おじさま×甘党×ドライヴ | ナノ

この世で私ほど保護者に恵まれない人はそうそう居ないと思う。(親ではなくあくまで保護者だ)

これでもかと言うほど親戚中をたらい回しにされて、高校生に上がるまで……いやいや上がってからも数えきれないくらいの転校を繰り返してきた。最悪の場合、転校初日から数えて3日目で止むを得なくまた転校、なんてこともあった。

原因のひとつは私が孤児であったからであり、親戚は皆、薄情で冷淡、ころころと変わる保護者に正直うんざりしていた。でもそんな生活もついに終わりを遂げる日がやってきた。


「すまんななまえ、本当なら最初から俺がお前を引き取ってやりたかったんだが……いかんせん不安要素があり過ぎる」
「んーん、その気持ちだけでも嬉しいよトントン」
「……なまえ、いい加減その呼び方は」
「えーもう今更変えらんないよ、ずーっとそう呼んできたんだし」
「……」


トントンは、私が孤児になってしまう前からよく面倒を見てもらってきた親戚のおじさんで、本名は夏侯惇、気軽に遊びに行けるような距離に住んではないけれど、行事毎に呼んでくれたりわざわざ様子を見にきてくれたり感謝の一言だけでは全然足りないほどお世話になってた。

今日は私の新しい保護者が決まって、その人と顔合わせ。トントン曰く真面目で今までの私の保護者の中で一番まともっぽいそうだ。そこそこ経済力もあるみたい。(ちなみに前の保護者は経済的理由で私の養育を投げた)

死んだお母さんとお父さんはどっちも兄弟がたくさんいて、おじいちゃんとおばあちゃんの代でもたくさんいるって聞いてる。だから近くにも遠くにも親戚がめちゃくちゃ多いんだって。これもたらい回しにされる原因のひとつね。

それからトントンの言う不安要素ってのは、張遼おじさまのことだと思う、トントンの家の近くに住んでて紳士だけど変態さんなの。あわよくば嫁に来られよ、って言うのが口癖でね、私を気に入ってもらえて可愛がってくれるのは嬉しいんだけど、スキンシップが過剰。

寝ても覚めても張遼おじさまと一緒っていうのは想像しただけで身が持たない、貞操云々とか処女とかヴァージンとか……ああ、全部同じか。


「ひどい言われようですな」
「うわ、出た」
「なまえ、ご機嫌よう」
「ご機嫌麗しゅう、張遼おじさま」
「何しに来たんだ張遼」


ぬるりと相変わらず神出鬼没な張遼おじさま、トントンがすかさず突っ込んだけどスルー。しかもさりげなく、ごくごく自然に紳士的な振る舞いと見せかけて、腰に手を掛けようとするから油断も隙もあったもんじゃない。しかし華麗に避けるスキルを習得した私にはもはや通用しないがな!


「ほんとに何しに来たんだお前は」
「何とは!そんなもの決まっていようトントン殿!」
「おいやめろ、なまえがそう呼ぶのは許可するがお前に呼ばれるのは寒気がする、やめろ」
「やれやれ夏侯惇殿は照れ屋ですな」
「もう黙れ、むしろ帰れ」


疲れる……と眉間に手をやるトントン、張遼おじさまは実にフリーダム、っていうかほんとにほんとに何しに来たの?(ちなみにここはトントンの家だ、淵ちゃんっていう弟と暮らしてる)


「可愛い可愛い愛しい姪っ子が、見知らぬどこの馬の骨とも知れぬ輩に身柄の一切を捧げられるのですぞ、心配しない方がおかしい」
「お前の頭がおかしい、言い回しもおかしいということに気付け」


冷静に突っ込んではいるけれど、トントンは内心グロッキーになってるはずだ、こんなやり取りがわりと毎回続くから。


「張遼おじさまは知らない人なの?」
「私とて知らぬ親戚は多い、実を言うと夏侯惇殿もよく知らないようですぞ」


そうなんだ、親戚が多いから知らない人も多い、それはみんな同じ。トントンは一度会って話をしたみたい、後から聞いた話なんだけど、今年は私が受験生だし、ちゃんとした環境に置いてやりたいがために奔走してくれたんだって。

ほんとトントンには頭が上がらない、もう大好き!最高のおじさんを持てて、なまえさん幸せだよ!親戚中をたらい回されててもね。それでいろいろな親戚を当たってたら快く引き受けてくれる人が居たっていうのが今回の人。


「生真面目でしっかりした奴だったから、当分保護者の心配はいらん」
「ほんと?よかったあ」
「よくありませんぞ、全然よくありませんな!」
「張遼、お前いい加減黙ってろ」
「ねえねえトントン、どんな人?」
「一言で言えば厳格、だな」
「厳格という皮を被った変態かもしれませぬぞ!」
「それはお前だろうが!」


厳しい感じの人なんだ、でももう保護者の心配はいらないって言ってたし、快く引き受けてくれたんだったら安心だよね。

待ち合わせの場所はここ、トントンの家。そろそろ来るはずだ、ってトントンが言いかけた瞬間にインターフォンが来客を告げる。


「あ、私出るね」
「ああ、頼む」
「なまえ!どこぞの馬の骨ではなく私が面倒を!」
「張遼!いい加減にしろ!」


張遼おじさまは放置でトントンに任せた、私はリビングを出て廊下を小走り、はーい出まーす!と玄関に向かって言いながらドアチェーンを外して扉を開けた。


「于禁と申す、なまえを引き取るにあたり、説明をと夏侯惇殿と約束をしているのだが」


ピンと伸ばさざるを得ない背筋、高級スーツカタログから飛び出してきたのかと思うほどモデルさんみたいに背が高くて、きっちり整えられた髪、渋くて深みのある声と言葉遣いは育ちの良さを表している。

切れ長の目と眉間には縦皺が深々と刻まれて、トントンや、張遼おじさまとはまた違ったお髭も綺麗に整えられている。


「こ、こんにちは……はじ、めまして……」
「もしや、なまえとはお前か」
「あ、は、はい!」


正直怖い!すごく怖い感じがする!いや怖い!


「あの、えと、どうぞ上がってください、こっちにトント……夏侯惇おじさまが居ますので」
「邪魔をする」


とりあえず上がってもらったけど後ろからついてくる于禁さん……だっけ?威圧感やばい、安心とか思ってたけどものすごく不安になってきた!リビングに戻ったら戻ったで、トントンと張遼おじさまが凄まじい口論バトルを繰り広げてるし!


「お前が居ると話しが拗れる!帰れ!」
「いーや帰りませぬ、なまえを預けるに値するか見極めるまで絶対に、むしろ私が引き取りたい!」
「却下だ、なまえに何されるか想像に容易い!欲望の塊のようなお前に預けるくらいなら孟徳の方がまだ……いやそれもないな!」
「私の方がなまえを大事に出来ますぞ!こう、大切に優しくにゃんにゃんと!」


何この修羅場、後ろで于禁さんが鞄の持ち手をギュッと握り締めた音が微かに聞こえて、いたたまれなくなってきた、振り返って見る勇気は残念ながら持ち合わせていない、やだもうすっごく帰りたい。むしろ張遼おじさま帰ろうよ……にゃんにゃんて何……。


拝啓、厳格なおじさまとはじめまして


魏軍みんな親戚設定です。

20140103
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