諸行無常、百鬼夜行 | ナノ

とっても睨まれてるヤダ怖い、きっちりと整えられた髪、口髭にも隙はない。そんな雰囲気、ぎゅっと寄せられた眉間には深々と縦にシワが入っている。大天狗である于禁さんの手にはいつの間にか武器が!
先端が三つに分かれた槍のような錫杖、威圧感半端ない、ほんと怖いどうしよう。猫又陳宮さんを探している大天狗于禁さん、彼は多分私が陳宮さんの居場所を知っていると勘付いていると思う、そうでなければピンポイントでここには来ない。多分。
陳宮さんを庇う義理なんてないけど、めっためたにされるであろうことくらい予想はつく、だって于禁さんめっちゃ強そうなんだもん。ちょっと可哀想かなと思って、私は未だにしどろもどろな返事を続けている。


「はっきりしろ」
「え、っと……」
「知らぬとは言わせん」


困ったばれてる、もうどうしようもない!
確信めいたものを持って于禁さんは私の二の腕を掴んで引き寄せる、鋭利な刃物を連想させる瞳が抉るように容赦なく私を責める。
確か于禁さんは、陳宮さんが勝手に彼の山に侵入して川魚を食い荒らしたって言ってた。陳宮さんのしたことは確かに褒められたことではないけれど、なにも処刑までしなくたって……。


「我々は領地を侵されることを最も嫌う、互いに互いの物事に干渉しないことが我々の世の中では暗黙の了解となっている、それを犯した罪は償わせなければならん」
「……」
「お前があの者を庇う理由はなんだ」
「いや、その、別に庇っているというわけでは……」


詰め寄られて苛立ちを表すかのように于禁さんはダン!と錫杖を地に打ち鳴らす。私の肩が跳ねたのは言うまでもない、八方塞がりのこの状況、困り果てた私の背後からにゃふにゃふと妙な笑い声が聞こえてきた。


「にゃんぱらりー!」
「え、ちょ、ヒャアアア!」
「な、貴様!」


于禁さんに掴まれていた腕からスルリと抜け、自分の力ではない何かに引き寄せられている。ものすごい勢いで引っ張られてるコワイ!掴み返そうとした于禁さんの手は空を描いて、眉間のシワがもはや修正不可能なほどに深々と刻まれている。形状記憶だ、すごい!とか言ってる場合じゃないけどすごい!


「ち、陳宮さん!」
「なまえは優しい女子ですなあ、涙が、涙がちょちょぎれそうですぞ!」


いつの間にか起き出して、妖術を使ったらしい陳宮さんの元へ収まる、ぴこぴこ動く獣耳と二股の尻尾が揺れ、見上げた先には不敵に笑う陳宮さんの怪しいお顔。


「このご時世に我々が見える人間は、そうそういませぬゆえ、なまえは我々に争って欲しくないそうですぞ于禁殿」
「減らず口を……元はと言えば貴様が我らの領地を冒したことが原因だ、その罪は償ってもらわねばならぬ」
「だからといえど、一対数十ではいささか、いささか多勢に無勢……卑怯というものではありませんかな、于禁殿」
「陳宮さん、悪いことしちゃったならまずは謝っておいたほうがいいと思うんですが……」
「なまえ、心配なさらずともこの猫又陳宮!負けはしませぬぞ!」
「あの、そうじゃなくて……」
「戯言を……徹底的に叩き、その腐った性根を正してくれる!」


だめだ、どっちも全然話し聞いてくれない……もうどうでもいいんだけど、とりあえず巻き込むのだけは勘弁してください。私を社務所に避難させてからおっ始めてください!切実!


イメージはカラスとねこの喧嘩。
20140828
20151124修正
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