おじさま×甘党×ドライヴ | ナノ

「元就さん、どうしたの、それ」
「うん?」


山のように積まれたパンフレットの数々、一部一部は大した厚さではないけれど、これだけの数となると圧巻である。よくもまあこれだけかき集めたものだと呆れを覚えるし、こんなにたくさん種類があるのかと関心さえ覚える。

国内外問わず、ありとあらゆる車種のパンフレット、あるいはカタログ、チラシの類までもがフローリングを埋め尽くし、そこら中に颯爽と駆け抜ける様を最もかっこよく、魅力的に見えるよう写された車たちがひしめき合う。


「車、買い換えるの?」
「ほら、今のは2シーターだし」


元就さんは、フルモデルチェンジをしたばかりの車種のパンフレットから顔を上げ、膨らみ始めた私のお腹を指差しながら問い掛けに答えた。

お腹を指差した意図がわからずに首を傾げると、元就さんがぽんぽんとフローリングを叩いて、自分の横においでと言う。横に座ろうとすればさり気なく座椅子を引き寄せてくれる優しさが、この人のいいところだと思う。いいところはそれだけじゃないけれどね。


「このお腹の子のためにゆくゆくはチャイルドシートが必要だろう?」
「ああ、2シーターじゃあ具合が悪いってことね」


やっぱり何を言わんとしているのかがわからなくて、もう一度首を傾げる。シートが二つしかないと言うことは、つまり乗車定員は二人、もしそれにチャイルドシートを載せるとなれば、私か元就さんのどちらかは必然的にお留守番ということになる。確かにそれは子供が産まれればいろいろと不都合が多い。


「それもだけど、今の車、車高が低いってことはわかるよね?」
「まあ、そうね、それが?」


それに加えて車の高さがどうしたのだろうか、ガレージの中に佇むメテオグレーマイカの姿を思い浮かべながら尋ね返す。


「今でこそ慣れてしまったからと言えるだろうけど、最初は狭い!低い!煩い!揺れる!って」
「ああ」


そうかそういうことか、運転する側はきっと気にならないだろうし、この車が好きなのであれば尚更のこと。好きであれば助手席も気にならないかもしれないけれど、そうでない人にとっては幾分辛いものがある。

スポーツタイプに分類されて、割合小さめ、電動で開閉するルーフがいくらかラゲッジスペースを圧迫して実用には向かない。妊婦になりたてではあるけれど、本格的にお腹が大きくなったら乗り降りに苦労する。


「買い換えるというか、買い足しと言った方がいいかな」
「通勤には必要不可欠だし、確かにもう一台あった方が便利かも」
「それと少しわがままを言ってしまうと、まだ手放したくなくてね」
「元就さん、大事に乗ってるもんね」


だからもう一台は何がいいなかって吟味しているんだけれど、なかなか決まらなくて。元就さんは困ったように笑った、私は実用性があればなんだっていい、燃費も税金もお手頃な軽でいいと思うんだけど。


「でもほら、家族で旅行なんてことも考えたらやっぱり長距離でも頼もしくて、安定性のある方がいい」
「あ、そっか」
「だからやっぱり無難にセダンかと思ったんだけど、子供が一人で終わるとは限らないし、大所帯ってことも考えてミニバンも考えたんだ、そうなるとなまえが乗り回しに苦労するかもしれないし、小さめのSUVかなあ、ううん……」


車のことはよくわからないけど、私と私のお腹の子のために一生懸命頭を悩ませてくれる元就さんがどうしようもなく愛おしい、それだけはよくわかる。きっと子煩悩になるんだろうなあ。


「ふふ」
「うん?」
「しあわせだなあって」
「私も噛み締めてるよ、おんなじしあわせ」
「車、何色にする?」
「なまえの好きな色にしよう」
「選んでいい?」
「もちろんさ」
「それじゃあ……」




20140711
 / →

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -