ダウナーダウナー | ナノ

新緑新芽、春の息吹。
心機一転した清々しい気持ちを胸に二年目の付き合いとなる制服に袖を通す。薄っすら感じる肌寒さに、新調したチャコールグレーのカーディガンはさっきタグを取ったばかり。
意気揚々と家を飛び出し、頭上に延々と広がる晴天を仰いでにんまりと口元が緩んだ。


「一人でニヤニヤして不審者か、気持ち悪いぞ」
「はああ!?乙女に気持ち悪いとか!高虎なんかその辺のドブに落ちてしまえ」
「残念だったな、この辺りにドブなんかない」


せっかくの清々しい気持ちが一瞬で台無しになった、この藤堂高虎というやつは去年同じクラスだった人物である、そして私が勝手に作った変な髪型ランキングの上位に食い込むツワモノだ。そして手ぬぐいを集めるのが趣味というキワモノである。


「あーあー朝から高虎の顔とかないわー、テンション下がるわー」
「そんななまえに朗報だ、今年もまた同じクラスだぞ」
「なんかもう学校行きたくなくなってきた」
「相変わらず失礼なやつだな」


じろりと睨んでくる高虎に肩を竦めてやった、きゃー高虎くんコワイ!
それより、なんでもうクラス分けの結果知ってんの?エスパー?


「昨日部活のミーティングで学校にいたんだよ」
「へえ、じゃあもう昨日の時点で貼り出されてたの?」
「ああ」


後は直虎もいたな、ってほんと?やったね、嬉しい!席順で絶対私達前後になること間違いなし、直虎は名字が井伊で、私が卯月だから間に誰か来ることはほとんどないと思う。
小学校からの付き合いである直虎とはずっと同じ学校なんだけどなかなか同じクラスになる機会がなかった、それが高2にしてやっとだ。


「で、残念な知らせもある」
「うっそ、まさか三成も……」
「三成は別クラス」
「朗報!それのが朗報でしょ、ああもうこれでパシリになんなくて済むー!」


最初にそれ言ってよ、地味に気にしてたんだから。三成と別クラスっていうのが朗報で、高虎とまた同じクラスっていうのが残念なお知らせ、そうやって訂正すれば高虎は「俺と同じクラスになるのがそんなに嫌かよ……」ってちょっとしょげてた。
三成よりはいいよ、すごくいい。





「ああん直虎ー!」
「ひゃあっ!」


玄関先でちらっと見たクラスの振り分け表で私達が2-Aであることを確認、教室には余裕の到着。見知った顔を見つけて早速タックルの如く飛びつけば、跳ねた肩と共にたわわな胸が連動する。
相変わらずのバインバイン……羨ましい。


「直虎おはよー」
「あっ、なまえちゃん!同じクラスだったんだね」
「そ、私の席って直虎の後ろだよね?」
「うん、よかったあ私知り合いいなくて……あっ、高虎さんも?」
「ああ」
「虎虎コンビだー」
「す、すみませんすみません!わわわ私如きがすみません!」
「お、おいおい……」
「あー高虎が直虎いじめるーひどいんだー!」
「俺は何もしてないだろ!」
「す、すみませんすみません!」


ぺこぺこ頭を下げる直虎にぎょっとする高虎、二人は私繋がりで顔見知り程度、最初はびっくりするけど直虎は誰に対しても大体いつもこんな感じだから。そう高虎に言えば複雑そうな困ったような表情をしてた。
まあそういう反応になるよね、急に謝られたらビビるよね、うん私も最初はそうだった。

ホームルーム五分前、続々と集まる新しいクラスメイト達、なんとなく見知った顔もいたり、こんなやついたっけ?な顔もいたり多種多様、とりあえず私はこのクラスに三成がいないという喜ばしい現状を噛み締めてる。
だってあの石田三成という、女の子よりも綺麗な顔と髪を持ったド鬼畜大魔王ときたら!私のことを召使いか何かと勘違いも甚だしいくらいに顎で使いやがる。正直うんざりだ。

高虎いわく、仲良くしたいけど素直じゃないっていうか感情表現が苦手だから、どうしても高圧的になるんだろうって。
いやいやツンオンリーでデレなんかないない、あったとしても私には絶対デレないもん。

例えばコーヒー買ってこいって睨まれて、怖いから文句言いながらも買ってきてあげれば「何故温かいのだ、俺は喉が渇いているのだから冷たいものを買ってくるのが常識だろう、馬鹿が」って、そんなの知るか!最初から言えよ!アイスコーヒー所望って言えよ!
殿様気取りもここまでくると罪だよね、いつか罰せられればいいのに。


「はいみんな席についてくれるかな」


ざわつく教室に入ってきたのは緩い雰囲気で有名な大殿先生こと、毛利元就。説明という説明が冗長でくどい、人当たりが良くていい先生なんだけどね。
それでも優しい先生ランキングでは上位3位以内にはいつも入ってる。怖い担任じゃなくてよかったあ、今年のクラスは幸先が良さそう。


「去年私の授業を受けたことのある人もいるだろうけど、改めて自己紹介をするよ、2-Aの担任になった毛利元就、大殿先生なんて呼ばれたりすることもあるし好きに呼んでくれて構わない、和気藹々としたクラスになったらいいなと思っているよ」
「大殿先生ー歴史のテストで赤点取ったら怒りますかー?」
「怒るというか、まあ補習はあるよね」
「げえ!」


クラスの誰かが早速先生に絡む、ドッと沸いた教室に私達も顔を見合わせて笑った。


「私は歴史担当だけど、みんな歴史に限らずテストで赤点は避けて欲しいかな」


さて、と大殿先生は仕切り直す、生徒名簿を開いて出席を取るから呼ばれた人はその場で軽い自己紹介を、なんていきなり無茶振り。
前の席の直虎があわあわした様子でこっちを向いた、いや私を見ても何も解決しないからね。


「まずは、井伊直虎」
「は、はいぃ!す、すみませんすみません!私なんかが一番ですみません!」
「直虎、焦り過ぎ」


かわいーなんて教室がまた沸いた、真っ赤になった直虎が萎むように、恥ずかしい……と呟きながら席についた。


「卯月なまえ」
「はい、好きな食べ物はマンゴスチンです」


食ったことあるのかよ!と飛んできた野次に嘘だと答えておく、食べたことはないけど美味しいって聞いたことがあるから食べてみたいと思っただけだ。


「次は、大谷吉継……は諸事情のためお休みっと、じゃあ次にいくよ」


そういえば私の真後ろは空席だ、諸事情のため休み?諸事情ってなんだろう、新学期早々に風邪かな、でも風邪なら風邪って言うだろうし。
大殿先生は淡々と出席を取りながら生徒の自己紹介を聞いている。


「藤堂高虎」
「俺は饅頭が好きだ、以上」


何アピールなのかわからないけれど饅頭リスペクトの高虎、ああうん饅頭ね、美味しいよねくらいしか返せない発言に一瞬クラスの中が妙な雰囲気になった。(いっそ手ぬぐい収集が趣味だって言えば沸いたかもしれない、何故言わなかったんだ)
そこは大殿先生が素早く次の生徒の名前を呼ぶことによって、妙な雰囲気は気にならない程度に薄まる。最後まで出欠を取り、私の後ろの大谷吉継っていう人以外は揃っているクラスメイト。


「じゃあ、始業式が始まるからみんな体育館に移動だよ、終わり次第解散で」


始業式と終業式ってすごい好きだ、授業ないし午前中で帰れるし。虎虎コンビと一緒に体育館へ移動しながら、途中で私は悪魔と遭遇した。

20150620
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