諸行無常、百鬼夜行 | ナノ

宮司っつーか巫女な、これ。

暇過ぎる……神社のお守り売り場の番人なうのなまえですどうも。ついでに由緒正しい(らしいが真偽のほどは定かではない)三戦國(みせくに)神社の跡取り娘です。

超不本意なんですけれども一人娘だし、とと様はわりと老い先が短めだから……あ、とと様っていうのは私の父、両親は結婚が遅くて子を授かったのもだいぶ高齢になってからだったみたい、だから母は高齢出産を余儀なくされて……っていう感動系な私の生い立ち。

そんなことはどうでもいいとして、とにかく暇である。せっかくの休みにぼけーっと社務所で妙齢の娘がね、って普通はこんなこと自分で言いませんけれども、どうにもこうにも暇過ぎて。

なんか面白いこと起きないかな、例えばジョニデ似の某イエスさんが某ブッダさんと一緒に参拝に来てハッスルしちゃうとか、Tシャツジーンズがよくお似合いですねとか言ってあげたい。ぼんやりと境内の石畳を眺め、何枚あるか数えだしたけど20までいって、数えるのをやめた。飽きた。

とと様は腰が痛いっつっていつもの病院に行っている、行事がないと滅多に来ない参拝客、今は私一人の神社だ、話し相手がいないのが苦痛でたまらない、いっそのことやかんにでも話しかけようか。そんな暴挙に出ようと思い立って、すぐに思いとどまった。石畳を横切る猫を見つけたのだ、獲物だ!

お待ちになりやがれにゃんこ様!

すぐさま立ち上がり、草鞋を引っ掛け猫に向かって猛進……しようとしたんだけれど何やら様子がおかしい、猫は少しよたよたと足元が覚束ない、怪我かな?これこそ猫と仲良くなれる絶好のチャンス、待ってろにゃん公、私が手厚い手当てを!

ふらふらする猫に駆け寄ると、やっぱり怪我をしているらしい、しかしそれにしても猫にしちゃあちょっとでかくない?紫掛かった毛並みに、ちょび髭のような模様が面白い顔、変わってるなあとは思ったけど今はそれどころではない。
抵抗しないのをいいことに、猫を抱えて社務所へと走って戻る、救急箱あったかなあ、人間様のお薬って猫にも使用可?扉に手を掛け中に入りかけたところで背中に何かが突撃してきた。


「いった、何……ヒャアアア!カラスゥウウ!?」


ギャアギャアと喚き散らすカラスの群、いつの間にこんなにたくさん召喚されたの?何これ怖い!カラスのつつく攻撃って結構危ないのよね、あいつら嘴やばいから、襲いくるカラスの群に足元を掬われ、猫共々派手にすっ転んだ、カラスは猫目掛けて滑空する、猫をやったのはこいつらか!多勢に無勢、卑怯だこんにゃろ!


「私が相手だ掛かってこいちくしょう!怖い!」


包み隠さない苛立ちを乗せ、無我夢中で手近にあった武器になりそうなものをひっ掴む、奉納してあった破魔弓と破魔矢、うーん我ながら罰当たり、その上ミスチョイスだったと後々思ったけどその時は全然気にしなかった。
当たることはないだろうと確信めいたものがあったから、威嚇程度にぶっ放しす。放物線を描いて思いのほかよく飛んだ、後で回収しに行かないと、とと様に怒られるなあ。

効果は上々、カラスの群は散り散りになって飛び去った。とりあえずは一件落ちゃ……「いやはや九死に一生を得るとまさに、まさにこのこと!」いや待てどのこと!?


「猫がシャベッタァアア!?」
「私が見える人間が現代にいようとは、何はともあれ危ないところをお助け頂き感謝、感謝いたしますぞ」


猫が喋った上に二本脚で立った、柔らかそうな肉球で砂埃の付いた身体をまふまふと払う、にんまりと笑って猫は律儀に頭を下げている、これは夢か?暇過ぎてどうにかなった頭の中の幻想……白昼夢?


「ね、猫が、しゃべっ……立っ、笑っ、おおおお辞儀……!」
「随分と混乱されているようですなあ、申し遅れましたが私は猫又、陳宮と申す」
「ね、猫又って妖怪の?」
「左様、ほらご覧ください!尻尾、尻尾が二又に別れておりましょう!」
「おお……!」


何でそんなものが見えてんの私!そう言えばこの陳宮とかいう猫又、自分が見える現代の人間がいるなんて、とか言ってた。じゃあ普通は見えないってことよね?私普通じゃないってこと!?なにそれやばい!

どうしたらいいのかわからなくて、でも一つだけ言えることがある、二足歩行しようが喋ろうがなんであれ猫は猫、落ち着いて見れば可愛い、とても可愛い、可愛いは正義!肉球触りたい!


「猫又の陳宮さん!」
「何ですかな?」
「ちょっと失礼します!」


抱き上げて、もふもふした胸の毛に頬を埋めるようにしてぎゅっ、びっくりしたらしい陳宮さんは「にゃんと!?」と声を上げた、ますます可愛い!

しばらくそれを堪能していると、陳宮さんはにゃふにゃふ笑って「にゃんぱらりー!」とわけのわからない呪文のような言葉を叫ぶ。すると私がぎゅっとした猫のもふもふがいなくなって、なんか、その、逆に抱き締められてない?


「ではでは、私も失礼致しますぞ」


顔を上げればムダにさらっさらした髪とお髭、あらまあ人間の顔、頭にはぴこぴこ動いてる猫の耳、二又に別れた尻尾がちらちらと見え隠れ。


「ひゃああ変態ィ!」
「にゃぶふ!」


思わず張り手かましてしまいました。

猫又救出ミッション


個人的に、にゃんぱらり、がツボ。
20140212
20151124修正
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