小話 | ナノ

人からいろいろ聞いたり、そういう本をそれとなく読んでみたり、やっぱり人に……経験者に聞いたりしてある程度の知識というか、注意した方がいいことなどを頭に入れた。好きだから、愛しているからこそその延長線上にある愛情表現に行き着くわけで、だからといってそれが終着点というわけでもない。愛情の示し方は人それぞれだ。相手が嫌がったらやめよう、興味がないのであればプラトニックな関係のままでもいい。私と我愛羅の間に確かな絆と愛があればそれで。

「と、言いいましたものの時々不安にもなるわけなんですよテマリお姉様」
「気色悪い呼び方をするな、らしくもない」
「ひどい!」

久しぶりの遠征任務、途中までは単独で情報収集をして中継地点の木の葉でテマリさんと途中から合流、報告をし合いあらかじめ手配しておいた宿に着いた。女二人というのもなかなかないので、私は最近の悩みを彼女に打ち明けた。

「カンクロウはそういったことに対して興味深々だし積極的な方だと思うが、我愛羅は……特殊というか……まああいつ自身もそういう経験をしてこれるような境遇ではなかったからな、例えばどんないい体の女が目の前を通り過ぎても全く1ミリも見ていないし興味もないな」
「カンクロウさんはわかりますね、女性の好きな部位胸って言いそう」
「実際言う」
「うわリアル」

機能不全というわけではないそうだ。カンクロウさんは我愛羅の朝立ちを見たことがあるという。待って、それ聞いた私どういうリアクション取ればいいんですか。

そういえば、とテマリさんは思い出したことをぽつぽつといくつか教えてくれた。まずは私と我愛羅が将来結婚を前提にお付き合いをすることになってしばらく経った頃、カンクロウさんが我愛羅に「もうなまえと寝たのか?」と軽い雑談のつもりで聞いたところ、死ぬほど怖い顔でお前には関係ないと言われたそうだ。真実は闇の中、特に焦るでも顔を赤らめるでもなく完全に軽蔑しきった表情だったとか。いやなんか、俺もなまえも清いまま生きて死ぬとか思ってそう、生殖行為に愛を見出すなど穢らわしいとか思ってそう、私が勝手に傷付くやつだわこれ。

もう一つは私と我愛羅が付き合うことになる少し前、任務先で三人一緒の部屋の宿に泊まった時、テマリさんがお風呂から出てちょっと際どい格好で二人の前をウロウロしていると、姉弟であってもやはりカンクロウは顔を赤らめて怒るものの、変な気はなくともチラチラと見ていたそうだ。我愛羅はまるで無反応、それがなんだと言わんばかりに「風邪を引かれて任務に支障が出ては困る、服を着ろ」その一言のみ。全部初耳である。

「やっぱり興味なしなんですかね、その辺テマリさんはシカマルくんとはどうなんですか?」
「へっ?」

まさか自分のことを聞かれるとは思っていなかったようでテマリさんは声を裏返して一瞬固まった。これは何かあったな、ぽぽぽと赤くなる耳と頬、こんなに可愛いテマリさんは見たことがない。いいもの見ちゃった。

「べ、別に普通だが?」
「声裏返ってますよ」
「う、うるさい!それよかお前は今回よく遠征任務に出てこれたな、なまえの任務は特別に我愛羅が管理しているようだったが」
「そうなんですよ、私も我愛羅の役に立ちたい気持ちは人一倍あるんですけどなかなか許可が降りなくて」

我愛羅は自里外の任務に行くのに対していい顔をしない、特に私。めちゃくちゃ嫌そうな顔をする、とても大事にしてもらえて嬉しいんだけど、一応任務だし仕事だし、直接引退しろとは言わないけれど、なんとなく家で俺の帰りを待っていて欲しいチラチラ、みたいなのは時々感じている。気付かないふりをしてますがね。

「我愛羅の言いたくとも言わないことが気になるんだったら前線から引いてもいいんじゃないか?別にお前が躍起になって働かなくてもそこそこ食っていけるんだから問題ないだろうしな」

確かに生活に困ることは一切ないけど、だからといって家で一人だけのんべんだらりというわけにもいかない。我愛羅が風影に就任する前までは、結構不安定な里情勢ということもあって激務もいいところ、連日任務任務で本当にひどかったから。今はしっかり働き方改革みたいなものがしっかりと見直されて、里もずいぶんと活気付いていると思う。そんな社畜忍だった私を見てきた我愛羅だし、心配なのもわかる、愛されてるからね!愛しているし!

「時々惚気が入ってくるのが鬱陶しい」
「ま、それはそれとして、問題はそこじゃなくてですね」

夜、夕食も済ませてお風呂も入って、さあ後は寝るだけ!といったところでまあそこそこいい雰囲気になるわけですよ、お互いの指先が触れ合って絡ませてみたり、身体を寄せ合ってちょっと見つめて触れるだけのキスをしてみたり。

「聞いてるとそこそこ恥ずかしいな」
「言ってるこっちも結構恥ずかしいんで我慢してください」

時々思い出したかのように唇をぺろっと舐めてみたり、少し長めにチューッってされたかと思えば、名残惜しげに離れて我愛羅なんて言ったと思います?めちゃくちゃいい笑顔でこれ以上の幸せはないってくらいふやけた表情で「おやすみ」って言うんです。それで寝るんですよ?秒で寝息聞こえるの。え、はっや。昔全然寝なかったじゃん、大変失礼致しました、カンクロウさんが出てしまったことお詫び申し上げます。眠れなくてイライラして私に流砂瀑流からの砂瀑送葬キメようとしたあの情緒どこ行っちゃった?

「我愛羅が幸せそうでなによりだ」
「そうなんですよ!もう私めげずに何されたって殺されかけたってずーっとそばに居続けてほんとよかったー!じゃなくて!」

テマリさん脱線しないで違うの!これ以上のことを望むのってものすごくわがままで自分勝手で図々しいなって思うし、私自身卑しいというか自己嫌悪にも陥るんですけどね!?ずっとお互いそばにいたから……いやいたっていうか私が勝手にくっ付いていたんですけど、とにかく私にしろ我愛羅にしろ恋愛経験って皆無だしお互い何もかもが初めてなんですよね。

恋人のこの字もなかったから、実は私も未経験なんですよ!

「お前処女だったのか」
「はい!」
「まあ改めて言わなくてもわかってるとは思うが、我愛羅も童貞なんだし焦ることはないんじゃないか?」
「でも……」
「キスができてるんだ、全くの無欲とは言わないだろ」

単に性欲だったり好きな相手をどうこうしたい気持ちに鈍感で、自分だとこの感情がなんなのか気付きにくいだけだろう。そうテマリさんが見解を話してくれる。今までの境遇や経験がその人の人格や性質を作っていくんだ、バカみたいに頭が下半身の言いなりのようなやつもいれば、下半身の神経が死んでるのか?みたいなやつだっている。

我愛羅もお前の誘いだったら喜んで受けるだろうよ、なんて悪戯っぽく笑われてしまった。わ、わ、私から誘うなんてアリなの!?尻軽とかはしたない下品な女だ、とか言われたら立ち直れない……。なんてまた脱線してる!私は後学のためにテマリさんとシカマルくんのアレコレを聞きたいのに!

「もう……だから脱線しないでくださいよテマリさん」
「な、何をだ?」
「だーかーら!シカマルくんとですよ!」
「私もことはいいだろうが!」
「今後の参考に、後生ですってば!この通り!」

ぱん、と両手を合わせて平身低頭、唸るテマリさんにこれでもかと頼み込む。がんばれもう一息。私と我愛羅の今後のためにも!

「テマリさあん……」

ぐ、と詰まったテマリさんは長い長いため息をついて私をじとりと睨んだ、全然怖くない。

「……こっちがいっぱいいっぱいだってのに、向こうは余裕ぶって、その、優しくて、だな」
「うんうん!」
「めんどくせ、なんていっつもスカしたツラしてるくせに、こういう時ばっかり、か、可愛いだとか、すごい言ってきて、だな」

顔を真っ赤に染めてもごもごしゃべってくれるテマリさんはびっくりするくらい可愛くて、女の顔をしていた。めんどくせ、以外のことを言うシカマルくんは全く想像できないけれど、テマリさんのこと本当に大切に想っていてすごく好きなんだろうなあって伝わってくる。う、羨ましい限りです。

「ああ!もう私のことはいいだろうが!まどろっこしい!里に帰ったらお前から我愛羅を誘え!けしかけろ!」
「ええ!?む、無茶言わないでくださいよ!」
「この際帰りに下着買うぞ、うんとセクシーなやつだ!例え我愛羅が下着の良し悪しがわからなくて反応しなくとも、我愛羅のために買ったとでも言えばあいつは喜ぶ!多分な!」
「でも我愛羅ってそういうのに興味ないんじゃ……」
「心を許したなまえであれば話は別になってくるだろ、こういうのは雰囲気作りからだ!」

そんなむちゃくちゃな、確かに私にはいわゆる勝負下着というものがないですけれど、そのためだけにわざわざ買うなんて……。ううう、まあそういった用途以外に着る機会なんてないですけど、けど!いいからやってみろ、やらずにうだうだ言ってても仕方ないだろうが、当たって砕けてみろ!とテマリさんに喝を入れられる。

ちなみにテマリさんは勝負下着を着たのかどうかと尋ねたらそれなりのものを着ていたそうだ、反応は上々だったとか。やっぱり羨ましい!テマリさんがそこまで言うのであればちょっと勇気を出してみようかと思う、我愛羅の好みは1ミリもわからないけれど、あまり派手過ぎないものがいいかな。着る方としても恥ずかしすぎるデザインは遠慮しておきたい。そもそもどんなものがあるのかさえ全然わかっていないから、明日テマリさんにしっかりご教授してもらおう。

任務も終わってゆっくり寝て、あっという間の翌日。

テマリさんに叩き起こされて寝ぼけ眼でむにゃむにゃ言葉にならない音が口から飛び出した。なんです?まだ8時くらいじゃないですか、あとは帰るだけなんですし、もう少しゆっくりしましょうよ。

「下着を買うのに絶対悩むだろ、さっさと行って目一杯悩め」
「う……」

宿は食事をつけていなかったので、朝食を近場でゆっくり済ませてさっそく店選びから始まった。可愛らしい雰囲気で胸焼けしそうなほどふりっふりのフリルてんこ盛りの下着から、布の面積が際ど過ぎるもの、レースがすけすけで下着の意味を深く考えさせられるもの、多岐に渡って実に様々な下着が揃っている。

いやもう少し控えめなのない?ちょっと恥ずかし過ぎるし、これだと私が下着に着られる感じが否めなくなる。似合っていないのに無理して着るのは避けたいところ。悶々と悩んで、ああでもないこうでもない、我愛羅の私服から想像できる趣味ってどんなだったっけ?やっぱり定番の清楚系が無難だろうか。私の私服はいつだって褒めてくれるし、どんなものが好みなのかもはや惚れた欲目で好意を抱いてる相手は何着ても何しても可愛く見えてしまう、とでもいうのだろうか。自分で言ってとても恥ずかしいのでこれは気にしないで欲しい。

とりあえず手に取ったのは、サイドが編み上げデザインで柔らかいけどしっかりした生地はレトロな雰囲気を醸し出す、布の面積は結構ある。無難にこれで、と思ったらテマリさんにぺちりと手を叩かれた。ダメ出しですねわかります。

「なんだそのやる気のないデザインは!」
「だ、だって……」
「総レースとは言わないが、尻のところくらいレースになってるやつを選べ!男は透けるものが好きだと相場が決まっている!」
「ええ!?そうなんですか?」
「し、シカマルがそう、言ってたんだ」
「ちょっと照れながら教えてくれるテマリさん可愛い!」
「うるさい!いいからこういうのにしておけ!」

ぐいっと押し付けられた下着は一言で表すのであればセクシー路線、私こういうの絶対似合わない!肩紐頼りない!いやお尻の方ちょっと透け過ぎてません?それかこのキャミソールとかですか……これはもう誘う気満々な感じである。

これ着て我愛羅の前に出られるのか私、テマリさんに強制的にそれらを持たされお会計へと背中を押される。デザインは素敵だしセクシーでうひゃー!とはなるけど自分で実際に着るとなると別問題だ。ありがとうございました〜と間延びした声でにこにこと追い出してくれる店員さんさえも憎らしい。買ってしまった。

「そういえば今日は我愛羅の誕生日だったか」
「はい、それもあって木の葉でも美味しいっていうお肉屋さんの砂肝とタン塩お土産にしようかなって」
「は?プレゼントは私、でいくだろうがそこは」
「いやいやさすがにそれは痛いですって!」
「我愛羅は間に受けるタイプだぞ」
「……それはそれで困る」

でもよくよく考えたら我愛羅ってキスする時もハグする時も少しだけ手が震えてたかもしれない。私も結構緊張して固くなっちゃってたからあんまり気にしたことはなかったけど、すごくそっと触れてくれてたと思う。壊れないように傷付けないように。

「……」
「なまえ、お前が今何を思ったのかは知らないが、我愛羅はお前が思ってるほど清廉潔白ではないと思うぞ」
「え?」
「危険に晒したくないから独断でお前の任務を勝手に管理したり、他の男をなるべく近付けさせないよう仕向けている節だってある、これって嫉妬や独占欲だろう?」

無意識なのかはわからないけれど、我愛羅にもそういう感情があるのかな。

だとしたら独り占めしたい手篭めにしておきたい、そんな考えがきっと出てくるはずだろ?そうなってくれば身体を重ねる方にも思考が向いてくるだろうよ、そうテマリさんは豪語する。つまり、俺のなまえだ触るな、とか言ってもらえちゃったりする?

「口数のあまり多いやつじゃないから我愛羅が口に出して言うかどうか、だが可能性はゼロじゃないはずだ」
「俺のだってちょっと言われてみたい気はする……」
「だったら尚更だ、逆に我愛羅を襲ってさっさとお手付き手篭めにしてしまえ」
「言い方が不穏すぎる!」

テマリさんがカラカラ笑って背中を力任せに叩いてきた、いい音がして痺れるほど痛い。私から襲えるかどうかはやってみないことにはなんとも言えないけれど、こうして勝負下着も買ったからには出たとこ勝負。きっとなるようになる。

「テマリさん私頑張ります!」

待っててね、我愛羅。

20210120
1日遅れですが我愛羅お誕生日おめでとう
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