おじさま×甘党×ドライヴ | ナノ

「やーあーだー!」
「わがままを抜かすな!」
「わがままじゃないもん!惇おじさまが強情なだけだもん!」
「全くガキかお前は!」


駄々をこねくり回す姪のなまえ、訳あってこいつを居候させている俺の立ち位置は保護者だ、それ以上でも以下でもない。こいつの物心つく前から何かと面倒を見てきた、大切な姪であることは今までも、これからも変わることは決してないと言いきれる。

多少気に掛け過ぎたと思うことも多々あったが、そうでもしなければこの能天気は危なっかしいこの上ない、平気で知らない奴に付いていくわ、あからさまな悪徳キャッチセールスに引っ掛かりそうになるわ、明らかに身体目当てで近付いてくる馬の骨にほだされそうになるわ、目を離した隙に何をしでかすか、わかったものではない。

だからついつい口を出してしまっていたことが災いしたのか、なまえにすっかり懐かれてしまい、とうとう踏み越えてはならない一線までをも越えかけてしまっている。(いや、むしろなまえはすでに半歩ほど越えている)


「惇おじさまとお風呂入る!一緒に入りたい!」
「だからだめだと言ってるだろうが!」
「なんで!?昔は一緒に入ってくれたのに!惇おじさまは私のこと嫌いになっちゃったの?」
「好き嫌い以前の問題だ!年齢を考えろ!」
「私もう子供じゃないもん!」
「今それを言うか!?もう子供じゃないと自覚があるなら弁えろ!」
「やだ!」
「こンの……!」


年の差、という問題もあるが、妙齢の女といい年したおっさんが一緒に風呂だと?馬鹿も休み休み言え。それ以前に俺となまえの関係性はおじと姪であって、変に浮ついた関係ではない。

いささか構い過ぎた昔の自分を殴ってやりたいところだが、今更過ぎたことを悔やんでも仕方がない。


「本気だもん、私、惇おじさまのこと好きだもん!」
「それは家族の情だ、色恋のそれとは違う」
「違わない!私の気持ちを勝手に決めつけないでよ!」


憧憬や尊敬、年の離れた異性に対する僅かな緊張感を、男女の色恋の感情と錯覚することはよくある話だ、気の迷い、ギリギリ多感な年頃ということもある。


「男は星の数ほど存在する、俺なんかより出来た奴を見つけて」
「やだ!やだやだやだ!惇おじさまじゃなきゃ私彼氏もいらないし結婚しない!」


一進も一退もしない会話、こいつは一体こんな俺のどこが良くてこんなにも駄々をこねるのか、俺の気苦労も知らないで。

風呂くらい一緒に入ってやればいいものを、私でしたら率先して喜んで入りますが。張遼だったら恐らくこう言うのだろう、あたかもごく自然に平然と。お前の意見など聞いていない、思い浮かんだ紳士面の変態を脳内から追い出し、対峙するなまえをじろりと見遣る。


「私の気持ちを無下にしないで!」
「もう子供じゃないならわかるだろう、俺の気持ちは無視するのか?」
「うう……それは……」


もぐもぐと言い淀み、途端に勢いを失うなまえに何故か罪悪感を感じる、お前を傷付けたいわけじゃない、俺はお前が大事なんだ。


「世間体がどうのとは言いたくない、俺はお前の傷付く様を見たくなどない」
「おじ、さま……」


仮に俺となまえが交際をしたとする、世間の目は好機と蔑み、下卑た視線を向けられるのがオチだろう。わざわざ大事ななまえを傷付けるような道を選ぶ理由がない、人々の好機の目に触れさせてなどやるものか。影から支え、大切にしてやるのが保護者としての務めだ。

それが当たり前でなまえ幸せなのだと寸分の疑いもなく信じていた。

そう、信じたかった。


「おじさまじゃなきゃ、ダメだもん、私、おじさましか見えないんだもん……っ、私のがおじさまに、不釣り合いかもしれないけ、ど……っ!」


こいつの涙を見るまでは。


「お、おい!泣くやつがあるか!」
「だって、だって!惇おじさまに相応しくなりたくて、いっぱい努力もした!おじさまのために可愛くなろうとしたし、おっぱいも大きくなるように牛乳と鶏肉いっぱい食べたし!」
「ちょ、待て、冗談はよせ!」
「私の全部をおじさまにあげるために生きてるんだもん!」
「ば、バカか!何やって……!」


びえびえと年甲斐もなく泣き喚きながら、何をやらかすかと思えばあろうことか、なまえは着ているものを次から次へと脱いでいく。見ないようにと咄嗟に後ろを向くが、なまえはまるでお構いなしとばかりに下着姿で俺の背中に張り付いた、これは非常にまずい。

落ち着かせようにも狂ったように泣きじゃくり、好きだの愛してるだの、俺の言うことに全く耳を貸そうとしない、嗚咽を漏らし、しゃくりあげるたびになまえの柔らかい膨らみが背中を圧迫する。

ええい……根負け、とでも言っておくか。


「なまえ」
「好き!おじさまが一番す……んう!?」


少しばかり乱暴になってしまったが致し方ない、しがみついていたなまえの首根っこを後ろ手に引っ掴み横にずらす、体が僅かに離れた隙を狙い、自分の体を反転させなまえと向き合った。勢いのまま両肩を掴んで引き寄せ、小煩い口を噛み付くように塞いでやった。

最初こそ驚いて肩を強張らせたなまえだったが、すぐに肩の緊張を解くと恐る恐る、といったふうに舌先で俺の唇をつついてくる。全く……調子に乗るな。

望み通り舌を掬い絡め取る、押し返して好き勝手に動き回ればなまえは苦しげに呻いた。


「……俺の気苦労も知らないで、お前はいつもそうやって俺の余裕も理性も掻き乱す」
「おじ、さ」
「保護者としての威厳もあったもんじゃない、本当にお前が俺なんかでいいと言うのなら……覚悟を決めておくことだ」


長い間本心をひた隠し、抑え閉じ込めてきた感情を取り出した、そこまで俺を愛しているとのたまうのなら、俺も手加減なしでいってやろう。言っておくが俺はお前が思っている以上に嫉妬深くしつこいからな。

拝啓、不器用なおじさま


いろいろ葛藤してたらしい夏侯惇、姪っ子に手出すのは倫理的に……で尻込み。姪ちゃそが奮起しましたっていう。
20140130
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