ダウナーダウナー | ナノ

始業式が終わって教室でだらだら、うちのクラスのホームルームは始業式前にやっちゃってるから式が終われば流れ解散。
先にできることは先にって、大殿先生のこういうところが好き、別のクラスになった友達に廊下で会った時、大殿先生が担任だということをものすごく羨ましがられた。ふふん、優越感。


「で、なんで高虎がいるの?」


三成に言われたように、私は律儀にも教室で三成を待っていた。そしたら当然の如く高虎が私の横に陣取って一緒に三成を待つという構図ができあがった。
訝しげな視線を送っても動じない高虎は、知ったような口調で言った。


「吉継のこと、言われただろ?」


ご名答である。


「うん、話があるからって三成が」
「少しは聞いたろ」
「私の後ろの席でしょ?全然学校来てないから単位やばいって、後は三成が中学からで、高虎は小学生からの付き合いなんだよね、その大谷くんとやら」
「ああ」


高虎は懐かしむような憂うような表情で頷いた。


「それに三成から聞いてないのか?」
「何を」
「俺もいるってこと」
「高虎のたの字も出なかったけど」
「……あ、そ」


うなだれる高虎。
そういえば三成って時々肝心なところを話さないことが多々ある、存外抜けているのか、高虎だし別にいっか!的なノリなのか。

とりあえずなんの話しをするのか、議題は大谷くんについてであることだけはわかった。でもその大谷くんの何について話すの?学校に来ないと卒業できないよ、学校においでよって言いに行くの?その段取りの作戦会議でもするの?


「簡単に言えばそうなるな」
「いやいやダメでしょ」
「何故だ」
「何故ってこっちが聞きたいよ!私に何ができんの、大谷くんが俗に言う引きこもりってやつなら、知らない人ってだけでアウトでしょ」
「ただの引きこもりならどれだけいいか」
「……それどういう意味よ」
「あいつは昔から虚弱体質で対人恐怖症と鬱の気がある」
「それ専門家に任せた方がいいと思うんだけど」


いろいろ併発し過ぎて手に負える相手じゃない、鬱をナメてると痛い目見るよ!高虎と三成が友達である大谷くんに、学校へ来て欲しいと思う気持ちはよくわかる。
だって友達だもん、それ以上の理由なんてない。

きっと今まであの手この手で大谷くんを学校に連れてこようと奮闘したんだろうなあ、きっと二人のおかげで大谷くんはギリギリ高校生として生きている。と言っても過言ではない。

これは私の勝手な憶測、二人から大谷くんのことについて一度も聞いたことはないし、私自身、二人とは高校からの付き合いだから、事情を知るはずもない。
たった今からいろんな事情を知らされようとしているところなんだけどね。

兎にも角にも私の出る幕じゃないと思う。


「おい」
「ああ、来たか三成」


ホームルームを終えてきたらしい三成が、教室に入ってきた。いつもの癖で思わず身構えると三成の眉間にしわが刻まれる。おおこわ。


「……」
「黙ってたら話が進まねえだろ、さっさと言っちまえ」
「え、なに高虎ってば三成となんか共謀してるの?」
「なまえは黙って聞いてろ」


むすっと不機嫌……というよりは拗ねた風に見える、いつもと違う空気に居心地がよろしくないぞ、言い淀む三成に高虎がせっついて促している。
そんなに言いにくいことなの?っていうか大谷くんの話題じゃないの?大谷くんどこいった。


「……なまえには、感謝している」
「突然ですが!?」
「損な性格だとよく言われる」
「損というか、残念というか……」
「黙って聞けグズ」
「……」


ほんともうやだこの人……心折れる。
感謝してるなんて言っておきながらグズって、そんな。
辛抱強く三成の次の言葉を待っていれば、まっすぐ私を見据えて形のいい唇が信じられない言葉を紡いだ。


「俺はなまえを友だと思っている」
「はあ」
「つい高圧的になってしまったり、心にもないことを口走ることも多々あった」
(多々っていうか常だよね、自覚はあったんだ……ひえーびっくり)
「それでも俺を無視したりはしなかったなまえに……その、感謝というか、礼は言う……」
(うん、単に三成の報復が怖かったから無視とかできなかっただけなんだよね!内緒だけど)
「……特にいろんな行事毎にしつこい女子共から遠ざけてくれたこと、まあ、その……ありがたかった」


ああ……あれか、いやね、なんていうか別に助けたわけじゃないのよ、結果的に女子を遠ざけたことになっただけで私は何もしていない。
厳密に言えば兼続先輩と孫市先輩のおかげである、例えばヴァレンタインなんかの時に三成へと猛攻撃を仕掛けてくる女子達の進路先に、兼続先輩と孫市先輩を呼び出してポンとそこに置いておくだけであら不思議、女子達は一斉に回れ右。
その隙に三成は避難するのである。

まああれは兼続先輩と孫市先輩が私にモテたいだのなんだのと泣きついてくるからで(正直鬱陶しい)三成の近くに居させてあげれば一人くらいは……なんて思ったんだけど惨敗、兼続先輩も孫市先輩も三成を恨めしげに見てたっけなあ。

ああ、話が逸れちゃった。
それで?と高虎に視線を送れば、三成とも視線を絡ませてお互いに頷いている。


「俺と三成と吉継は友だ」
「わかってるよ、それは」
「それから俺と三成となまえも友だな?」
「まあ、そうだね」


確認を取るようにして高虎が続けた、この流れでいくと、行き着く先は「友達の友達も、また友達である」っていう法則が当てはまるんじゃないかな。


「なまえにしては理解が早いではないか」
「ねえ三成、ほんとに私のこと友達だと思ってる?」
「さ、さっきも恥じを忍んで言っただろう!」


カッと頬を赤くさせて三成が怒鳴った、めんどくさいなこのツンデレ。初めて私にデレが出たけど全然嬉しくない、いつもの三成じゃないから逆に怖いだけで、口にはしないけど気色悪い。
グズが馬鹿が阿呆が!と照れ隠しらしい罵詈雑言を思いつく限り口にする三成、このままじゃ埒が明かないと判断したのか、高虎が続きを買って出た。
的確な判断ありがとう。


「三成が言いたいのは、横暴な態度を取っても見捨てないでくれるなまえの優しいところを頼りたい、なまえとも友になればきっと吉継はまた学校に来たくなる、そんなところだ」
「……フン」
「だからなまえ、お前にも吉継が学校に来れるよう協力してほしい」
「言うのは簡単だけど、私大谷くんのことほんっとに知らないし大谷くんだってそれは同じ……」
「じゃない」
「え」
「吉継はお前のことを知ってるぞ」
「なにそれこわい」


突然のホラー発言やめて、なんで知ってるのと聞くまでもなく高虎が説明をしてくれた。

大谷くんが引きこもるようになったのは中学生の半ば頃から。元々虚弱体質だったからよく体調を崩していたのもあるけど、それだけじゃない理由で徐々に休みがちになって、そのたびに高虎と三成が家に訪ねに行ってたらしい。

その日あったことや授業の進み具合、他愛ないことをしゃべったり、時にはゲームをしたり、幼馴染同然の高虎と三成には、対人恐怖症の大谷くんも普通に接することができるんだって。

それは高校に上がってからも変わらなくて、そこで高虎と三成に新しい友達ができる。
……私だ。
いつものように高虎と三成が大谷くんのところに行って、他愛ないことをしゃべるんだけど、正則がまた変な髪型をしてるとか、清正もさりげなくワックスで髪を立てたりしたけどすっごい違和感があるとか。
周りにいる人達の話題を出せば当然そこにポッと私の話題が出てもなんら不思議はない、高校に上がってから高虎と三成、私を含めた三人は何かとつるむことが多かったから。
同じクラスだったし。

だから必然的に私の話題が多くなるのも当然で、ふざけて撮った写メやムービーを見せたりしたこともあって、大谷くんは私の存在をそれなりに認識しているらしい。


「まさかとは思うけど……あのムービーは見せてないよね?」
「……」
「……」
「ちょっとォ!?二人して目ェ逸らすとか!うわあ……うわあなんてことだ……」
「大丈夫だなまえ、あれには吉継も珍しく大ウケだった!」
「高虎……そんなフォロー嬉しくない、誰にも見せないって約束したのに……」


項垂れる他に何ができようか。
去年の学園祭で仮装コンテストがあった、それでジャンケンに負けた私は出場することになったんだけど、その仮装のテーマが『恐怖』

夏らしいといえば夏らしい、ベタに貞子とかやればいいかなあなんて軽い気持ちでいたんだけど、みんなが私に要求したのは和製ホラーのような精神的に訴えるものではなく、もっと視覚的に不快感を煽るような洋風ホラー。
あれだ、映画『IT』に出てくるようなピエロ。
おばけのQ太郎をもっとどぎつく、ピエロの要素をふんだんに盛り込んだ風貌、キラークラウンのような禍々しさを取り入れたもの。

仕上がりはほんと毒々しかった、素人の高校生が手探りで作ったものだから、明るい場所で見ればそりゃあ出来映えはいくらか杜撰さが目立つ。
でも薄暗い場所で見ればそれなりの怖さがあった、その格好で校内を一周して後で投票してもらうってことだったんだけど、すれ違う人達が揃いも揃って「ギャーキモい!」って言うわけ。

恥ずかしいやらやるせないやら、足を引きずるように徘徊してたもんだから雰囲気はそれなりにでてたんじゃないかな、結局優勝したのはベタに貞子をやった人だったからうなだれちゃうよね。

それで私がこの黒歴史というか恥さらしみたいな格好をして校内を徘徊している様を高虎と三成が、一部始終をムービーで撮っていたのである。絶対誰にも見せないってのを約束して、保存を許したけど……ああもう。

今度高虎の目の前でお饅頭食べ散らかして、三成にはぐずぐずになった柿を投げつけてやる!
結局なんやかんかで私は二人に連れられて大谷くんのおうちに行くことになりました、強制です。

20150620
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