小話 | ナノ

【今日はちょっと遅くなるから先に寝ててね!夕飯は冷蔵庫に用意してあるから温めてね。】

日が傾き始めた夕暮れ時、そんななまえからのメモをテマリから受け取った、何故遅くなるんだ、明確な理由がないじゃないかとテマリに愚痴る。任務は渡していないし仕事なんかなかったはずだ。

「あたしも詳しくは聞かなかったが、確か昔の班員と、当時の恩師が教員を引退するとか何とかで最後の飲み会だとか言ってたぞ」
「昔の、班員?」
「ああ」

俺はテマリ、カンクロウとだったがなまえは確か……誰と組んんでいたのか……全く思い出せない、というより多分俺は知らない。

「飲み会、か」

何故明確な理由を書いておいてくれなかったのだろうか、俺が行くのを許さないとでも考えたのだろうか、確かにいい顔をして送ることはできないだろうがきっと行くなとは言わなかったはずだ……多分。

「きっと書き忘れたんだろうよ、深い意味なんかないさ、ちなみになまえの恩師はバキの恩師でもあるらしいぞ」

つまりジジイ、引退、定年退職なのだろう。

「そうか、それで元班員は誰がいる?」
「……それを聞いてどうするつもりだい?」
「……別に」
「妙な嫌がらせするんじゃないだろうね」
「そんなことはしない、いいから知ってるなら教えろ」

苦笑しながらテマリは俺の知らない男の名前を口にした、なまえのいた班はすでに解散しているらしい、二人の同期も今は上忍のようだ、あんまりいじめてやるなよ、と言い残してテマリが部屋を出て行った、俺はそこまで底意地悪くはない。少し考えて、決めた。よし、しばらくは長期遠征任務を入れておいてやろう。

こっそりと振り分け任務を書き換え何の気なしに外を見た、今夜は砂嵐がひどくなりそうだ、少しばかりさざめき立つ砂が見える。

今日は特に残業するほどの急ぎの仕事もない、早めに自室へと帰りなまえが作り置きしてくれていた夕食を一人で食べた。美味しいことに変わりはないが、味気ない、決してまずいという意味ではないのだ。

器を洗い、片付けもした。することが何もない、風呂も済ませた、いつもならばすぐそこになまえがいて……。

ああ、よそう、無性に恋しくなってくる、一人きりの自室が異常に広く寒々しく思える、必ず帰ってくるのだから何も心配することなどないのに。

ただ遅くなるとは言ったが、遅いとはどの程度遅くなるのだろうか、悶々と嫌なイメージが膨らんで不快感が込み上げてくる。もし、もしも元班員のやつらが冗談でもなまえにちょっかいを出そうものなら、やつらに明日の朝日を拝ませてやるつもりはない。

早く帰って来ないだろうか、飲み過ぎたりしていないだろうか、酒があまり飲めない俺とは反対になまえはよく飲む方だ、上役との付き合いで料亭に行った時も、付き添いのなまえにこっそりと俺の分を飲んでもらっていたのを思い出す。自分の分に加えて結構な量を飲んだなまえだが、席にいる間は全く顔色ひとつ変えずにいた、しかし家に帰って気を緩めた瞬間にへろへろと座り込んで気持ちが悪いと呟いた。我慢強いのは長所だが、これはこれでいけない。

またあんなふうになってなきゃいいが、そもそも元班員との飲み会だ、きっと気心しれているのだろうから、もしかしたら我慢などせず普通に酔った姿を曝け出しているのではないだろうか……。酔いで潤んだ瞳、薄く染まる頬は薔薇色、ダメだダメだダメだ!そんななまえを他の輩の視界に入れさせてなるものか!

俺は居ても立ってもいられなくなり、こっそり様子を見に行こうと、砂の目を使いなまえを探しに出た。

なまえはすぐに見つかった。

帰って来ている途中のようで、3人並んで歩く人影を見つけた、誰も酔い潰れた様子はない。

「お前あれだけ飲んでシラフと全然変わんねえのな」
「酒豪かよ、こえー!」
「そうでもないよ、今日はみんな揃って先生送り出せてよかった」
「やっと引退だもんな、ヨボジイも」
「昔っからヨボジイだよな、年齢不詳過ぎてこえーもん」
「結局最後まで年齢わかんなかったしね、っていうか定年なんて制度があったことにびっくりした」

わかるー!うけるー!マジかよ!こえー!と感嘆の声が夜道に響く、砂の目で遠くから観察してみたが、二人の元班員は悪いやつではなさそうだ。長期任務はさすがに可哀想だっただろうか、しかし直すのも面倒だ、なまえを俺から少しでも取り上げた罰として放置でいい。

「さってと、早く帰んねえとカミさんにどやされっからなー」
「おーおー帰れ帰れ、俺も彼女んとこ行ってくっかな」
「こんな時間にアポなしで?うっわ非常識ー門前払いさてれしまえ」
「ひっでえ!つーかなまえはいいよなーなんてったって風影様の婚約者だろ?将来安泰過ぎて笑いが止まんねえだろ、正直言ってさ」
「ぶっちゃけどうやって取り入ったわけ?」

元班員二人は不躾にもぐいぐいくる、いささか腹の立つ物言いだが正直な話、なまえの本心が聞けるいい機会だ、今回だけは許してやろう。

「あんたら何?私が富と権力欲しさに……とでも思ってる?これ以上ふざけたこと言ったらありったけの砂飲ませるけど」
「ちょ、タンマタンマ!言いながら砂投げようとすんなって!」
「じゃあなんだよ、なんで風影様の彼女やってんの?」
「もちろん風影としての我愛羅も好きだけど、それ以前に我愛羅っていういち個人が好きだからだけど何か文句ある?」
「「わりい、ない」」

清々しい笑顔に全力で首を振る元班員……俺は愚か者だ、なまえがこんなにも俺を想っていてくれているといのに信じてやることができず、こっそりと調査に出るなどと卑しい真似を……。家までもう近い、砂の目を引き返させ、俺は玄関でなまえを待つことに専念した。

なまえが帰ってくるまでの間、なまえの言葉を何度も思い返す、当然のごとく俺を、俺個人を好きだと言いきってくれた。幸福感に浸りながらじっと玄関が開くのを今か今かと待つ、早く帰ってこい、すぐにでも抱きしめたかった。

ぎ、と数センチ開いた扉、なりふり構わずゆっくり開く扉を引き開け驚いているなまえを引き込むと同時に腕の中へ閉じ込めた。

「が、があ……っ」
「待ってた、なまえのいない時間がひどく長く感じられた」

たった数時間離れただけだが随分と離れていたような錯覚、ほどよく火照ったなまえの身体をこれでもかときつく抱きしめて首筋に顔を埋めた。ほう、とため息らしきものをついたなまえからはほんのりと……いや……随分と……酒臭い。

「……なまえ?」

いつもならば「苦しいよ」と言うなり背中に腕を回すなり何かしらの反応があるのだが……。何故か無反応。怪訝に思い首筋から顔を上げてなまえの顔を覗き込もうとすれば、腕の中からすとんとそのまま床へ座り込んでしまった。

「……き、もちわるい」

飲み過ぎたらしい、帰ってきている時の様子は普通でシラフのようだったが随分と我慢していたようだ、帰り着いて気が抜けたということか。つまり元班員同士といえど、どこか遠慮があった、だが俺にだけは違う。

こんな時に不謹慎ではあるが、にやけが止まらない。

「水、飲むか」
「ほし、い」
「っ、ほら、ゆっくり飲め」

なまえを抱え、ラクな体制を保ちながら砂を使って水の入ったコップを引き寄せる、うまく焦点の合わない潤んだ瞳で言われた言葉にグッとくるものがある。

「当分は断酒した方がよさそうだ」
「……うん、ごめん、ね我愛羅」
「気にするな、このくらい」
「ん、違くて」
「……?」
「さびしい、思いさせて、ごめ」

こんな時まで。

無償の愛、なまえがくれるものにはそんな言葉がぴったりだと思った、泣きそうになるくらい胸が苦しい、こんな心の狭い俺を愛してくれるなまえが愛おし過ぎてどうにかなりそうだ。

「寂しかった、だがなまえは帰ってきた、だからもう平気だ」
「そ、か……ただい、ま」
「おかえり」

ふにゃりと笑った酒臭い彼女も全部愛している。

20131022
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