- 噛みちぎって咀嚼して舌で味わった -
さしずめミイラ女ってところかな。
「……お前、また」
「あ、テマリ様おはよございー!」
「もう昼過ぎだぞ」
「おそようございましたー!」
きらりーん!と効果音を口で言いながら敬礼、風影様の寝室から出て来たところ、風影様……我愛羅様の姉であらせられるテマリ様とばったり鉢合わせた。
てへぺろも付けてご挨拶差し上げたがテマリ様は眉間にシワを深く刻み付けて表情を歪めた。あらら、外しちゃった?もしかしてこのご挨拶がお気に触っちゃった系?やっべなまえさんドジっちゃった的な感じですか。
「いい加減我愛羅を甘やかすのはやめろ」
「私全然甘やかしてなんかないですよ?」
「笑えない冗談をほざくな」
私が?風影様を?甘やかす?
えー!そんなつもりは微塵もありませんてば、私の即答に更に更に深く眉間のシワを刻んだテマリ様、私の腕を掴んで軽く握った。
「うぎゃ!」
「死に急いでるのか」
「そんな滅相も……あ痛アア!」
テマリ様は挨拶に対して怒ってらっしゃるわけではなかった、握られてる私の腕には真新しい包帯、そこだけじゃなくて至るところにガーゼと包帯ガーゼと包帯ガーゼと包帯ガーゼと……エンドレス、要するに怪我人って感じであります。任務や修行で付いたものではなくもっと別のもの、愛の印とでも言えば聞こえだけはいい。
愛の印かあ……自分で言っときながらなんか照れちゃう、ひゃー恥ズカシ!
「なまえ、お前があいつにガツンと言わないなら私が言ってやる」
「いやいやいやそんなこれくらい大したことないですし!それに風影様はまだちょっぴり愛情に飢えてるだけですってば」
「そんな愛情表現があってたまるか、血が滲むほどに痛い思いをしてまであいつを受け止めようなんてお前……」
「こんなの痛いうちに入りませんて、風影様の痛みに比べたら、この程度」
テマリ様は私の傷を心配してくださっていたらしい、ちょっぴりガサツなところもあったりするけど弟思いですごくすごーく優しい方、なまえさん今超感動してます!ぜひテマリ姉様と呼ばせてください!姉様!
「大丈夫ですテマリ様、私そんなにヤワじゃないですから」
にんまり笑ってみせたらテマリ様は腑に落ちないような納得いかないような複雑な表情、しかし私は本当に大丈夫なのだ、なまえさん強い子だし回復能力は常人以上だし、こんな傷は舐めときゃすぐに治っちゃうんです。
そもそもなんでこんなにテマリ様が心配をしてくださるのかというと、この私の怪我は全て風影様が付けたものだからである、DVってわけじゃないのです。
風影様は少々甘えん坊である、幼少期にもらうことが出来なかった愛情を今になって欲し、今まで苦労してきた分その反動なのか、とにかく風影様の甘えたぶりは凄まじい、それこそ人前ではクールで強くてかっこいい風影様だがひとたび甘えたモードになったら周りは一切視界に入れず、完全シャットアウト。
いやむしろ周りが『見えてない』と言った方が正しいかもしれない、無口な風影様は言葉の代わりに、自分の思っていることは全てを行動で表現する、風影である手前、体裁云々も含め、さすがに民衆の前でそんな姿を曝すわけにはいかない。
風影という一国の長のプレッシャーと、人の上に立ち国と民を守り引っ張っていく重さと責任、まだまだ私と差ほど変わらない年頃なのに。立派すぎる。
だから多分ストレスのせいなんですよね、オンとオフの差が激しいのは。
「そうは言ってもだな」
「テマリ様ったら心配し過ぎですよー」
「せめて噛み癖だけでも直させるようにしないとだめだな」
いろいろ紆余曲折ありまして、風影様にいたく気に入られたらしい私は任務と称して風影様の日常生活のお世話役を仰せつかって、なんかもう通い妻的なポジショニングになってるわけなんですよね(3年目になります)風影様ファンの方々に知られたら私にきっと明日はないな!
で、通い妻みたいなことをしていたらある日突然風影様がブチ切れてしまいまして(怒ったわけではない)まず涙腺が決壊したかと思えば、もし母親が生きていたのなら母親からの愛情はきっとこのようなものだったのだろうな、なんておっしゃいました後、次に手加減なしでタックルからの三角締めに近しい抱きしめ方で私は危うく天に召されるところでした。
それから、恋しいというのはとても苦しい、とかなんとかおっしゃられて私はもうそれどころじゃないんですよ骨がみしみし言ってます風影様、私ガチで苦しいです、やばい死んじゃう。風影様ギブ。
ブチ切れてしまったことにより吹っ切れたらしい風影様は暇が出来れば私を呼び付けて気が済むまで絶対離しません、きつく抱き締め上げられて鬱血痕が出来ることもありましたし、テマリ様の言うようにいつの間にか噛み付く癖が出来てました。
傷のほとんどは噛み付きによるものが多く、風影様もご自身で自制しようとはしているようなのですが、どうにもならないようです、血が滲むたびに風影様は何度も謝ってくださりながら傷に舌を這わせて、また噛む。
「いつだったかひどい出血だったこともあっただろうが」
「いやあ、さすがにあの時は私もびっくりしましたよー肉まで食いちぎられたかと、あはは」
「笑い事じゃない!」
私はどこにも行かないっていうのに風影様は甘えたモードになるとひどく臆病になります、風影様の兄、カンクロウ様と私が挨拶をするだけでもいい顔をしません、そして拗ねる。噛み付く。
私が風影様のものであるとマーキングのつもりなんですかね?そんなことしなくてもどこにも行きませんてば、もう愛されすぎて私幸せすぎじゃないですか。
「いい加減手遅れになる前にしっかりと我愛羅に」
「……おい」
「我愛羅!?」
「あ、風影様、起きちゃいました?」
寝室の扉から顔を半分だけ覗かせてテマリ様を恨めしげに見遣る風影様、私が寝室を出たのは風影様が眠ったからだ、起こさないように声を抑え目に話しをしていたつもりだったんだけど。
「……起きたらなまえが居なかった」
「すみません、風影様は朝も食べてないからと思って食事を」
「……そうか、それは感謝するが勝手に居なくなるな」
「はーい」
風影様は寝室の扉から半分身を乗り出して私の腕を掴むと再び部屋に引き込む、テマリ様が何かを言いかけたけど、それを遮って口を開いた。
「……おれのなまえだ」
「我愛羅!」
「……心配するな、大事にする」
風影様それって!
申し訳なさそうにしてるお顔は見ていてつらい、風影様はやわやわと私の耳たぶを唇で甘噛みしながら扉を閉めた。
噛みちぎって咀嚼して舌で味わった
(傷付けたいわけじゃない)
我愛羅があついです、我愛羅。
20120515
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