ダウナーダウナー | ナノ

また今日も放課後がやってきてしまった。

私は本日ホームルームでもらったプリントと、高虎があらかじめ用意しておいた生菓子を装備して帰路及び、大谷家へと赴いている。ちなみに今日の生菓子はお饅頭よりももっと日持ちしないシュークリームである。

これは三成の提案で、日持ちしないお茶菓子を持つことにより、大谷くんのところへ頻繁に行ける口実になるからとかなんとか。自分で行けよ自分で!なんで私なのかな!?

大谷くんのマンションに近付くにつれて足取りが次第に重くなる、でもなるべく早く行かなきゃ。絶対後で三成や高虎が大谷くんにどんな様子だったか根掘り葉掘り聞くはずだ、嘘はもちろんのこと時間稼ぎもムリである。ツラリヌス。

オートロックのマンションの入り口に立って見上げるほどの最上階を睨む、私が不審者に見えるだけで何の意味もない行為を早々にやめ、観念して大谷くんの部屋の番号を押した。インターフォンのベルが鳴ると同時に私は身構えた。

ちなみに、高虎が勝手に送ったメールの返事がお昼になるくらいに届いていて「わかった待ってる」という一文が画面に浮いていた。これは句点がない、つまり返信を待ってるってことなんだと思われる。朝の経験上ね、どうしようかと考えていると再び大谷くんからメールが届いて「。」だけが送られてきた。

付け忘れてたのね。なんて返せばいいんだと焦って悩んだ私がバカみたいじゃないか。

そうこうして浮かない気分のままここまでのろのろとやってきたわけなのだが……。さっきインターフォンを押して身構えていたのだがどういうことだろう、応答がない。もう一度押して間延びした呼び鈴が虚しく響くだけで何故か大谷くんの返事がない、まさかただの屍のようだ!なんてことになってないよね?

ひゃ、ひゃくとうばん!?いや、ひゃくじゅうきゅうばん?いやいやいやここは困った時の高虎番にしておくべきかもしれない、とりあえず高虎に電話を掛けてみた。


「あ、高虎?あのさ大谷くんのとこなんだけどインターフォン押しても返事がなくて……え?鞄のポッケを見ろ?」


ワンコールで高虎が出た、早いな!部活中じゃないのかよという突っ込みは明日することにして、とにかく今は目の前の問題についてのことを報告した。そしたら高虎は鞄のポッケを見てみろと指示をくれたのだがものすごくいやな予感しかしない。

スマフォを耳に当てたまま反対側の手で鞄のポッケを探る、指に何か当たっ……てれれれってれー!見ー知ーらーぬーかーぎー!


「あっれええ?なんか見たことない鍵があるんですけどおおお?え、なにこれ大谷くんのスペア?はあ?なんでそれが私の鞄に……入れといたってなんで!?」


高虎いわく、前に一度だけ大谷くんが風邪をこじらせたことがあるらしく、大変だったらしい。インターフォンを押しても返事がなく寝ているのだろうと思いしばらくそっとしておいたら風邪で動けなくなっており、更にその風邪が気管支を冒し始めて肺炎一歩手前までいってしまったとか。
救急車を呼び入院する羽目になり、それ以来スペアキーを高虎と三成が交代で持ち、インターフォンを押しても出てこない日は例え寝ていただけだとしてもスペアキーで家に上がり生存確認をするのだとかなんとか。

要するに私にもそうしろと。


「あっ、ちょっと後は頼んだって高虎!ねえ待っ……き、切れた……」


オートロックの自動ドア前で一人ぎゃあぎゃあ騒がしくする女子高生、そこに住人らしき人が不審そうな目で私を一瞥しながら中へと消えていった。すみませんごめんなさい私も消えたい。
鞄から出した鍵と操作盤を交互に見つめながら二の足を踏む、高虎と三成は何年も付き合ってきた仲だからいいかもしれないけど私なんかこないだ1.5回会っただけだからね?
その微妙な数字はプリントを渡した時の顔を合わせた一瞬のことだ、あれは1回とカウントするには短過ぎると思う、だから0.5としてみての1.5回、回数はどうでもいいとして、私が入っていくのには些か……些か憚られるものがあるのではなかろうか。

マンションの真下、自動ドア前で二の足を踏んで更に5分ほど経過。悩んでいると片手に持ったままのスマフォが短く震えた、三成からのライン通知だ。恐る恐る確認してみれば、さっさと行け、とたった一言。

高虎アアア?部活中じゃないの?ねえなんで三成からラインがくるかなあ!?もう毎度のことだけど二人でタッグ組むのやめてくれないかな!


「ええい!きっとどうにでもなーる!」


やけくそこなくそである。
大谷くんのスペアキーを操作盤の鍵穴に差し込んだ、自動ドアが音もなく左右に退き、勢いのまま乗り込んでエレベーターを呼ぶと最上階のボタンを連打。オラオラと小さい声で絵柄が濃く独特な某漫画の有名なセリフを言ってみる(しかし私はその漫画を読んだことがない)

あっという間にエレベーターは最上階に到着してしまい、チンと間の抜けた音を立てて扉が開く。やけくそでここまできたのでもちろん部屋まで行くのも勢い任せだ。玄関の前でインターフォンを連打してみた、ほんの少し嫌がらせの気持ちもあったのだが今のマンションのインターフォンは連打してもピピピピンポーンという面白い音は出せない仕組みだった。ゆっくり上品な音でベルが鳴り、インターフォンのカメラが起動する機械音が微かに聞こえる。

たっぷり10秒、反応はない。もう一度押してみる。

更に10秒、やはり応答がない「お、大谷くーん?」思いがけず震えてしまった声で呼びかけてみても返事がない、だんだんと不安が募ってくる。まさかもしかして最悪の事態になっているのではないだろうか。高虎と三成が言うには大谷くんは絶対に一人で外には出掛けないから留守ということはないと言っていた。

応答がなくても絶対にいるはずだって。もしかしたら出たくないとやっぱり私とは顔を合わせたくないとか、そう思ってもみたのだが本当に最悪の事態になっていたらえらいこっちゃ!である。

メールで待ってるとは言われたが、もし大谷くんが私とは顔を合わせたくないのであればきっとドアチェーンとかをしているかもしれないし、そうだったら帰ることにしよう、うんそれがいい。高虎と三成にもドアチェーンがあったから鍵を開けても入れなかったって言えば納得するはず。

まさかドアチェーンカッターを使ってでも入れとはさすがに言わないだろうし、そんなもの持ってたら普通におかしいし犯罪臭半端ないからね、うん……あはは、はあ。

なんの応答もないままキーを差し込んで回した、カコンと解鍵される音がして怖々ドアを開けてみた。ドアチェーンはされてなかった「お、大谷くーん……お邪魔しちゃいますよー」どもりながら声を掛けてみても反応がない、不安と焦りが混じって心拍数がやばいことになっている。

本当に倒れていたりしたらどうしよう救急車って119でいいんだよね?その前に大谷くんの部屋ってどこだ、確か初めて来た時は一番奥の方から顔を覗かせていたっけ。

広々とした玄関で靴を揃え隅っこに寄せた、そこからリビングとダイニングキッチン、いくつかの部屋を通り過ぎてからまっすぐ突き当たりに進む。マンションのくせに広くない?大谷くんって本当に何者だよ……同級生に恐れおののきつつ大谷くんの部屋であろう前に立つ。

ノックをして声を掛けた、そっとドアに耳を当ててみたら人の気配があるような気がした。もう一度声を掛けてから少しずつドアを押し開ける、部屋の中は閉めしってあり遮光カーテンなのだろうか、まだ外は明るいというのにひどく暗かった。

よくよく眼を凝らして見るとそこには大きいサイズのベッドと奥に机、上にはなんの本だろう、山積みのそれとノート型パソコンとデスクトップのパソコンが一台ずつあった。暗くてよくわからないが、棚とラックのようなものが一面にあるみたい。

部屋に入ってベッドを見るともそもそと動いている、ああよかった、大谷くんは単に寝ていただけだった。安堵のため息をついて大谷くんをとりあえず起こしてみる、行くと約束した手前、黙って出て行くというのも気が引ける。鞄と手土産を横に置いて盛り上がっている布団をゆさゆさしてみた。


「大谷くん、大谷くーん起きて起きて、行くって約束してたなまえさんがきましたよー」
「……ろ…………れ」
「大谷くん?」


布団の中で丸くなっている大谷くんは何かをしゃべっている、呼びかけても反応がないから多分寝言だと思う、聞き取れないが唸っているだけのようにも聞こえる。もう少し呼びかけてみると布団を払い除けて大谷くんが顔を出した。


「……や、め……やめて、く……れ」
「大谷くん?」
「……い、やだ……だ、やだ……」


なかなか起きない大谷くんは夢を見ているみたい、それにものすごくうなされている、苦しそうに嫌だとかやめてくれって必死にもがいている。早く起こした方が良さそうだ。しかし揺さぶっても声を掛けてもなかなか起きてくれない、どんだけ鈍感なんだよ。

夢を見てる時って眠りが浅いんじゃなかったっけ?

余りにも苦しそうに呻くからだんだん焦ってきちゃって、私も容赦なく「大谷くん大谷くーん!起きて起きて!起きろ!起きろってんだコラ!」布団を剥いで揺さぶりまくる。いっそ引っぱたいてやろうかとしたところで大谷くんの目が大きく見開かれ、大絶叫。

余りの叫びにびっくりしすぎて硬直、ぽそぽそしゃべるところしか見たことがなかったから余計に驚いた。枯れるほど叫んでついには暴れだしたから、こいつは私の手に負える状況じゃあないと判断。半狂乱だよ大谷くん怖すぎだろ。

怒られようが詰られようがこの際何でもいいから助けが必要である、高虎と三成に連絡を取ろうとスマフォをポケットから取り出した瞬間、大谷くんの手がスマフォを弾き飛ばした。うわあクリティカル。

ガン、と嫌な音を立ててスマフォは壁の方へ、咄嗟に立ち上がりかけて前から腕がのびてきた。言わずもがな大谷くんの腕である、そのまま私は捕縛されてベッドへとダイヴ。抱き枕といえば可愛らしいが大谷くんは安らかに眠っているわけではない。

薄暗い部屋の中で呆然とした、引きこもりのやることは予想の斜め上すぎて反応に困る。これ以上私にどうしろというのだ、誰でもいいから助けてほしい。あと、若干首が絞まってるのでこのままだと危険である、もちろん別の意味でも。

20161018
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