ダウナーダウナー | ナノ

大谷くんのマンションに来た、オートロックのエントランスまでやってきてウロウロ。まるで不審者だ。

それもそのはずである、今日は大谷くんのところに私一人。何故なら高虎は部活、三成は生徒会、授業やら他諸々でもらったプリントは毎日高虎か三成が届けている。しかし今日、どちらも手が離せないと言って私が届けることになってしまったのである。

初めてのお使い高校生編である、笑えない。まずどうやってプリントを渡そうか、いきなりプリント持ってきたよーはいどうぞーはいさよならー、だとぶっきらぼうっぽいし。きっと高虎と三成からは大バッシングだ、もっと話し相手になってやれだとか、少しでも学校に行く気にさせるよう仕向けろとか無茶も言うと思う。

ムリでしょ。普通にムリでしょ。

困った、ううう困ったぞ。うろうろうろうろ、このままここで立ち往生してたらそのうち通報されてしまうかもしれない。でも大谷くんにどうやってプリント渡そう。ポストにインしちゃだめかな、だめだよね!それこそ高虎と三成に殺される、大袈裟だと思うかもしれないけど絶対そうなる。
あの二人の私に対する言葉の暴力は半端ないって経験上わかりきってるから。特に三成。


「ああちくしょう、埒があかない!当たって砕けろどうにでもなってしまえこの野郎!」


かれこれ10分ほどうろうろしていただろうか、いい加減このマンションの他の住人と鉢合わせて気まずい雰囲気になるのも、通報されてしまうのも絶対に嫌だったので、翌日高虎と三成のバッシングに覚悟を決めてプランA(プリント渡してはいさよなら作戦)を実行することにした。
ちなみにプランBはポストにインである。エントランスに設置されたインターフォンのパネルに向かい、震える指で部屋番号を押す。ピーンポーンと間延びした呼び出し音、微かなノイズが聞こえてたっぷり約5秒、やや間があって「……はい」大谷くんの呟く声が返ってきた。


「え、あっ、よかった大谷くんいた!私!なまえ、この前高虎と三成と一緒にきたなまえさんですよー!覚えてるかな、いきなりごめんね大谷くん!今日は大事なプリント……ええと教科書の案内とかのやつなんだけど高虎は部活で三成は生徒会で行けないって言っててプリントがないと教科書のことだから大谷くん困るだろうしそれで私……!」
「……ああ」


焦って慌てて矢継ぎ早にしゃべりまくる、ひと呼吸おいたところに大谷くんが返事なのかなんなのかイマイチよくわからない声をくれた。その直後に自動ドアが開いたので、とりあえずプリントを受け取ってくれる意思はあるらしい。
開いた自動ドアの前で僅かにまごついていると、自動ドアが閉まりかけた。つんのめるようにして転がり込み、深呼吸をしてからエレベーターに乗って未だに震える指で最上階のボタンを選ぶ。
大丈夫落ち着けなまえ、相手は別に化け物ってわけじゃないんだから平気平気、ただ少し人見知りなシャイボーイだ、何をそんなに緊張しているんだなまえ、シャキッとしろシャキッと!

自分に喝を入れて、到着した最上階フロアの床を踏む。心なしか膝が笑い出しそうだ。ぷるぷる。

チン、とエレベーターが最上階ですよと教えてくれる。角の大谷くんの部屋を目指して歩みを進めた、あっという間に部屋の前までやってきて、インターフォンを鳴らそうかどうしようか、私の中で天使と悪魔が言い争っている。
早くしろ、いや待てもう少し落ち着いてから。
もだもだしているうちにスッとドアが薄く開いた、びっくりして半歩後ずさると大谷くんの微かな声がした。


「……プリント」
「あ、ああ大谷くんこんにちは!急にごめんね、私大谷くんの連絡先知らなくてさ、でも連絡なら高虎か三成からきてると思うんだ、はいこれ!あと年間行事と学校新聞、こっちが購買の営業開始日とかの連絡ね」
「……ああ」


ゆるりとドアの隙間から白すぎる腕が伸びてプリント類をあっという間に掻っ攫っていった。大谷くんの背後に見える暗い室内、そんな部屋の主の大谷くんは虚ろな目をして私ではなく俯き気味に斜め下を向いている。
これは完全にお呼びじゃなかったパターンだ、きっと私の訪問は大谷くんにとって負担、ストレス以外の何物でもない。対人恐怖症みたいなのって、程度もあるけどよく知らない人と会うことにひどくストレスを感じるもの、って何かの本で読んだことがある。

少し寂しい気持ちになるけれど同じくらいの不満も湧く、どうしてこんな態度を取られなくちゃならないの?
そりゃあ人見知り、というか重度の対人恐怖症だから仕方ないんだろうけど、ねえ?私って心が狭いのかな、そんなことを考えていたら大谷くんにチラ見された。すぐに逸らされたのが気に食わなくて、言ってしまえば正直イラッとした。


「プリントはちゃんと渡したからね?じゃあ大谷くん、また学校で会おうね」
「……」


だから嫌味のつもりで言ってやった。わざと学校で、のところを強調して私はもうここへは来ないという意味合いも含めたつもりだけど、悟ってくれただろうか。最後にもう一度またねと言い捨てて返事は待たずにその場を離れた。
なんでこんなにイライラするんだろう、全然すっきりしないし考えれば考えるほどわけがわからなくなる。きっと私はああいう人種が苦手なんだろう、そう勝手に結論付けて家路に着いた。

イライラもしたけどモヤモヤもした。それに少し、後悔もした。

20160105
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