小話 | ナノ

砂の里、商店街の一角。ころんと金ぴかのまんまるが揺れた。

「よしきたァアア!」

がらごろ鳴らされる煩いベル、屋台のおじさんがダミ声でがなり立てる。

「特賞出たよ出ちゃったよー!大当たりィイイ!」
「拾った福引券最高ひゃっほー!」

飛び上がって歓喜の舞、昨日拾った泥でぐちゃぐちゃになった本日限りの福引券、モノは試しだと特に期待もせず何の気なしに福引をやってみたら運が良かった、特賞が大当たり!とても嬉しいです今年一番最高の気分です。よかったねえ運がいいねえなんて周りのお客さん達にほちゃほちゃされて、いやあ生きてればいいことってあるんですねえやっぱり!と返してみる。

ところで特賞の景品ってなんですか?



「……」
「……」

所変わって私は今、火の国、木の葉の里に来ている、温泉郷としても有名な観光地であるところ。一度来てみたかったんだよねー木の葉って、治安もまあまあだって言うし美味しいものもあるみたいだし。

自里の商店街での福引は『大型渡り鳥で行く!豪華絢爛ぶらり木の葉温泉郷超高級料亭お食事付き旅行』だった。

豪華絢爛という謳い文句は多分、私の勘が正しければ、雰囲気とか景色とかそういう類のことではないと踏んでいる、何故ならば聞いて驚け!見て笑えない!

景品のチケット裏に『あの5代目風影様との特別な3日間!無礼講スペシャルサービス付き』と印字されていたのである。まさか裏にそんなことが書いてあったなんてつゆ知らず、旅行当日に送り出してくれる指定場所に行けば風影、我愛羅様と大型渡り鳥がぽつねんとそこに居る。

始めこそ風影様直々にお見送りしてくださるのかと思っていたら、福引で当てたやつの裏をよく見ろと促されて目玉が飛び出るかと思った、特別に気まずい3日間になること間違いなし、無礼講スペシャルとか言われても風影様に対して無礼講とかなんなの拷問?失礼かまして風影様の反感を買って里を追放されたりしたらどうしてくれるんだ。

悶々としながらもとりあえず大型渡り鳥に乗って風影様と木の葉へ向かい、到着するまでに会話らしい会話など期待するだけ無駄である、畏れ多過ぎてまともに顔すら見れなかったんだから。

それから木の葉の旅行会社の人に案内されて里一番の旅館へと案内された、実際に旅館を前にしたら思った以上に豪華で完全に浮かれきってしまい、風影様が一緒だったことも忘れてはしゃいだ。仲居さん達がものすごい美人揃い!

「す、すごい!」
「お部屋は南の一角がほぼ貸し切り状態となっておりますゆえ、どうぞご自由にゆるりとお寛ぎくださいませ」
「貸し切り!?」
「お食事も係の者がお部屋までお持ち致しますので」

こちらお部屋が椿の間でございます、ではどうぞごゆっくりお過ごしくださいませ、そう言って部屋を案内してもらって仲居さんは下がっていった。和洋折衷の造りになっている部屋は広い、調度品は見るからに高級感溢れて至れり尽くせりな雰囲気。

「何これすごい木の葉やばい!ベッドふっこふこー!やばいすごいきゃー!」

大きなベッドに突撃ダイヴ、低反発マットレスと羽毛が最高に気持ちいい、感触に酔いしれている最中、自分が誰と一緒であったのかをふと思い出す。

「……」
「……」
「お前」
「は、はいっ!(風影様と一緒だったこと忘れてた!)」
「さっきから、やばいとすごいしか言ってないな」

みっともないからはしゃぐんじゃない、そう怒られるものだとばかり思っていたけれど、風影様は口元をほんのちょっぴり緩めて笑っただけだった。

風影様が笑ったのを初めて見た、まだお若いのにいつもムスッとしたような表情しか見たことないし、笑うとこんなにも年相応で素敵に可愛らしいのにもったいない。あれ、確か風影様って私よりひとつ年下じゃなかったかしら、多分上役から舐められないように表情も常に気張ってるんだろうなあ、疲れそう。

そんなことを考えたら変な使命感が出てきちゃって、今から3日間全力で風影様を癒して差し上げようと!里のために尽力してくださるほんのささやかなお返しのつもり。

「ほんとにふこふこなんですって!風影様も」
「我愛羅」
「へ」
「我愛羅でいい」
「で、でも」
「いい、こういう時くらい職務は忘れたい、だから今は風影と呼んでくれるな」
「えと、じゃあ、が、我愛羅様」

やっぱり風影様も人の子、疲れることだってあるよね、お言葉に甘えて名前で呼んだらそりゃあもう嬉しそうにするもんですからこっちがくすぐったくて。

「ほらほら我愛羅様も座ってみてください、ふこふこ!」
「ふかふか、じゃないのか?」

横に腰掛けて尋ねてくる我愛羅様、ふこふこの方がしっくりくるじゃないですかこの感じ、しばらくベッドでばふばふ遊んでまた気付く。もしかしなくても部屋一緒?顔を上げて我愛羅様を見たら我愛羅様も今気付いた、という顔で見かえしてきた。

「が、我愛羅様がこのベッド使ってくださいね!私あっちのソファで大丈夫なんで!むしろ床でも寝れちゃう派なんで!」
「い、いやそういうわけには、風影たるもの里の民をぞんざいになど」
「さ、さっき我愛羅様は風影のことは忘れろって」
「あ……」
「でででですから我愛羅様にやましいお気持ちがとか、私もそんなななな!」
「お、俺もそそそんな手を出したりなどどどど!」

お互いに顔を出す真っ赤にして言っても説得力がない、旅行初日からこんなことで大丈夫だろうか、妙な空気になっちゃった。

「ただ……」
「は、はい?」
「ほ、本当に何もしないと誓う、だから、その、そばには、いてほしい」

尻すぼみになる語尾、我愛羅様はとても寂しい思いをしながら幼少期を過ごしたと聞いたことがある、今まで怖い人だと思っていた我愛羅様はあまりにも儚くて誰よりも痛みを知っているからこそ優しい人だった。



それから。

「がーら様いますー?いますよねー!」

バァン!とノックそっちのけで風影の執務室に無遠慮な入室、いるとわかっていての行動だ、あの旅行からすっかり仲良しに私達はよくお茶をしたりおしゃべりをしたり、つまりマブ?

「丁度いいところに来たな、茶菓子をもらった、どうだ?」
「やーん嬉しい頂きまーす」
「ところでなまえ」
「はい?」
「俺は最近困っていることがある」
「なんすかなんすか、私に協力出来ることであれば聞きますよ」
「なまえにしか頼めないことだ」

深刻そうな表情、どうしたんだろう、仕事の悩みかな?上役と揉めたのかな?聞いていればやっぱり上役に何か言われたようで。

「実は」

キュッと一度唇を噛んでひと呼吸置いた我愛羅様、意を決したように事のあらましを語り出す。

「婚約をしろとせっつかれた」
「つまり婚約相手を紹介しろってことです?あーそういえば我愛羅様ってば女の子の友達ひとりもいませんもんね、了解しましたお任せ」
「待て、違うそうじゃない早まるな」

善は急げ、すぐさまいい子を探しに行こうとしたが我愛羅様に止められた。

「他人は簡単に婚約と言う、俺は未だに惚れた腫れたなど感覚がよくわからない、それに恋愛経験も皆無」

真剣そのもの、茶化さずに相槌だけを打つ。

「生涯ずっと一緒に居たい、守りたいと思える相手と結婚するのが一番理想だと聞いた、考えて気が付けば案外近くにそう思えるやつが居た、一緒に居て楽しい、触れてみたい、もっと俺を知ってほしい」
「それは我愛羅様はすでに心に決めた相手が居るってことです?」
「そうだ」
「えーと、だから、つまり?」
「なまえにしか頼めない、俺はなまえとずっと一緒に居たい、触れたくてたまらない、お前のことを考えると胸の奥が痛いんだ、でも、嫌な痛みではない」

何から言えばいいのかしら、我愛羅様は私が好きという解釈でいいんでしょうか、それよりほぼ結婚してくださいと言ってますね、話の流れ的に。色白の頬を朱に染めて様子を窺うように我愛羅様は私を見つめてる。

いきなりそんなことを言われても、とは思うけれど私も我愛羅様のこと嫌いじゃないしむしろ好きな方だ、想像以上によく話すし執務室で居眠りしちゃうことだってある、笑うと可愛いことも知ってるしお茶菓子を貰った時には絶対呼んでくれる、仕事が長引いて遅くなった時だって『テマリに夜食を頼んだ、一緒にどうだ』って誘ってくれることもよくあった。

思い出せば出すほど我愛羅様は私に好意的だったなあって。

「また一緒に旅行がしたい、俺はなまえが好きだ」

我愛羅様と一緒に居て私も楽しい、落ち着く。気が付けば煩く主張する鼓動が平常心を追いやった、今すごくドキドキしてる。

「わ、私なんかでよければ、えっと、そばに居させてください」

今まで見た中で一番の笑みをくれた我愛羅様に、触れたくてたまらなくなってきた!




20130428
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