小話 | ナノ

あがうぐぐぐむ、息がしにくくて目が覚めたら視界ゼロ、何だこれは死んだか私!でも妙に身体中が痛くて節々がみちみち言ってる、死んだのに辛いとかツラい。

ギスギス痛む腕をものすごく頑張って持ち上げて顔に手をやれば包帯がぐるんぐるんに巻かれていて、下に手を持っていけばガーゼとこちらも包帯だらけ、ミイラか!

一人で乗り突っ込みしてたら痛みで意識がはっきりしてきた、何でこんなことになっているのかなあとゆっくり10秒数えて思い出した、演習中の大惨事。

最初に言っておくと私は究極にくじ運が悪い、御神籤で大凶以外を引いたことがないくらい悪い、だからたまたま授業の演習で我愛羅くんとの戦闘演習がぶち当たった時には歓喜した、くじ運の悪さを生まれて初めて感謝した。

この里で爪弾きにされる我愛羅くんは一尾、守鶴の人柱力。昔から怖い怖いと恐れられてきた彼だが私は彼の髪の毛に触れた過ぎて毎日気が狂いそうだった。触りたくてじーっと見つめていると我愛羅くんもぎろりと見つめて返してくれる、なかなか警戒心の強い我愛羅くんなので私の願いは実現するまでにだいぶ時間が掛かった。ふわふわツンツンした赤毛、密やかにぷにぷに頬っぺたにも身悶えしていることは誰も知らない。まあ誰にも言ってないんだけど!

だから演習中にさりげなく触れるかもしれないと思ってたんだ、いざ演習が開始されると我愛羅くんは本気で殺しに掛かってくるので全然間合いに入れず苦戦を強いられた、負けないぞ、我愛羅くんのふわツン髪の毛とぷに頬っぺに触るまでめげないぞ!

猛攻に必死こいて耐えた、お互いにチャクラ切れのドローになりそうな雰囲気、でも我愛羅くんに触りたい!そしたら我愛羅くんはとんでもない大技で勝負に出た。

まさかのここで狸寝入りの術。

えええ!?そんな殺生な、後生だから我愛羅くん起きててください、守鶴相手に勝ち目ないし!我愛羅くんは守鶴の額からにゅっと出ていてだらんと力なく垂れ下がっている、なんか笑える、笑ってる場合じゃないのにね。

っていうかこの状況どうするのよ誰が止めるのよあの守鶴!ぎえええ我愛羅くん起きてえええ!ぐっもーにんぐっもにんんん!

守鶴のえげつない攻撃から逃げ惑い、さすがに慌てた先生達が止めに入るもやっぱり守鶴相手に勝ち目なんかない、ああもうダメかなって思ったらね、私崖から落ちたの。多分この怪我は我愛羅くんと守鶴との戦いで負ったものではなくて、自分の不注意。

守鶴から逃げるのに必死過ぎて周りなんか見てる余裕はない、気が付いたら多分ここは病院のベッド。それにしてもどうしよう、顔まで包帯ぐるんぐるんだなんて顔の造形変わってたらどうしよう!退院して友達に、お前誰?なんて言われたらどうしよう泣く。

「ぶへ、口元まで巻くなんてここの医者ヤブだろ殺す気ですかっての!」

口まで巻かれていた包帯を少しずらす、息苦しさから開放されて呼吸が随分と楽になった。個室なのか部屋は静か、でもなんとなく近くに誰かいるような気がする。

「誰か、いる?先生?看護婦さん?」

声を掛けても反応はない、でもかすかに気配を感じる。この際壁でもいいから誰かと話がしたかった、返答がなくても気にしない。

「どこの誰か知らないけど誰かいるならちょっと聞いてね、私ねー授業でヘマしちゃってこのザマ、災難というか自業自得というか、バチが当たったのかなあ、私我愛羅くんとの演習がすっごい楽しみでね、なんでかって言うと我愛羅くんに触ってみたいからなんて動機が不純過ぎ?崖から落ちるなんてバカみたいだよねー、我愛羅くんのせいじゃないから我愛羅くん気にしてなきゃいいけど……って私如きのことなんか気にするもなにも眼中にないよねーあはは」

一人でべらべらしゃべって一区切りついたところで扉があるであろう付近で何かが擦れる音、やっぱり誰かいたんだ。よくわからないけどなんだか嬉しかった。

「誰かわかんないけど独り言聞いてくれてありがとう、私が退院してもし次に会えたら声掛けてほしいかなあ、なんて」

いつの間にか気配は消えてて、すぐ後に看護婦さんが包帯を変えましょうって入ってきた。

「よかった、目が覚めたのね!気分はどうかしら」
「至る所が痛いですけど気分は絶好調です」
「ならきっと退院も早いわね、あら?」

看護婦さんは何かを見つけたらしい、誰かお見舞いにいらした?と聞かれたけれど、誰もきていないと答えた。気配だけの誰かについて言ってもきっと幻覚だって言われると思ったから。

「誰からかしら、きっとあなたへの贈り物ね」
「私に?」
「この砂ではなかなか探すのが大変な薬草がいくつか置いてあったの」

きっとシャイな子があなたのために探してきてくれたのかもしれないわね、笑った看護婦さんに言われて、いやあモテ期ですかねえなんて。その時は全然知らなかった、誰が薬草をくれたのか、なんて。

それから薬草のお陰ですっかり良くなって傷痕もほとんど目立たなくなった私は退院、また授業を頑張る宣言をしたらクラスメイトに大爆笑された、頑張るもなにも崖から落ちないことを頑張るつもりかって、キイイイ!んなわけないでしょうに!

そしたら隅っこからものすごい衝撃音、ざわついてた教室が一瞬で水を打ったように静まり返る、みんなが恐る恐る音がした方を向けば、我愛羅くんが不機嫌そうに机を蹴っ飛ばしたらしい、どうしたんだろう何か気に食わないことでも……。そういえば看護婦さんが薬草にめっちゃ砂が付いてて、って言ってたような。

静まり返った教室、我愛羅くんとばっちり目が合って逸らさずに見つめ続けたら相変わらずの眼力で睨まれた。不思議と怖くなくてよくわからないものがムズムズ喉までこみ上げてくる。

多分そう、うんきっとそうだ。薬草をくれたのは我愛羅くんだと思う、静かになってざわつく様子がなくなった教室の中で私は我愛羅くんにお礼を言わなきゃならない衝動に駆られた。

「我愛羅くん、お見舞いありがとう!」

彼の席まではそれなりに距離がある、声を張って半ば叫ぶように言えばクラスメイトも先生までもがぎょっとしていた、でも一番驚いていたのは我愛羅くん。見たことない間の抜けた表情に嬉しくなってきちゃってまたお話聞いてくれたら嬉しいなあって言ってみたら、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

20130507
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