小話 | ナノ

最近やぐら様が冷たい、一緒にお出掛けしましょうって誘っても嫌だの一点張りで理由も聞かせてくれないのです、お部屋でまったり過ごしている時は割とマシなのですが。

「やぐら様、備品を一緒に買いに行ってくださいませんか?」
「俺は行かない」
「どうしてです?」
「買い出しくらい一人で行けるだろ、わざわざ俺が一緒に行く理由がないし」
「でも私、やぐら様と一緒に」
「……」
「あの、お出掛けもしたくて」
「くどい」

そんなやり取りがあった数分前、結局一人で寂しく備品の調達に来ました。普通のデートとしてのお出掛けも嫌がるようになってきていたので、業務的なお出掛けだったら一緒に行ってくださるかと思いましたが甘かったようです。もしかしてやぐら様、私が隣に居るのが恥ずかしいんじゃ……私があまり強い忍ではないから。
実力が物を言うこの世界、もしかしたらやぐら様はお情けで私と仕方なくお付き合いをしてくださっているのでは。そばにいろと仰ったのも私が弱いから、遠くにいるよりも敵襲の時に防ぎやすいから。

「おやなまえちゃん、どうしたんだい浮かない顔して」
「こんにちは、おばさま」
「今日も水影様とは一緒じゃないんだね」
「え、と」
「最近一緒に居るところをとんと見ないじゃないか、水影様はお元気かい?」
「……」

金物屋のおばさまが声を掛けてくれた、ずばり一番悩んでいるところに直球を叩き込まれる、なんて答えたらいいんだろう、最近はお忙しいから、と笑って誤魔化せばいいのに私はバカみたいに正直だから嘘をつくのは苦手、それに嘘をついてまで悩みをひた隠すのも下手。

上手い言葉が思いつかず黙り込んでは次第に視線が足元へと移る、やぐら様はどうして私と出掛けるのを拒むのでしょう、怒らせてしまうようなことをしてしまった?お疲れになっているだけ?

それとも。

「私、嫌われて、しまったのでしょう、か」

ようやく出てきたのは不安、一番恐れていたこと、思いがけず震えた声に感情全てを溜め込んだものが瞳からぽたりと落ちた。

「いきなりどうしたんだい!嫌われたかもしれないって?」
「やぐら様は、最近私とお出掛けになるのを嫌がるので」
「あんた考え過ぎなんじゃないかい?前に一緒に居たところを見掛けた時は、そりゃあもう水影様の幸せそうな顔と言ったら!」
「で、でも」
「何があったかは知らないけどねえ、水影様は本当になまえちゃんのこと大切にしたいと思ってる、あたしにゃそう感じられたよ」

そうじゃなきゃ何か理由があるはずだ、ほらほら泣く暇があるんなら水影様に自分の思ってることどーんとぶつけてみなって!おばさまが陽だまりのように暖かい笑顔をくださった、そうですよね、めそめそするより直球勝負でやぐら様にお尋ねしてみればいいんですよね。

目元を袖口で拭い、おばさまに微笑み返す。

「こんないい顔あたしに向けないで……」

一瞬言葉を切ったおばさまは後方を指差しながらまた二カッと笑った。

「水影様に見せて差し上げな」
「え」

釣られて後ろを振り返ればなり振り構わず駆けてくるやぐら様、何故やぐら様がここに。

「なまえ!」
「や、やぐら様!どうして」
「どうしてもこうしてもないし!遅いんだよ帰りが!」

珍しく息を弾ませるやぐら様が私を睨むように見上げた、私の顔を見るなりバツが悪そうに視線を外す。僅かに開けられたお互いの距離に胸が痛むけれど、くよくよはしていられません。

今が時、言わなければ!私は思いきって胸の内を明かした、もしも何か粗相をしてしまっていたら申し訳ありません、理由が全然見当たらなくて、お願いですから私を嫌いにならないでいてください、私もっと強くなってみせますから、やぐら様に釣り合うように。

深々と頭を下げた、やぐら様が一歩近付いたことだけ感じ取れてすぐにやぐら様のため息、また不安が込み上げる。

「はあ?俺がなまえを嫌うなんてありえないし」
「え、で、でも」
「むしろ謝るのは俺の方、完全に八つ当たり」

あーあ、ちくしょう。そう悔しげに零したやぐら様、恐る恐る顔を上げてみればご自分の前髪をくしゃりと掴んだやぐら様と視線がぶつかった。

「顔、上げろ」
「えと、はい」

八つ当たりってなんのことでしょう、やぐら様は何か上手くいかないことがあって思い悩んでるのでしょうか。

来い、と一言だけ言われて腕を掴まれ歩き出したやぐら様に半ば引きずられるようにして連れられる、水影邸へと向かっているようです、道中呼びかけても反応を返してくださらない、水影邸に到着するなり寝室へと一直線。ベッドへと突き飛ばされ上にのし掛かられ私はすっかり萎縮してしまいました。

「俺はこうしなきゃお前より優位に立てない」
「わ、私よりもお強くて偉大じゃないですか!」
「地位の問題じゃない、物理的に埋まらない身長差」

恥ずかしさから裏返ってしまう声をようやく絞り出したというのに、やぐら様は予想を遥かに超えたことを仰いました。身長差といえば、身長についての事柄はやぐら様にとってはタブー、ちなみに160cm前後のやぐら様に対して私は170cm。

「やぐら、様」
「俺のが小せえから女が可哀想だってコソコソ言われてなまえが気負うのも嫌だし!」
「あ、あの」
「守ってやりたいのに、守ってやれてるように見えてないのが悔しかったんだよ悪かったな!」

やぐら様の勢いは凄まじい、そんな、私はいつもいつもやぐら様に守って頂いてばかりで今回だってそんなふうに私のことを思ってくださっていて、周りの目なんか気になさらなくて構わないのに。誰になんと言われようとやぐら様がずっと私をおそばに置いてくださるなら、それだけでいいのに。

「私はやぐら様にいらないと言われることの方が嫌です、あの、私!やぐら様が小さいことなんか気にしてません!」
「いや小せえこと気にしてんの俺だし……」
「風評なんか気になさらないでください、水影様として堂々としてください、私は強くてお優しくて小さいやぐら様を心から尊敬してお慕いしています!」
「小さいってのは余計だしィ!でも、そう言われて吹っ切れた気がする、悪かったな、折角誘ってくれてたのに」
「いえ、あの、やぐら様」

はにかんだやぐら様は素敵です、でも可愛らしいとは口が避けても言えません。

「次は一緒にお出掛けしてくださいますか?」
「ああそうだな、仕方ないから行ってやる」




夢主の方が背が高いっていうのに萌えます。

20130507
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