諸行無常、百鬼夜行 | ナノ

今日もまた夜中に目が覚めた、嫌な予感がしたわけではないんだけれど、何やら頭上でひそひそ声がする。それが妙に気になって、ぱっと起き上がればパラパラと顔にかかる細かいもの。
それが何かなんて考えるまでもなく、以前あったことをすぐに思い出した。以前といってもわりと最近である。デジャヴュ。


「……」
「今日は友を連れてきた」


髪切りの吉継さんはまた勝手に人の髪の毛をちょいちょい切ってはむしゃむしゃしている。ああ美味い。じゃなくて勘弁してください、この勢いでいくと私すぐにハゲになっちゃうのではなかろうか。いやだ。
それに夜中に出てくるのも勘弁してください、ガチで怖いので。そんなホラー過ぎる吉継さんの隣に、ぶすっと愛想の悪い顔。顔は整っている、整い過ぎてて怖いくらいだ、部屋が暗くてよく見えないんだけど背後に……何だろう。ゆらゆら揺れてるあれは……。


「なまえ、そんなに見つめてやるな、三成は人間に見られ慣れていないゆえ、照れている」
「照れてなどいない、不愉快なだけだ」
「こいつは仙狐の三成、ほらこの尻尾も見えるだろう、触ってみればいい」
「な!おいやめろ吉継!いたっいたたたた!」


よ、吉継さん容赦ねえな。
たくさんあるふっさふっさした狐の尻尾のうち一本をがっしり掴んでぐいぐい引っ張ったかと思えば私の方へ押し付けようとしてくれている。三成さんとやらがめっちゃ痛がってるんですが……。いやちょっと触ってみたいなあ、とはちょこっと思いましたけれども!

吉継さんほんとに三成さんとやらがめっちゃ痛そうで涙目になっちゃってるのでもう勘弁してあげてください、すごい居た堪れない。


「いち、にい、さん、よん……ご?あれ、三成さんは妖狐ですよね、九尾じゃないんです?」
「いい加減にしろ吉継!」


三成さんは持っていた扇で吉継さんを力の限り引っぱたいた、わあ痛そうすごい音がしたよ。
ゆらゆら揺れる尻尾を吉継さんから庇いながら三成さんはフンと鼻を鳴らす。


「俺たち妖狐には幾つかの位がある、お前は頭が悪そうだから簡単に説明してやる」
「わ、わあい……ありがとうございます」


すごくお馬鹿にされてる、でも簡単に説明してくれるのはだいぶありがたい、今の時間帯は深夜だ、眠気のせいで頭が働かないからね!三成さん曰く、妖狐は大まかに分けるとこうなるらしい。下の位から阿紫、地狐、仙狐(気狐)天狐そして空狐、三成さんは丁度真ん中あたりで、霊力の強さも真ん中あたり。

仙狐は霊力が強いほど尻尾の数が増えるらしい。ちなみに天狐に進化すると尻尾は4本固定ですごい神通力が使えるようになって、空狐になると肉体を持たなくなってご隠居になるそうだ、尻尾は0本になるんだって。ふうん。


「ヒラ社員、部長、社長、名誉会長みたいな感じです?」
「違う……だが、まあ感覚的に似ていないこともない」


結局どうなのかよくわからなかったので、なるほどわかりました〜どうも〜ありがとうございました〜って漫才の締めよろしく口にしたら、全然わかっていないことを見透かされたらしくてめっちゃ睨まれた。おーこわ。


「なまえ、三成の尻尾に触れられる機会などそうそうないぞ、ほら」
「いだだだ!」
「吉継さんおもしろいくらい空気読めない!」
「たまには流れに逆らってみるのも悪くない」
「吉継!いい加減にし……痛いのだよ!」
「っわ!三成さんそんな大きい扇振り回さないでくだ……っぶねえ!」


扇を振り回す三成さん、それをひらひらかわしていく吉継さん、そして頭を抱える私。尻尾はもういいので安眠させてください後生です。


コンとは鳴かない仙狐がきました

20160126
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