曹魏フィルハーモニー管弦楽団 | ナノ

本番直前、微調整を終えてひとりまたひとりと舞台袖から降りて行く、金管木管は早々にいなくなっていた。とりわけ最後の方まで舞台上に残っていた于禁は己の楽器を手に、僅かに高ぶった精神状態を落ち着かせるために舞台袖へと向かった。
自分の背後では途切れることなく低音が響いていて、もちろん今もまだ続いている。小さな体で身の丈以上のコントラバスを奏するのはなまえだ。(なまえを含めコントラバスは全員そこに揃っている)

本番ギリギリまでコントラバスが音出しをしているのはさして珍しい光景ではない、大きさの問題から持ち運びに苦労するコントラバスである。舞台上での音出しを余儀無くされているわけであり、良く目にする光景だ。
だがここまで舞台上に残っているのは少し、珍しいかもしれない。


「がんばっているようだな」
「っは、はひ!?」
「すまぬ、邪魔をしたか」
「い、いえっ!夢中になってたので、えと、びっくりしただけです!」
「そうか、それにしても珍しい、まだ袖に下がらないのか」
「あ、はい、さっき雨が降ってきたみたいで、開演ギリギリまでは」


聞けば雨が降ってきたらしい、確かに埋まってきた客席をちらりと見れば、ハンカチやタオルで拭いている。弦楽器は湿度の変化に敏感である、コントラバス以外の弦は舞台袖で調整が可能だが、コントラバスはそうもいかない。
より良い演奏のため、黙々と音を出すコントラバスパートメンバーに于禁は好感を覚えた。特になまえは常に安心感を与えてくれるような安定した音を出す。


「共に最高の時間を造れるようにせねばならんな」
「は、はいっ!がんばりましょう!」


興奮しているのか、頬を紅潮させてなまえは勢い良く何度も頷いた。

20140805
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