……!」

ぱっと顔を輝かせた我愛羅に和む、今だけじゃなくて死ぬまで……いや死んでからも守ってやりたくなる可愛さだ、我愛羅を抱きしめながら柔らかい赤毛をぐりぐり撫で回していたら、いいことを思い付いた。

風影の仕事が出来ない我愛羅の代わりにぴったりな代役があるじゃないか、今日の私は冴えてるぞ。

カンクロウの傀儡を使えばいいのだ、即席の我愛羅傀儡を作ってカンクロウが操ればいい、最近の風影は体調不良ということにしておけば、ちょっとくらい挙動不審でも誰も気にしない、元々口数の少ない我愛羅だからきっと大丈夫。

「普通に無理じゃん!」
「無理でもやらないわけにはいかないでしょ、他に何かいい案があるなら別だけど」
「俺だって任務があるじゃん!」
「そこはあれだ、あたしとなまえでカバーしてやるよ」
「テ、テマリまで」

渋るカンクロウに我愛羅が私の服の裾を握りしめながらカンクロウを見上げた、また泣きそうだ。

「……ぼ、くのせいで、ごめんなさ」
「馬鹿だね我愛羅、理由はわからないがお前もある意味被害者なんだ、謝る必要なんかないんだよ」
「そうそう、ああもうカンクロウが男らしく『俺がやってやるじゃん!』て即決しないから我愛羅が責任感じちゃってるし、可愛い我愛羅を泣かすとかひどーい」
「いつになく増して俺への風当たりもひでーじゃん」

テマリも我愛羅を全力でカバー、カンクロウが我愛羅傀儡を作ってそれを操る案に賛成らしい、ぶつぶつ文句は言うものの、しょーがねーなとカンクロウはやるだけやってくれるようだ。

「信頼出来るやつだけには一応話をしておく、なまえは絶対に我愛羅を一人にさせるなよ?」
「うん、元に戻るまで任せといて」
「早速準備しねーとな」
「あ、あの……!」

出ていこうとした二人を呼び止めるように我愛羅が口を開いた、二人が首だけで振り返る、私の服の裾は握り締められ過ぎてしわくちゃだ、もじもじと我愛羅は何か言いたいらしい。

「あ、あり、ありがとう」

消え入りそうな絞り出した声、それでもしっかり届いてる、嬉しそうにはにかむテマリと照れくさそうにするカンクロウは俄然やる気、私は密かに我愛羅似の子供がほしいと思ったところ。二人共我愛羅の元に戻ると頭をぐしゃぐしゃっと掻き回してから出ていった。
今の気持ちを噛み締め、しかと記憶するように自分の胸へと手をあてる我愛羅を横目に世話は任せろと大見栄切ったはいいが、これからどうしましょう。

「なまえも、ありがとう」
「え?あ、うん」

やだもうこの生き物可愛過ぎる、どうにでもなりそうな気がしてきた。任務は我愛羅をおぶって出撃ですね。

窓の外は星々が跋扈、日の出はまだ遠い、そういえば未だに私は寝間着のままだった。

20120604
20201207修正
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