小話 | ナノ

「我愛羅、ちょっと我愛羅」
「……う」

自分以外の寝息に気付いて目を開けたら、一緒に居るはずのないイトコが隣に居た。

この子まーた人の部屋に忍び込んでベッドに潜り込んで全くもう。どーりで狭いと思った、苦笑交じりに寝癖だらけの頭をぐしゃぐしゃしてやったら動物…まるでペットが主に甘えるようにすり寄ってくる。

「我愛羅、離してくれないかな、仕事に遅れちゃう」
「……」
「狸寝入りはやめなさい」
「いやだ、行くな」

やっぱりこいつ起きてたな、絡みつくように更にすり寄ってくる我愛羅の腕をほどきながら起き上がる、私は何も悪いことはしてないのに我愛羅が世界の終わりだ!みたいに悲しい顔をするから心が痛む。

我愛羅も授業があるでしょーが。行かないなんて言ったらお弁当作ってあげないからね。

「それもいやだ」

わがまま言わないで。離れまいとする我愛羅を押しのけベッドから降りると泣きそうな顔をするから困る、私だって出来れば一緒に居てあげたいけど社会人一年生だし有給もそんなに使えない。

ひとつ年下の我愛羅は大学四年生、後一年で卒業だし大事な時期だ、就職活動がんばりなさいよ、単位落としたり留年なんて言ったらそれこそ口も聞いてあげないから。

渋々起き出して私の後をついてくると我愛羅は口を尖らせて小さくおはようと呟いた、広すぎる一軒家に二人だけ。イトコ同士の私達、変わった家族構成なんだけれど、家族と言うにはいささか親密過ぎた。

こんな生活を続けて早4年と少し、一緒に暮らし始めたのは私が大学入学した年まで遡る。

我愛羅のことは昔から知っていた、幼い頃に両親を亡くして親戚中を転々とたらい回しにされてる子が居ると、おじやおばが話していたのを聞いたことがあった。

不遇の子だと幼心に感じていた、イトコと言っても血縁関係は薄く、本家の家長だった曾祖父が亡くなった時に初めて会って初めて遊んだ、常に暗く沈んだ表情が印象的だったが、笑うととても可愛かったのを覚えている。

大人ばかりの場所に子供は私達だけだったし、仲良くなるのは必然的だったかもしれない。滅多に来ない本家、私も遊んでくれる相手が我愛羅以外に居ないわけだから、縁側の一番隅っこの目立たない場所に縮こまる我愛羅を見つけて、すぐに声を掛けた。

『ねえ』
『……っ!?』
『ひまだよねー』
『……う、うん』
『パパもママもおじさん達に付きっきりだし、ほかにこどもっていないし』
『……きみ、だれ?』
『わたしなまえ、そっちは?』
『ぼく……』
『あー!わかった、がーらでしょ』
『え……なんで』
『さっきおじさんになまえ呼ばれてたのみたもん、あのおじさん怖いからきらーい!一緒にくらしてるの?』
『……うん、ぼくおとうさんとおかあさんいないから』
『そうなんだ、いじわるとかされてない?おばさんもいじわるばあさんみたいな顔だし!あとでわたしがふたりのくつに雑草入れといてあげる!』
『だ、だめ……!おこられるよ』
『あー!がーら笑ったーほんとはやってほしいんでしょ!』
『わ、わ、笑ってない』
『だいじょぶだいじょぶ、わたしさっきも知らないおじさんがカツラ落としたからおおきい声で、カツラ落ちたよー!早くかくしてー!っていってあげたもん』
『ぷっ……!おこられなかった?』
『パパにげんこつされた』
『まだ、いたい?』
『ちょーいたい!』
『えっと、早くなおると、いいね』

我愛羅としゃべって遊んでいた時間はすごく楽しかったし、兄弟がおらず自分がひとつ年上でお姉さんぶることが出来たのが誇らしかった。何より懐いてくれたのが一番嬉しくて、やりたい放題だいぶ無茶もしたから随分と大人に怒られた。そのたびに我愛羅は心配そうにしていたが。

それから何年も経って私が大学受験期間に入った頃、我愛羅と暮らしていたおじとおばが事故で亡くなったことを聞かされ、我愛羅は一体これからどうするのかと思った矢先にうちの両親がこんな提案をした。

私の希望している大学の近くに我愛羅は住んでいる、亡くなったおじとおばの遺産相続人は我愛羅のはず。きっと一人では心もとないだろう、だから希望の大学に合格したあかつきには我愛羅のところに居候すればいいのだと。あわよくばな邪心丸出しな気がしてならないし、第一あれから何年も経っているわけだから我愛羅が了承するかどうかも怪しい。

自分のことだから自分で連絡取りなさいね、なんて提案だけしてあとは丸投げってひどい両親、渋々緊張しながら受話器を手にして番号を押す、3コール半で反応があった、声変わりしたのか少し低くて柔らかい声。聞き覚えがある。

「……なまえ?」
「あ、我愛羅久しぶり」

自分から名乗る前に我愛羅は私を覚えていて私だとわかったらしい、すごい記憶力。やっぱり我愛羅はおじさんとおばさんの家で遺産を相続して今もそこに居るそうだ。社交辞令の挨拶としておじさんとおばさんは残念だったね、と言ったものの我愛羅はそうでもないと答えた。あらまあ。

「正直少しせいせいした」
「おばさん達いい性格してたもんね、悪い意味で、でも元気そうでよかった」
「ああ、なまえはどうだ」
「私も元気」
「しかし何故急に連絡を」
「あ、うんそのことなんだけど」

我愛羅に本来の用件を伝えた、半分は冗談交じり、まさか快く承諾してくれるなんて思いもしなかったから。むしろずっと居てほしいと言われた時にはびっくりした、それから話はとんとん拍子に進んで今に至る。

我愛羅は私のことを覚えていただけじゃなくて、ずっと好きで彼女も全く作らなかったと言った、やだすごい健気。嬉しいとは思うが我愛羅は予想以上に甘えたで、やきもち焼きで、束縛したがり屋さんだ。

「学校行きたくない、なまえも仕事に行くな、なまえと一緒に居たい」
「はいはいわがまま言わない、今日は早上がりでちょっと早く帰ってくるから、我愛羅も授業ちゃんとがんばってきて」
「……」
「今度美味しい焼肉屋さん連れてってあげるから」
「今度とはいつだ」
「え、うーん……」
「嘘ついたらなまえを食べる」
「ずいぶん可愛い表現だけど、言いながら行為に及ぼうとするのやめようね我愛羅」
「……」
「私が今までに約束破ったことある?」
「……ない」
「ほら、次の休みに連れてってあげるから、ね?」
「……わかった」
「うん、いい子いい子」

よしよしと頭を撫でてあげると我愛羅はそれはそれは嬉しそうにするものだから。時折この子大丈夫かな…なんて。養父母のおじおばがいい人ではなかったし我愛羅の性格精神が歪むのは仕方がないこと。

「好きだ」

我愛羅は目が笑ってなかった。

20120927
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