ヴァンパイア・アネクトード | ナノ

短いものが5つ。チャプレンと司書の心中交互。

【戻れない、戻らない】
味をしめた獣、一度知ってしまったこの味を忘れるなど不可能だ。覚えてしまった快楽と愉悦、そして安らぎ、一歩踏み込んだ時に心は決まっていた。自制などできるはずがない、失わずに済むのなら喜んで苦しみと共にあろう。


【いっそ拘束して】
生真面目と言えば聞こえはいいかもしれません、ただ度が過ぎてしまうと少々厄介、融通のきかない頑固者。私はどこにも行きません、そう何度言ってもあの人はひどく苦しげに言うのです。「お前を失うのが怖い」私はあなたになら何をされてもいい、だから……。


【お前しか要らない】
「どうかされました?」
「……いや」
「あ、この前頂いたチョコレートがまだ残っているんです、いかがですか?」
「チョコレート?」
「はい、よければコーヒーと一緒に……」
「待て」
「はい?」
「いらぬ、何も……今はどこにも行くな、ここに、そばにいて欲しい」
「えっと……はい」


【世界が君を奪おうとする】
人はいつか死んでしまうよ。へらりと笑って毛利が囁いた、あの子ももちろんそう遠くない未来にいなくなる、君は独り孤独に震える日々を送ることになるだろうね。愉快この上ない様子の毛利を睨んでやっても奴はへらりと笑うのみ、反論などできるはずがない、全くその通りだ。そのようないつかなど永遠に来なければ良い、ふらりと現れた毛利はやはりふらりといなくなった。


【不安にさせないで】
いつもよりも青白いお顔で、于禁さんが現れた。憔悴しきった様子でストンと椅子に掛ける、貧血なのでしょうか。「あの、良ければ……」「いや、いい、大丈夫だ、貧血ではない」また我慢なさっているのかと思い、声を掛けましたが彼はそうではないと緩く手を振りました。先程毛利さんらしき人の後ろ姿を見掛けたのですが、もしかして何か関係があるのでしょうか。于禁さんは毛利さんを苦手視している節がありますし……。気にはなりますが、あまり言及はしない方がいいのかもしれないと思いました。


【君を抱き締めたら、最期。】
「どこにも行くな」
「はい、ここにいます」
「どこにも行かせたくない」
「于禁さんがそうおっしゃるのなら」
「私には、救いなど、慈悲など、有り得ぬというのに……っ」
「大丈夫です、于禁さん、あなたは誰よりも尊くて何よりも気高くて、清らかです」
「慰めなど欲しくはない」
「いいえ、本心です、于禁さん……」
「……触れてくれるな、今触れてしまえば……私は、私は……!」


20140608
20160218修正
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テーマ「人外ファンタジー」
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