ヴァンパイア・アネクトード | ナノ

これはまだ世界中にたくさんの種族が存在していた頃のお話、あるところに吸血鬼の一族がおりました。

一族はその名の通り、人間の血を栄養源として生きているのです。気高く美しく気品溢れる彼らは、人間よりも強く、遥かに長生きで恐ろしく整った容姿を持ち、始めこそ吸血鬼と人間は対等に平穏な暮らしを心掛けておりました。

吸血鬼が、まだ夜にしか活動出来なかった頃、人間は彼らを日の光から守り、自分達の血液を分け与え、その対価として吸血鬼は人間の怪我や病気を治し、人狼や悪魔といった様々な外敵から守りました。

しかしいつの頃からだったのでしょう、均衡は崩れ、彼らは互いを忌み嫌うようになったのです。

事の発端は、吸血鬼の数が急速に増えてしまったことにありました、長い年月を生きる吸血鬼とは反対に人間は百年と生きることが出来ません。吸血鬼の数に対して人間はみるみるうちにその数を減らしていきました。

寿命が短く老いて醜くなる人間に比べ、自分達はいつまでも美しく、そしてなんて強いのだろう。愉悦に浸り、驕り昂ぶった吸血鬼はいつしか人間を下等生物だと見下すようになったのです。人間をただの餌としてしか見なくなり、弄ぶように狩りを始めた吸血鬼の一族、身体能力も治癒能力も桁違いの彼らに、人間はなす術がありませんでした。

しかし、吸血鬼の一族の中にも、そんな仲間に心を痛める心優しい者が少数ながらに存在したのです。


『上辺だけの美しさや強さなど幻想に過ぎない、心の美しさや強さこそが真の姿ではないのか、吸血鬼は長寿故に命をぞんざいに見がちだ、命の尊さを忘れてはならない。』


そう唱えた少数派の吸血鬼に人間は感銘を受け、吸血鬼の同胞達は怒り狂ったのです。

少数派の吸血鬼を追放し、確執が膨張し深まる亀裂、決して埋まることのない溝、その時から人間と吸血鬼の長い長い戦いが幕を開け、いつしか調和を願ってやまない人間と吸血鬼の間に、小さな命が芽生えました。

人間と吸血鬼の混血、大半の子は産まれて間もなくすぐに弱って命を落としました、しかし幸福なことにすくすくと育った子は生きている間は人間であり、吸血鬼を倒すことが出来る力を生まれながらにして持っていたのです。その子らは『ダンピール』と呼ばれ、ヴァンパイアハンターとして果敢に吸血鬼に立ち向かいました。

戦力の削ぎ合いは何百年と続き、急激に減少した互いの人口に、共倒れの絶滅だけは避けるべく思案した両者は、苦肉の策として不可侵条約を締結し一時休戦。

こうして長い年月を経て、互いに沈黙し、人間と吸血鬼の戦いが、歴史の闇に埋もれていきました。

20160218
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