ヴァンパイア・アネクトード | ナノ

閉館間際、久々に図書館を訪れた。

本を借りに行くだけだ、他意はないと自らを戒めるように心内で何度も繰り返す。しかしいざ図書館に足を踏み入れてば視線は自ずと自然になまえを探している、人の疎らな館内、カウンターは空。

落胆する己にうなだれ、目的の本を探すために背の高い本棚の間を縫い歩く。


「……ね、それで……と、あれ……」
「……と、なら……」


ふと聞き慣れた声、反射的に振り返れば二つ向こうの本棚になまえを見た。(本棚は金属製のラック状になっており本の上部に隙間がある)そちらに意識を集中させると、自然に彼女らの会話が鮮明に耳へと届く。


「さんきゅ、司書さん」
「いいえ、見付けにくい本がありましたらいつでもお声掛けくださいね」
「こんな可愛い司書さんが懇切丁寧に教えてくれるなら、俺、毎日来ちゃう」
「勉強熱心なんですね」


男子生徒の顔は見えなかった、相変わらず慈愛に満ちた微笑みを私にではない誰かに向けているなまえ、筋違いの苛立ちを覚え、探すはずの本のことなどどうでもよくなり、気が付けばチャペルバルコニーにある小さな庭に戻って来ていた。

丹精込め育てていた薔薇は純白、無垢ななまえに相応しい色だ、見事に咲いたそれらを枯れてしまう前に、と思い剪定に取り掛かる。

あからさまな好意を無下にしない辺りが彼女のいいところであり、付け込まれやすいと言えるよくない部分だ。

バツン

なんなのだ、あの者は。

バツン

あのように親しげに……馴れ馴れしい、厳に戒めなければ規律が乱れる。

バ ツ ン

そもそも何故拒絶しない、慈愛を向ける相手を間違えている、それにしてもあの生徒は実に卑しい目付きをしていた。

バ ツ ン

小さくはあるが、薔薇だけでも見栄えのするブーケのようになった。ここで活けてもつまらぬ、なまえにくれてやろうか……。思わず図書館を飛び出してきてしまったことを後悔した、あの時私が間に割り行っても問題はなかったはずだ、むしろそうすべきだった。あの男子生徒の声を思い返すだけで苛立ちが募る。

もう図書館は閉館時間を過ぎている、きっと今頃なまえは閉架書庫で本の整理を……。

(薔薇をやるだけなら)

私はもう一度図書館へと足を向けた。


頂きましたネタを引用させて頂きまして、ちょっと続きますがいつになるのやら。

20140203
20160218修正
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