おじさま×甘党×ドライヴ | ナノ

むっふっふ、いーい匂いだ。

オーブンの中でじわじわゆっくりと焼き上がっていく生地を眺めながら、部屋中に充満していく香ばしいチョコレートの香り、それとほんの僅かな洋酒の気配にうっとり、少しばかり手間が掛かるが、食べたくなったからには作らずにはいられないこの性分。我ながら女々しいかな、だがその性分も満更でもない。

焼き上がりまでもう少し、ふわふわさくっとした周りの生地を割れば中からとろりとした濃厚なチョコレートが覗く、イメージを膨らませて待ちきれない焼き上がりにうずうずする。ああ早く食べたい、そして食べさせてやりたい。

我輩の手で、丹精込めて作り上げるこの芸術品とも言えよう一品を、我輩自らのこの手で、可愛い可愛いなまえに。


「ただいまーって、あれ?いいにおーい!」
「おお、なまえ」
「久秀さん来てたの、連絡くらいくれればいいのにー」


非難がましい言葉を投げられるも口調は全く非難がましくない、社交辞令の一環、いやいや単なるご挨拶に過ぎないそれらは我輩達の間では常のこと。


「なになに?今日はなに作ってるの?」
「フォンダンショコラ、んまいぞぅ」


帰ってきたなまえ、オーブンレンジを覗き込む我輩の横にぴたりと張り付き、同じように覗き込む。高温で唸るオーブンレンジになまえの表情がチョコレートのように甘くとろけた。

ふくらとした頬っぺたはさぞかし甘いのだろうなァ、ンン?なまえの横顔を盗み見ながら舌舐めずり、それに気付いた彼女は無邪気に笑って「久秀さんは相変わらず食いしん坊だね」と零す。

そう、我輩は食いしん坊だ。甘いものも好きであるし、何よりも甘い雰囲気を醸し出す可愛い可愛いなまえが特に大好きである。食欲的な意味でも食いしん坊だが、性欲的な意味でも食いしん坊だと豪語しておく。


「焼き上がったら一緒に食べようではないか」
「やったー!」
「もちろん我輩が、あーんしてやろうな、ンン?」
「え、いいよ、そんな子供じゃあるまいし」
「我輩がしたいんだから遠慮するな、その可愛いお口にたぁっぷり注いであげようじゃないか」
「ちょっと待って久秀さん、今明らかに違うもの食べさせようとしてない?注ぐってなんか違くない?」
「はて、なーんのことやら、我輩わからーん」


ニュッと口元が自然に緩む、香ばしい香りが充満する室内におおよそ似つかわしくない、ショコラとは対照的な色合いの白濁としたものを思い浮かべる。

おっと失礼、これ以上はもう少し日が沈んでからのお楽しみとしておかなくては。むっふふ。




20140711
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