おじさま×甘党×ドライヴ | ナノ

家に帰ってきて玄関の鍵を鞄から取り出した、鍵穴にキーを差し込みながらドアに手を掛ける、解錠方向にキーを回したらカツンと音がして違和感、何故か回らない。まさかと思ってドアを引けば玄関の鍵は既に開いていた、おかしい、出掛ける前にきちんと施錠したはずなのに。

そろりと身を滑り込ませ、自分の家だというのに息を潜めて静かにドアを閉める、うちの玄関ドアはプッシュプル式で外側からは取っ手を引く、内側からは取っ手を押す様式のドアだ、特有の開閉音が僅かに鳴ってしまうけれど極力音がならないように善処する。

玄関の鍵が開いていたことに対して、それなりに心当たりがある、玄関フロアに一足見慣れた靴が几帳面に端に寄せられ置いてあったから、ああ間違いないだろうと確信した。

鞄を置いて羽織っていたコートをハンガーに掛ける、玄関の収納スペースに吊るし、忍び足で部屋をざっと見回した。薄暗く冷え切った室内、電気も暖房も付けずに何やってんだか。それよりあの人は不法侵入だってわかってるのかな、合鍵は渡したけどくる時には一言連絡ちょうだいねって言ったのに。

それよりも玄関開いてるとか心臓に悪い。

前にも2、3度勝手にきてたことがあったけど、今回は前回と少し様子が違う。前はナチュラルにリビングで寛いでいて「ああ、おかえり」なんて控えめに呑気な笑顔で出迎えてくれていた。勝手知ったる様子で温かいほうじ茶とぬれ煎餅用意しててくれたっけ。(チョイスがジジくさいと言ったら泣いちゃってものすごく困ったのはいい思い出だ)

今は部屋も暗いし寒いし、一瞬いないのかと思ったけれどまだ靴があるんだから家の中にはいるはず、もしかしてベッドで寝ちゃってるとか、あり得そう。変態かと突っ込みたい。

そもそも息を潜めて忍び足なんかする必要はないんだけれど、あの人ちょっと変わってるっていうか普通の人よりも繊細っていうか、扱いが難しいんだよね、思わず身構えちゃうというか……。成り行きでこうなってるんだけど、もしものことを考えての行動だ。

見覚えのある靴があったとはいえ、たまたま同じ靴を履いてる泥棒かもわからない、揃えて脱いで泥棒なんて間抜けにも程があるけれども、ここは用心に用心を重ねておいて。

ひと通り全ての部屋を回ってお風呂やトイレも見て回った、相変わらず忍び足で。残るは自分の部屋、恐る恐る覗いて薄暗い空間に目を凝らす、ベッドは布団がめくれていることからわかるように空っぽ。なんでどこにもいないの、これ以上探す場所なんてないんだけど。

寒いし早いとこ暖房付けてこよう、靴はあるのに姿形はどこにもないって不気味過ぎる。


「……何だかなあ」


もう探すのをやめて出てくるまで放っておこうか、夕食の時間になればきっとのそのそ出てくるだろう、今日の夕飯は何にしようかな、昨日はミートローフを頑張ったしちょっと手抜きで鶏チリにでもしようかな。献立を考えながら部屋を出ようと踵を返した。

その時、クローゼットの折り戸がゆるゆると開いて腕が伸びてきたかと思えば、掴まれてものすごい力で引き込まれる、驚く暇もなく成されるがまま。引き摺られ後ろによろけて倒れ込んだ先、痛いくらいに抱き締められた、首筋にふわふわとちくちくが交互に当たっている、急に心臓が早鐘を打ち始め、何も言葉が出てこない。


「……ああ、なまえだ、おかえり」
「……っ!」
「ごめん、連絡しようとは思ったんだけど……なんていうか、その」
「徐庶さん、い、痛い」
「あ、ごめん」


倒れ込んだ先は徐庶さんの腕の中、彼は私のおじで、いろいろと縁あってお付き合いをしている仲、骨が折れるんじゃないかと僅かな危険を感じながら徐庶さんに抱き締められ散々なお出迎え、そもそもなんでクローゼットの中にいるの。

この変質者みたいな行動は、今に始まったことではないからさほど気にはしないが、呆れる他にない。


「なんでクローゼットに?部屋の電気も暖房も付けずに……それとうちにくる時は連絡してって言ったよね」
「ええと、ごめん……その、切羽詰まってて」
「……」
「一刻も早くなまえに会いたくて、触れたかったんだ、それに家に行けばなまえの香りに包まれることができると思って……ええと、すぐには会えなくても待ってればいいか、って」
「クローゼットにいた理由がわかんないんだけど」
「あ、いや、それは……大丈夫、服とか下着とかには触れてないし本当に居ただけだ、本当だよ」
「本当かどうかは別として理由ね、理由」
「本当なんだ……最初はベッドに潜っていたんだけれど、ちょっとした好奇心でクローゼットを開けてみたら君の香りと柔軟剤かな?それがとても心地良くて……」


入って戸を閉めて膝を抱えてずっと座っていたそうだ、確かに引き出しの類はきっちり閉まった状態で漁られたような形跡はない。衣類や下着について、欲しいとは思うよ、そうぼそりと言われたが聞いてないふりをした。

未だに後ろから抱き締められたまま、うなじに鼻先を押し付け、深い呼吸を繰り返して徐庶さんは恍惚としたため息を漏らした、ぶつぶつ独り言をのたまう様は引くほどではないけれど不気味だと思う。(多分言ったら泣くだろうな)

そもそもなんで私に会いにきたんだろう、3日前に会ったばかりだっていうのに。聞けば、徐庶さんに言わせれば毎日でも会いたいとのこと。


「いっそのこと一緒に暮らしたい、限りある人生だから、一分一秒でも長くなまえと居たい……えっと、その、鬱陶しいかな」
「いや、鬱陶しくはないけど……」
「そっか……!よかった、じゃあ今日は一緒に寝よう、お風呂も一緒にいいかな、なんて……ははは」
「……やっぱり鬱陶しい」
「え……」

ぐしゅ、と一瞬にして表情を歪ませ涙を堪えるおじさまってどうなの、もういい歳なのに。


拝啓、厭世的なおじさま

20140306
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