WEEKLY☆KAZEKAGE | ナノ

日付が変わった土曜日。

玄関の扉が煩く叩かれる音に起こされた、ようやく任務から帰ってきて寝付いたばかりだというのに。日の出前の薄暗い空に苛立ちを包み隠さず、来訪者に不機嫌さを猛烈アピール。

「どこのどいつ様です?」
「俺!俺じゃん」
「ああ、詐欺の方ですねどうぞお帰れください」
「あ、遊んでる暇なんかないっての!」
「……なんのご用でございましょうか風影様のご兄弟であらせられるカンクロウてめえ様」
「ううわ、機嫌最悪じゃん!」
「誰のせいだ誰の」

玄関を開けたら見慣れない顔、それがカンクロウだと気付くのにしばらく時間が必要だった、いつもの隈取りがなく、目の回りには殴られたらしい痣。何したの。

「朝っぱらから悪い、でも緊急事態なんだよ」
「緊急事態?」

切羽詰まった様子に虫の居所の悪さがいくらか薄らいだ、カンクロウが事のあらましを早口でまくし立てる。相変わらずじゃんじゃん煩いので、じゃんだけ聞こえないふりを心掛けた。

夜半に気になる物音で目を覚ましたらしいカンクロウ、手洗いついでに物音の原因を調べようと音の方に向かえば行き着いたのは我愛羅の部屋。

勝手に入ると機嫌を損ねかねないが、物音がどうも尋常じゃない気がして恐る恐る我愛羅の部屋を覗き込んだ、中はもぬけの殻、窓が開けっ放し、しかし瓢箪はベッドの脇で鎮座。

夢見が悪くて手洗いに駆け込んだのかもしれない、しかし手洗いは我愛羅の部屋より手前にあるからここに来る途中ですれ違うはず、手洗いの可能性はそこで消える。我愛羅が居なくなるのは決して初めてではない、夜な夜な抜け出してなまえのところへ向かうこともあったわけだし……。

あらゆる可能性を考えさしずめなまえのところだろうと納得しかけたが、なまえは任務に出ていたはず、明け方(つまり今じゃん!)まで会えないことにしょげ返っていた我愛羅を思い出した、ならば我愛羅はどこへ?再び首を傾げてふと床で無造作に散らばる寝巻と忍服が視界に入る。

「ちっとばかし不審に思ってテマリを起こして一緒に探してみたんだよ」
「あー納得、その痣はテマリのストレートなわけね」
「アイツも寝起きは最悪じゃん」
「それで我愛羅は?」
「どこにも居ねえ、こっちには来てねえよな?」
「うん、来てない」

どこに行ったんだよアイツ!と喚くカンクロウに顔をしかめる、ご近所迷惑なカンクロウですこと、全く。

風影邸もくまなく探したが居ないらしい、うちにも来ていないし我愛羅は一体どこへ行ってしまったのか。

それにカンクロウの見たものが確かならば我愛羅は今頃真っ裸である、寝巻も忍服も部屋にあったなら間違いなく素っ裸だ、言い方は違えど大事なことなのでもう一度言う、我愛羅は生まれたままの姿だ。なんで脱いだし。

居なくなったことで頭がいっぱいのカンクロウは、まだ我愛羅が素っ裸であることに気付いていないんだろうな、もしかして脱衣癖ありの夢遊病なのかな、裸で徘徊してる風影が目撃されでもしたら体裁面目丸潰れ。

「我愛羅、可哀相」
「は?」
「私も思い当たるところ探してみるから、風影の肩書きに変態がプラスされる前に見付けないと」
「お、おう……(変態って何じゃん)」

何も言わずに居なくなるなんて我愛羅らしくない、出来れば日が昇る前に見付けたいじゃん、風影は常に多忙だ。カンクロウは街中、テマリは町外れの路地、私は他里との境界沿いに捜索を再開することにした、カンクロウが街中に消えるのを見送ってから玄関の扉を閉める。

ひとまず着替えなければ。

瓢箪を持ってないんだから移動には限界がある、全力で走ったとしてもこの短時間で里から出るのは不可能、そう遠くまでは行ってないはず、時間と速度から考えて移動可能な距離を割り出す。
目星の付いた場所をピックアップして引っ張り出した地図を確認、ルートを思案しながら寝室にあるクローゼットを開けた。

「……」

たまげた、着替えようとしていたことも我愛羅捜索も一瞬にして頭から消し飛び、目の前の衝撃にただただ唖然となるばかり。

衝撃的過ぎて自分の見ているものが信じられず、咄嗟の判断で壁に頭をしこたま打ち付けてみた。何故クローゼットの中に我愛羅によく似た泥だらけの子供が居るんだ、私は我愛羅と、その、肌を重ね合わせたことが……えー、それなりに、あー……ごにょごにょ、な、わけだが私は生んでない。これ大事、まず私は!身篭ったことすら!ない!

「夢かこれは夢だ多分きっと夢だろうね覚めろ私目を覚ませ起きろ」
「っ!?」

ガッ!ゴッ!と鈍い音が部屋に響いた、頭の中も外もぐらぐらしてきた、夢だとしたらもう覚めただろうか、今一度クローゼットを見て我愛羅似の子供と目が合う。ああまだ夢は覚めてないみたい、再び壁に頭を打ち付けようと試みる

「や、やめて!」

我愛羅似の子が震える声を絞り出し、今にも零れ落ちそうな涙を湛えて私を見上げている、例えるなら胸を鉄パイプで殴られたような衝撃を感じた、こんな愛くるしい生き物を私は見たことがない。

俗に萌え死ぬとはこのことなのね、キュン死にしかけた胸を押さえて忙しなく働く心臓とあらぶる呼吸を整える、我愛羅似の子はわたわたおろおろ。その様子を見てこんな小さな子供を慌てさせるのは如何なものかと我に帰る、しっかりしろなまえ、冷静になるよう努めて我愛羅似の子をよくよく観察した。

見れば見るほど我愛羅に瓜二つ、しかし額に刻まれた「愛」の字はない、着ているものは明らかにサイズを間違えたシャツ一枚。おかしい。

「君さ、我愛羅って知ってる?」
「ぼ、ぼくのこと、知ってる、の?」

名前は我愛羅だそうだ。私の知る限り、砂の里に「我愛羅」という名前は風影である今現在所在不明の我愛羅しかいないわけで、そうそう居るような名前ではない、つまりこのちんまい我愛羅は行方不明の我愛羅本人である可能性が高い、何故ちんまいのかは不明だが。

「あのさ、なんでこんなところに居るのかな」
「ご、ごめんなさい……ぼ、ぼく、気が付いたら、知らないとこにいて」
「うん」
「こわくて、すごく、不安で……」
「うんうん」
「全然、なんにもわかんなくて、夢中で走って、いたくてでも、いっこだけ、知ってるような気がする場所があって」
「ここのこと?」
「か、勝手に入って、ごめ、んなさい、でも、ぼく、他に行くとこ、なく、て」

ぐしゅ、と顔を歪めてぼろぼろ泣き出した我愛羅、小さな手が涙を拭うが追い付かずに涙は後から後から零れ出す、震える双肩はひどく頼りない。

「こんなの、初めて、で」
「初めて?」
「砂が、なにも起きなくて、初めて、転んで」

すでに守鶴を抜かれているから当たり前と言えば当たり前、今の我愛羅を守っているのはお母様の想いが篭った砂のみ、泥だらけだったのは転んだからのようだ。

ふむふむ、まだ憶測やら推測の段階でしかないけれど、どうやら我愛羅は何かの弾みで記憶も身体も逆成長したらしい、こうなった場合原因がわからなければ元に戻しようがない、どうしたものか。

「そっか転んだのか、痛かったね、ばい菌が入らないうちに手当てしよっか」
「……っ」
「取って食ったりしないから、ほら、おいで」

我愛羅に手を延ばしたら身を硬くされた、ちょっぴり傷付く、怖がらせてはいけないからそれ以上は近付かず待ってみる、差し延べた手を我愛羅が自ら掴み返すまで。

どのくらい同じ体勢でいたかはわからない、一寸たりとも我愛羅から視線を外さず瞳を見つめ続けた、泣き腫らした瞳をさ迷わせ不安げに見つめ返してきた我愛羅に満面の笑みを浮かべて、お腹空いてない?と尋ねたらほんの少しだけクローゼットの中から身を乗り出し、私の人差し指に恐る恐る触れた。もう少し。

「ここに我愛羅を傷付けるものは何もないよ」
「ほ、んと?」
「うん、私の命賭けて保証する」
「……ぼ、ぼく」
「こんなこと今の我愛羅に言っても信じられないだろうけど、私は我愛羅の未来の恋人だから」
「こ、こい、びと?こいびとって、なに?」
「大切な人、大好きな人、掛け替えのない人のこと」
「ぼくを、好き、なの?」
「うん、私は大好きだよ、我愛羅が」
「あ、あの……!」
「うん?」
「な、名前、名前聞き、たい」
「私?」
「……うん」
「なまえ」
「なまえ……!あ、あのねなまえ、どうしてかな、名前、呼ぶと、あったかい、気がする」


控え目に人差し指を握った我愛羅、もう一度おいでと言ってみたら立ち上がって覚束ない足取りで寄ってきた、こいつ裸足か!足も傷だらけじゃないの、びっくりさせないように極力優しく頭を撫でた後、ゆっくり抱きしめてみる、びくりと震え硬くなる身体にまだダメかと思いかけたがすぐに我愛羅の両腕が縋るように首に巻き付いた。

声を上げて本泣き、うんうん、それで悲しいのも寂しいのも全部吐き出してしまえ。

20120604
20201207修正
← / →

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -