ヴァンパイア・アネクトード | ナノ

校内の至るところにオレンジと黒を基調とした装飾がひしめき合い、所々に毒々しく煩い柄の髑髏や、蝙蝠、かぼちゃ……ポップな図柄のそれらがのさばり跋扈する。

生徒らの喧騒が遠くに聞こえ、微かに聞こえたトリックオアトリート。

(……面倒この上ない)

いちいちこの喧騒に付き合っている暇はない、そもそもハロウィンは我々の宗派からすれば異教、元はケルトの祭りであったはずだ。ゆえにこんなことをしている場合ではない、それよりも聖誕祭の方が何倍も大事だ。それの準備に集中するため、このハロウィンの騒がしさに巻き込まれないためには……。

しばらく考え込み、物置から大きな箱を出してきた。そこにありったけの飴やら細々した菓子類を詰め、チャペルの前に設置、画用紙に大きく走り書きで【HAPPY HALOWEEN】と綴る。
投げやりであると言われようが私には関係ない、元より乗り気ではないからだ。

私を浮き足立ったイベントに巻き込むな、という無言の威圧。箱を設置し終え、チャペルの中の事務室に戻ろうとしたところでチャペルの扉がゆったりとノックされた。

「鍵は空いている」

気配ですぐにわかる、何処の馬の骨とも知らぬ輩ならば返事などしない。それにわざわざここをノックする者など、一人しかいないのだ。
だがいつまで経っても入ってくる気配がない、どうしたのだ、具合でも悪いのだろうか。

すぐに踵を返し、チャペルの扉を開ければ目の前に飛び出してきたのは黒い塊……いや、これは黒猫?

「お貸しくれなきゃ悪戯しちゃうぞ〜です」
「……」
「あら、于禁さん?」

両手に黒猫のパペットをはくはくさせながらなまえがそれを目の前に掲げている。緩みそうになった頬を引き締め(誰が見ているかもわからぬゆええ)中へと迎え入れる。
チャペル前に設置した箱から菓子を一掴みするのも忘れてはいない、なまえにそれを手渡しながら奥の事務室へと通した。

「わ、可愛いお菓子!ありがとうございます」
「……いや」

キャンディを一粒口に含んだなまえの綻ぶ顔に安らぎを感じる、それと同時について出た言葉がトリックオアトリートだった。私としたことが、やはり彼女の前では少々調子が狂うようだ。
てっきりなまえも何かしら用意しているものだと思っていたのだが、あたふたしだした彼女は、察するに何も用意していないらしい。
まさか言われるなんて!と言い出す始末、今日は……そうだ、今日くらいは。

己に言い聞かせる、今日くらいは赦される、と。

「なまえ」
「は、はい?」
「こちらに」
「お、お膝ですか?」
「……嫌、か」
「い、いえっ!そんなことないです!」

失礼します、と素直に私の膝上へと腰掛けたなまえをしかと抱きしめた。甘い香りは決してキャンディだけではない。

「お、」
「お?」
「お返しです、いつもの、お返し」
「……っ!」

もたれるようにして寄り掛かってきたなまえは、私の首筋にちょこんと噛み付いてお返しだと言う。
本当に今日だけだ。
奥底に閉じ込めておいたものが突然暴れ出すような感覚に襲われ、思わず本気でなまえの首筋に噛み付いてしまった。

7thハロウィンフリリクのサルベージ
今さらですが宗教上の問題等スルーしまくっててすみません。
20141118
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