曹魏フィルハーモニー管弦楽団 | ナノ

そろりそろりと楽器の出っ張った弦を支える駒がどこにもぶつからないようにドアを抜ける、もちろん頭の渦巻きが当たらないよう上方にも注意を怠らない。命の次に大事な相棒を傷付けないように、そっと、そうっと。


「手を貸そう」
「っひぃ!?」
「っ、すまぬ、驚かせたか」


突然伸びてきた筋張った指先がコントラバスケースの撫で肩部分に現れた、驚いて投げ出しそうになる相棒を、すんでのところで抱き締めるように腕を伸ばす。いくらハードケースに入っているからとはいえ、転倒してしまった衝撃で相棒にどのような被害を被るか、想像すらもしたくない。


「すまぬ、大丈夫か」
「あ、あっ!うき、于禁さ……!」


無事だった相棒にほっと安堵したのも束の間、コントラバスを挟んで向かいから顔を覗かせる声の主を見て、狼狽えた。于禁さんだ、于禁さんだ!てっきり帰ったんだとばかり思っていたのに、突然舞い降りた嬉しいハプニングに頭の中が真っ白になる。

何て返事したらいいんだろう、今日も素敵です?いやいや、ずっと後ろ姿見つめてました?ストーカー発言気持ち悪い私!


「大丈夫か?」
「あ、あの、あのっ!」
「……?」
「コントラバスは運ぶのにコツがあるので大丈夫です!」
「そうか、余計な手出しを……すまぬ」


バカァアアア!いや確かにコツがいるのは最もですけど折角于禁さんとしゃべれるチャンスを私は自分で潰しちゃいましたこのバカ!すまぬ、とまた一言残して去って行く于禁さんの後ろ姿を見つめて深々ため息。

于禁さんに触れてもらえた相棒が羨ましい、長くて筋張った手が触れていた相棒の撫で肩、そっと自分の手を重ねてまた深くため息をついてしまいました。

20140129
← / →

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -