諸行無常、百鬼夜行 | ナノ

「とりっくにゃんとりーと!」
「は?……え、ちょっ、イタッ、なに……痛い!陳宮さ、いたっ!」


突然背後で聞き慣れた声がして、振り向きざまに二足歩行の猫、ふよふよ見え隠れするその尻尾は二股にわかれていて、明らかに普通の猫ではないことを示唆。

そして続けざまにびちちと当たるカラフルな小粒の何か、ころり床に転がったそれは金平糖大の飴玉である。

何が起きているのか全く状況が飲み込めない、妖怪猫又である陳宮さんが私に向かって飴粒を豆まきよろしく投げつけているのだけれど、理解不能である。


「ほんと痛い、なにもう、イタッ、やめ」
「にゃんぱらりー!」
「やめろっつってんでしょうが!」
「にゃふがが!」


いい加減イラっとしたところで回し蹴りを食らわせておいた、呻いた陳宮さんは撒かれた飴粒と一緒に床に転がった。天誅。


「なんですか陳宮さん!」
「よ、妖怪虐待反対ですぞ」
「こちとらいきなり飴玉?飴粒投げられて意味がわかりません!」


猫又モード(と言っていいのかわからないけど)の陳宮さんの首根っこを掴んで「めっ!」と言ったが陳宮さんはにゃふにゃふ笑うばかり。
いくら猫の姿とはいえ、普通の猫よりもひと回り以上大きいせいか掴んでいる手が痺れてくる。
ぱっと離してしまえば陳宮さんは華麗な身のこなしで、身体を半ひねり。枡から零れていた飴粒を掻き集め、言い放つ。


「お覚悟、ですぞ!」
「わーっ!ちょっとちょっとほんとやめてくださいってば!」


再び飴粒を掴んで投げつけてこようとするので慌てて制止を掛ける。そもそもなんで飴粒なんかを投げつけてくるのか、節分じゃあるまいし。それに節分なら豆でしょう。


「節分?いやいやいや今日はあれ、あれでしょう!」
「あれ?」
「はろいん、とやらでしょう!」


おやおやおや、知りませんでしたかにゃ?と少し小馬鹿にしたような陳宮さん、むかつくわけなのだがそれよりも私が知っているハロウィンとだいぶ違う。

合っているといえばお菓子、の括りに入る飴粒くらいである。誰に入れ知恵されたのか、それとも単なる勘違いか、それはわからないし、知りたくないので割愛。
本来のハロウィンを簡単に説明すれば、陳宮さんは憎たらしい笑みを引っ込めて真面目くさった表情でこう言った。


「にゃんと……はろいんとは『とりっくにゃんとりーと』の呪文と共に、好いた相手に甘味をぶつけるのではにゃいと!」
「全然違いますね!そもそもトリックオアトリートは呪文じゃないです!」


どんな嫌がらせですか……好きな相手にトリックオアトリート!なんて言っても気持ちは伝わりませんて、好意よりも悪意が伝わると思いますがね。

ん?好意?はた、と陳宮さんに視線を向ければ、いつの間にか人の姿をとった彼が不敵な笑みを携えてそこにいた。あら?あらら?この流れでいくと、ええと。


「ち、陳宮さんは私に随分と友好的、です?」


陳宮さんはにんまり怪しげに、意地悪く笑みを深めた。


「とりっくおあとりーと、お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、でしたかな?」
「え、えーと、はは、は」
「ここまで言ってわからぬ、わからぬなまえではありますまい、この陳宮の好意と共にとびきりのいたずらを贈りましょうぞ!」


わしり、両肩を掴まれて逃げ道を失う。見た目はひょろっとしているくせに、妖怪の力ってこういう時にとっても役に立つんですね!悪い意味!

でも、この後しばらく押し問答をしていたら于禁さんがすっ飛んできてくれて、いろいろと事なき……でもないけど事態は一応落ち着いた。
イベントはもうこりごりです。

7thハロウィンフリリクのサルベージ
20150331
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