ダウナーダウナー | ナノ

高虎がお茶とお茶菓子を用意して戻ってきた、うさぎのお饅頭とどら焼き、餡ものは絶対に高虎の趣味だ間違いない。よく来るから常備してあるんだろう。
ローテーブルに一人一人の前へとお茶とお茶菓子を置くと、高虎も空いている場所に胡座をかいた。


「吉継、これが連れてくって言っておいたなまえだ」
「ど、どうも〜」
「……」


物みたいな紹介のされ方でももう気にしないことにした、だってそれ以上に空気がまずい。気まずい、非常に大変おいしくない。
大谷くんはチラッと私を一瞥してすぐに視線を自分のつま先に下げた、長くて羨ましいほど綺麗な黒髪がさらりと肩から滑り落ちる。猫耳みたいなニットの帽子を深々と被って膝を抱えているせいか、印象は随分と暗い。

ひきこもりだからなのか、元々なのか色白で、陶器みたい。三成よりも長い髪がまた一房肩から滑り落ちた。
やっぱり連絡をしてあったとはいえ、お呼びじゃなかったんだ、高虎と三成を見ても肩を竦められるだけで二人は何も言ってくれない。
なんか言おうよ。言えよ!むりやり連れてきたくせに無責任だ、私ばっかり気まずくてさあ!帰りたい!


「……、」
「え」


気まずさに押し潰されそうになっていると、ふいに大谷くんがものっすごく小さく何かを呟いた。聞こえなくて聞き返せば、またチラッと私を一瞥して申し訳程度に大きくされた音量で呟いた。


「……おばQ、の」
「おばっ!?や、ややや、やめてえええ思い出さないでほしい黒歴史いいい!」


泣ける、顔から火が出そうだった。思わず頭を抱えて羞恥と怒りと憤慨の矛先を高虎に向けた。そういえばこいつらは私の残念過ぎる仮装のムービーを大谷くんに見せてしまっていたんだ。


「高虎ァアア!」


胸ぐらを掴んで前後に揺する、古傷を抉るのやめよう、ね!高虎も三成もなに笑ってるの、面白い奴だろう?私の知らないところで私をギャグ要員に仕立てるのやめてよ!
大谷くん、なんでそこで頷いてるの「今からなまえはおばQでいい」三成ィイイ!


「お前がよそよそしいと吉継も打ち解けられないだろ、普段通りへらへらしてればいい」
「そうだ、馬鹿は阿呆面でいればいいのだよ」
「ねえ待って、私の扱いひどくない?いつもより三割増しで辛辣じゃない?」


真面目な顔で受け答え。
ほんのりと、ごくごく僅かに笑った大谷くんに不貞腐れつつも、さっきよりも居心地が良くなってきていることに安心した。いつもの調子が取り戻せそう。

だからなんでもいいから話題をすり替えたくて、思い付いたことを深く考えずに口にした。地雷だと気付けるはずもなく。


「ところで、大谷くんはいつ学校来るの?」
「……死に、絶えたい」
「なまえ!このクズが!」
「ばかやろう!なんてやつだ!」
「え?え?なになに私いきなり地雷踏んだ!?」


調子に乗ってこの様である。
勢いやよしでぶっこみすぎたらしい、純粋な疑問をぶつけたら地雷でした。もしかしなくても『学校』ってNGワードなの?ちょっと待って、そしたら学校に関する話題全部がダメじゃないの。

大谷くんは抱えた膝に顔を埋めてしまい、もそりと呟いたきり動かなくなった。まさかほんとに死んでないよね。ばかだのクズだの言われた私もそれなりに傷心なんですが、そこは華麗にスルーされているようだ。つらい。


「学校が禁句なわけじゃねえ、いつ学校に来るの?っていう文がNGだ!」
「めんどくさい!なんだろうとてもめんどくさい!」
「これだからクズは……」
「ひどい!いつぞやのしおらしい三成どこ行った!?」


どこに行っても詰られる!
どうしたものかと焦ったけれど、気が付けば居心地はいつもの教室みたいに和やかだった。大谷くんは膝に埋めた顔を時折僅かに持ち上げてこちらをチラ見する、めんどくさいな!もう!と、口にはしないが心の中で叫んだのは言うまでもない。

20160105
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