居心地が悪いけれど全然嫌な気持ちにならないのは相手が我愛羅だからだ、私は我愛羅に真っ直ぐ見つめられるのにとても弱い。
「あのさ我愛羅」
「なんだ」
「寝るんじゃないの?」
「寝ている」
「目、開いてるけど」
「寝ている」
「うん、これだと寝転んでるっていう方が正しいかな」
「なまえはまつ毛が長いな」
スルーされた。
常に忙し過ぎる我愛羅がやつれた顔で少し休むからと膝枕を所望してきたので、これといって急ぎの用事もなかった私はふたつ返事でソファへと腰掛けた。はいどうぞとぽんぽん太ももを叩いて促せば我愛羅は満足げにころりと仰向けに寝転ぶ。数分私に腕を絡ませ、お腹にぎゅうぎゅうと顔を押し付け、気が済むとまた仰向けになる。そんな我愛羅の頭を撫でたり髪を梳いたりしていたのだけれど何を言うでもなく下からガン見し続けてくる我愛羅は一向に目を閉じようとせず、痺れを切らした私は冒頭のように問いかけたのだ。
本人は寝ていると豪語する、それでは語弊があるから寝転んでいる、では?と指摘したらスルーである。
「なまえ、少し痩せたな」
「ちょっと忙しい時もあったからね、ほら我愛羅寝ないの?」
「しかしあまり痩せては困る、俺はふわふわななまえも好きだ」
「気持ちは嬉しいけど素直に喜べないやつねそれ、ねえ我愛羅まだ寝ないの?」
「前髪、切ったのか?」
「うん、整える程度だけど」
会話になってるけどなってない。寝ないの?という問いかけについてまるっと無視されている、これっぽっちも悪びれた様子はないのであえてわざとそうしているんだろう。でも疲れているって言ったじゃない、寝ない理由を聞かせてくれないのは何故なのか。
「ね、我愛羅」
「今日の夕飯は」
「疲労回復に鶏肉のトマト煮とほうれん草のおひたしと……あとどうしようかな、砂肝焼こうか?」
「それは嬉しい、楽しみだ」
「あのさ、我愛」
「なまえの好きなタルトを買って帰ろう」
「えっ、ほんと!?やったあ!我愛羅大好き!」
嬉しさのあまり背中を丸めて未だにガン見し続けている我愛羅の額、愛の字のあたりに唇を落とす。ちゅっと可愛らしくリップ音までたててみたらじわじわと恥ずかしくなってきた。一瞬目をまんまるにさせて我愛羅はすぐに表情を和らげると、体勢を元に戻そうとした私の後頭部を押さえつけて阻止。そのまま自分の方へと再び引き寄せて私の唇はぱくりと食べられてしまった。
下唇をうにうにと甘噛みしたあと舌先が滑る、くすぐったくてやっぱりちょっと恥ずかしくて、体をよじると我愛羅はすんなりと解放してくれた。あれ珍しい、いつもだったらしつこいくらいに負けじと構うのに。
「楽しみはもう少し取っておくことにした」
「え」
これはまずい。もしかしたら明日起き上がれるか不安になるやつかもしれない。あたふたしていると我愛羅は心底満足そうに笑っている。
「俺を意識しているのがよくわかる、嬉しい」
そりゃ意識するわ、目は口ほどに物を言う。そのことわざを作った人は天才か何かでしょうよ。我愛羅の瞳の色はどこまでも優しくて温かくて、視線は慈しみを孕んでこれでもかというほどの甘さを醸し出している。この眼差しだけでいかにものを言うか、というのが我愛羅という人である。
そんな目に見つめられるのに私はとても弱い、本当に心底そう思う。惚れた弱みなんて今更だ。
「好きだ、なまえ、愛している」
「ぐう……卑怯だ、我愛羅全然寝てないしうまいこと丸め込まれている感が否めない」
ふと幸せそうに笑っている我愛羅を見たらもう何も言えなくなって結局全部まあいいか、って許してしまうんだ。
20210112
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