ヴァンパイア・アネクトード | ナノ

今夜は残業で遅くなるので先にお休みになっていてくだされ。

夕飯前に届いたメールを見て、彼の分の夕飯を冷蔵庫にしまい、温めて食べてね、と走り書きをしたメモを貼り付けておく。お言葉に甘えて先に寝ていようかと思ったが、たまたま付けたテレビの番組で面白いものがやっていたのでついつい見入っていたら、もう時計は日を跨いでいる。

慌てて立ち上がったのと、玄関先で物音がしたのはほぼ同時、あの人が帰ってきたんだ、もののついでだと玄関へ出迎えに行った。


「陳宮さん、おかえり」
「まだ起きておられましたか、もし、もしや私の帰りを健気に待って……!」
「いやあ、面白い番組やっててついつい見てたらこんな時間で」
「そこは嘘でも、嘘でも待っておりましたぞと言うべきでしょう!」


がっくりとうなだれた陳宮さんに苦笑い、夕飯温めるねと言って踵を返せば素早く後ろから抱きすくめられる、残業で疲れたのかな。前に、こうすると落ち着くとかなんとか言ってたっけ。肩に顎が乗せられ中途半端な長さの髪の毛が首筋をくすぐる、陳宮さーん?ご飯は?くすぐったいからやめてと言いかけて、ざらついた生温かいものがうなじをなぞる、下から上へと同じ場所を行ったり来たり。


「ひっ!?」


うわ、やばい。


「なまえ……少々よろしいですかな?」
「すでに噛み付く五秒前って感じね、っぎゃあ!」
「相変わらず耳の付け根がとても、とても敏感のようですなあ」


ふふふ、と笑った陳宮さんの吐息に肩が跳ねる。未だに首筋を行き来する舌、今かまだかと急かすように蠢いた。この人の言う『よろしいか』は決して……その、男女のまぐわいと言う意味のアレではない。(もしかしたらその意味も含めて、かもしれないが)


「仕事を頑張ってきた私にご褒美を、甘美なるご褒美を頂けませぬかな?」


私が断らないことを知っていて、あえて了承を得るのは単に律儀なのか、私の反応を見て楽しんでいるのか、恐らく後者だろう。


「……ちょっとだけ、なら」


陳宮さんが欲しがっているのは血だ、彼は現代を生きる吸血鬼の末裔。


「ではでは!」
「い……っ!」


首筋を這っていた舌が一点に留まり、一旦離れたかと思えばすぐに鋭く尖ったものが充てがわれる。ぷつ、と皮膚に食い込んだそれに一瞬痛みを感じたものの、すぐに違う感覚が押し寄せ膝が震えた。立っていられなくなり陳宮さんにもたれ掛かればしかと受け止められる、噛み付かれた傷口から啜られる血液、もう何度だって経験してるが未だに慣れない。

啜った血液を嚥下したのか、陳宮さんの喉がこくりと鳴った、小さな呻き声を漏らせば緩く後頭部を撫でられる。


「ああ、生き返りますなあ!」


口の端に付いた血を舐めとって、ご満悦のご様子。私と言えば、情事の直後のような激しい虚脱感に襲われている真っ最中。

20140115
20160218修正
← / →

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -