ダウナーダウナー | ナノ

端正な顔立ち、むだにサラサラした髪。
あいつは私を見つけると鼻を鳴らして不機嫌丸出しの表情で小突いてきやがった。


「くたばれ三成!」
「……」
「うわああんごめんなさいごめんなさい!高虎ァアア!」
「勝算のない喧嘩を買うんじゃない、三成もいい加減なまえをいじってやるな、本格的に嫌われるぞ」
「別に構わん、その間抜け顏が気に食わないのだよ、仕方あるまい」


三成が先にけしかけてきたくせに!態度がでかい!横暴!口喧嘩で勝てる見込みが全くないために、売り言葉に買い言葉は全部飲み込んだ。

たしなめてくれる高虎は仲裁だ、あくまで中立、完全に味方してくれるわけではないけれど、見放されるよりはずっといい。
そんな高虎の背に隠れるようにして三成から距離を取った、睨んでくる三成を見ないように高虎と直虎を引っ張って先を急ぐ。
体育館に移動し、自分達のクラスの列へ紛れれば一安心。


「おい」
「キャアアアア!」


かと思いきや、何故か隣にいる三成に心臓が飛び出るかと思った、なんで隣なの!?え?なんで?よくよく考えてみたら三成は隣のクラス、そして名字は「石田」だからあ行、クラスごとに並んで、並ぶ順番は席順である。必然的に近くなっちゃうよね、私も「卯月」であ行だから……。


「やだ……もう私改姓したい、いっそ藤堂とかになりたい……」
「高虎はお前なんかを嫁にもらうくらいなら一生独身でいいと言うと思うが」
「別に高虎と結婚したいなんて言ってないし!でも三成とだったら断然高虎だけどね!」
「俺の方こそお前など願い下げだ」


私が気に食わないんだったら無視すればいいのに、この三成はいちいち突っかかってきて揚げ足取ったり小馬鹿にしたり小学生か!
もう何言われれても無視だ無視、丁度始業式が始まって、校長先生が出てきた。大抵おんなじことしか言わないからほとんど誰も聞いてないんだよね、早く終わらないかな。


「おい」


はいはい無視無視。小声で話しかけてくる三成はいないものとする「おい」絶対に返事なんかしてやらないんだ、意地でもしない「おい」私は決めたのだ、ここに石田三成なんて人はいない、存在すらしないんだ。そこにはミトコンドリアしかいない。


「おい、と言っている!」
「いったい!」


先生達に気付かれない怒られない程度に声を荒らげ、三成が私の頬っぺたを抓って引っ張った。いじめ!これめっちゃいじめ、痛い!三成の手をはたき落として、抓られた頬っぺたをさする、じんじんと痛む頬っぺた。
こいつ本気で抓りやがった!
睨むように三成を見れば、相変わらず小声で話しかけてくる。なんなのもう、私の顔が不愉快なんでしょ?話し掛けんなバーカバーカ三成の別嬪!


「吉継は」
「は?誰?」


突然真面目くさった表情でどなたか存じ上げない名前が飛び出した。よしつぐ?私はなまえですけど。


「吉継だ、大谷吉継」
「誰それ」
「お前のクラスだろう、お前の後ろの席のはずだ」


大谷?大谷……ああ、そういえばいたかもしれない、いや本人はいなかったけど、名簿には存在していた。確か諸事情でお休みって大殿先生が言ってたっけ。


「三成の友達?」
「中学が一緒だった」
「へー」
「確か高虎は小学生の頃から一緒だったはずだ」
「あ、そうなの?でも高虎と話してる時にその大谷くんとやらの話題は出たことないよ?」
「当たり前だ、学校にほとんど来ていない」
「よく進級できたね、大谷くんとやら」
「ギリギリだ、そろそろ来ないと卒業が危うい」
「それってやばくない?」
「ああ」


ぶっちゃけ、だからどうしたのと言いたい、私の頭には疑問符がいっぱい浮かんでいる。それに全然無関係な私にそれを言う意味がわからない、三成は小さく「グズが……」と呟いて睨んできた。ちょっと何それいきなりひどい!

睨み返してもいいことなんかなんにもないので私は斜め下の床をじっと睨む。
……高虎と三成の友達かあ、どんな人なんだろ、全然想像つかないや。そもそも三成に友達がいたことにびっくりである、後が怖いからこれは口にしない。

全然学校に来てなくて、2年次の時点で卒業が危ういって相当来てないことになる。
いわゆるヒキコモリってやつだろうか。


「それで?」
「……」
「なんで黙るの」
「……ここでは話しにくい、始業式が終わったら来い」
「はあ?どこに」
「……やはり、俺が行く」
「だからどこ……」
「教室で待っていろ」
「は?」


一方的に話しを進められ、やっぱり一方的に会話をぶった切られる、三成はそれ以上口を開こうとはせず、そのまま前を向いてしまって、私が何を聞いても返事はおろか、見向きもしてくれなかった。

イラっとしたので腹いせに三成のふくらはぎを申し訳程度につま先で蹴ったら、引きちぎられるんじゃないかというほどに二の腕を抓られた。3倍返しはホワイトデーだけで十分だ!いたい!

20150620
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