曹魏フィルハーモニー管弦楽団 | ナノ

「テンポのばらつきが目立つ、よってこの箇所は完全にボウイングを揃える、一寸のずれも許さぬ、心せよ」


曹魏フィルは個人の能力だけをみてもかなり優秀です、その中でも各楽器の首席達は頭ひとつ分もふたつ分も抜きん出て、秀でている。

どの楽器も個人練習が基本、全員が揃うのは、ゲネプロやリハーサルがほとんど。時には本番ではじめまして、なんてことも珍しくない。だからパートごとに練習するっていうのも個人の自由で、几帳面な方々はよく集まっているようです。

そんなわけで私はチェロの方々が、レコスタで合わせをすると聞き、自分の練習という名目で于禁さんを一目だけでも見てモチベーションを上げようと、密かに隣の個室を借りました。相棒のコントラバスを運び込むのには一苦労しましたけれども、そんなの于禁さんを一目見れれば疲れなんてなんのその!です。

す、ストーカーとかそういうんじゃ……ないです!

聴こえてくるセッションに、自分の練習という名目を忘れつつ、ほう……と聴き入る。時折手厳しい于禁さんのスパルタコメントに、他のチェロ奏者がヒィヒィ言っているらしいのが薄っすらと聞こえた。(う、羨ましい!)

罵られてもいいから于禁さんと一緒に練習できたらいいなあ、きっと下手くそだと怒られても私は嬉しいと感じると思う。話し掛けられるだけで弾けそうなほど感激する、うん絶対。

レコスタの練習室で一人、相棒を抱えながら隣の部屋から微かに聴こえるチェロの音色に酔う。興奮気味だったせいか、ひどく喉が渇いていたことに気付いた。何か飲み物を買ってこようかな、部屋の外に自販機があったはずですし。

財布だけを手に、自販機へと向かった。何を飲もうかと自販機の前で悩んでいたら、ふと背後に人の気配を感じて振り返る。何にしようか、まだ悩んでいるのでお先にどうぞと言うつもりで。


「お前は、確かコントラバスの……」
「は、はわわわ、ど、どうも」
「なまえ、といったか」
「は、はい!」


神様からのご褒美か、はたまた天罰か、私には見定められない。心の準備もなく于禁さんと鉢合わせになってしまいました、でも名前を知ってもらえていたことが嬉しくてもう死んでもいい……!


「お前も練習に?」
「そ、そうです!き、奇遇ですね!」
「互いに精進だな、毎回バスパートは聴いていて安心する」


っきゃあああ!幸福の極み……!于禁さん私のパートを聴いてくれてたんだ、ほんともう夢みたいです、幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうです!


maestoso ma con dolcezza
荘厳に、しかし甘さを持って。
20140723
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