ヴァンパイア・アネクトード | ナノ

白い子猫を助けて、黒髪のイケメンに助けられたあの日から数ヶ月。余裕の単位数で進級し、何事もなく大学生二年目を満喫していた私はその衝撃的な出来事のことを記憶の隅っこに追いやっていて、すっかり忘れていた。

単位稼ぎのためにとっている講義、大して興味のないこれを適当に聞き流していると、隣にいた友人がヒソヒソ声で話しかけてきた。


「ねえ聞いた?」
「なにを」
「今年の一年生、ものすごい豊作って話」
「あーイケメンが揃い踏みってやつ?」
「そ、多種多様なタイプがいるみたいなんだけど、ねえ、後で狩りに行かない?」
「ちょ、狩りって」


もう少し言い方ってものがあるでしょうに、それよりもあなた、愛してやまない彼氏がいるじゃないか、何を寝ぼけたことを言っているんだ全く。


「私の狩りじゃなくて、独り身でさみしーなまえのためだってば」
「うるさいな、ほっといてよ」


こそこそしゃべりながら友人は私をつつく、別に好きで独り身なわけじゃないし、特に惹かれるような人がいないだけで、ムリに付き合おうとしたって疲れるだけだもん。それに言っておくけど年下は許容範囲外だからね。

もうこの話はおしまい、集中しましょうね。真面目に講義を聞く気はさらさらないけれど、しつこい友人をシャットアウトするには丁度いい、講義を真面目に聞くふうを装っていると、真後ろにある出入り口のドアが小さな音を立てて開いた、誰かが入ってきたらしい。

何の気なしにちら、と振り返ってみたら記憶の奔流に飲み込まれる、ものすごく背が高くて艶やかな黒髪で、端正な顔立ち、それには見覚えがあった。


「あ」
「……あ」


思わず声が漏れる、それに気が付いた彼もまた少し遅れて反応を返した。いつか助けてもらったあの人だ、友人が興味津々な視線を向けてくるが無視だ無視。その節はどうも、ああいえそんな。会話などなかったが、雰囲気的に会話を付けるとするならばこれがぴったりだろうと思った。

お互いに軽く会釈をし合って、どちらからともなく視線を外す。あの日彼とは約束をしたじゃないか、助けられたことについては他言無用、秘密だと。


「ねえ!知り合い?ねえってば」
「いや知り合いっていうわけじゃ……」
「あ、なまえって確か文鴦くんとは同じ天命高校だっけ、いいなあ制服姿もやっぱり様になってたんじゃない?やっぱ高校時代もモテてたんでしょ?」
「え……ええと」
「そっかそっか、天命高校ってレベル高いもんねー」


勝手に話を進めて自己完結している友人に置いてきぼりにされ、訂正も反論もできないうちに話はあらゆる方向へと邁進する。

……言われて、思い出した。

以前助けてもらった時にどこかで見覚えがあると思ったら、そうだ。彼は同じ高校の出身、こう言うと少し語弊があるかもしれないけど私自身、他人にそれほど興味がなかったし、誰がかっこいいとかモテるとか、あまり興味がなかったのだ。だから当時はものすごく背の高い子がいるんだなあ、くらいの認識で気にも留めなかった。

彼は文鴦くんというのか、講義室の中央の席に掛けた彼は座っていても背が高い、艶のある黒髪をじっと見つめながら、あの時のお礼をもう一度きちんと言うべきなのか、それとも何も言わず関わらずにいる方がいいのか、本気で悩んだ。

ちなみに私と一緒に助けられたあの白い子猫は我がアパートにて健在である、今頃呑気に惰眠を貪っていると思われる。名前は弱々しい鳴き声が印象的だったことから『ニア』にした。相変わらず煩い友人は完全に無視することにして、講義が終わるまでの間、お礼を言うか言うまいかひたすら悩み続けていた。

20140327
20160218修正
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