何かと突っかかってくるなあと思っていたら、そういうことだったんだ。
「なに、鍾会って私に構ってもらいたかったの?」
「……」
「ほんと?」
「こ、この期に及んで嘘など!……っけほ」
「ああ、ごめんごめん無理しないで」
「……無理をさせているのは、お前だろう!」
万が一何かあった時用に社務所の奥には簡易ベッドが置いてある(何か、が一体なんなのかは不明だが……)今そこには真っ赤な顔をして横たわっている妖怪が一人、妖怪って一人二人って数えていいのかどうかという問題は未だに答えが見つからないので放置の方向で。
その妖怪は風邪をひいている。いつもは自分は選ばれた妖怪だの英才教育がどうのこうの。このうるさい鍾会というやつはこの時ばかりはおとなしかった。だいぶつらいらしい。
そもそも妖怪って風邪ひくものなんだ、初めて知った。
この鍾会は天邪鬼、人の心をある程度推し量ることができ、それにつけこんで悪戯(主に嫌がらせが多い)をするという良いところが全く見当たらない、大変迷惑きわまりない妖怪である。天邪鬼といえばもっと幼いか、あるいは性根腐りきったような風貌かと思っていたけれど、想像とはかけ離れて随分と綺麗でスッとした顔立ちだ。とても意外だと言ったらものすごく罵倒されたので、顔の代わりに中身が残念なんだなあ、とこっそり察した。
更に驚いたことに、実は寂しがり屋で構ってちゃんであることが判明している。悪戯や嫌がらせに加えて高慢な態度と物言いのせいで友達は少ないらしく、寂しくても決してそれを口にはしない。本人いわく「私のそばに控えるからにはそれなりの教養がなければ困る、馬鹿とは目も合わせたくないね」だ、そうだ。
それを聞いて、私自身それほど学校の成績とかいい方ではないから一緒にいたくないんじゃ……と言いかけたところ「お、お前は別に……学校の成績とやらは関係ないだろう!この私が話し掛けてやっているんだから光栄に思って返事を返せばいいんだ!」と声を裏返らせるほどにまくし立ててきた。
喜んでいいのかどうかはわからないけれど、俗に言うツンデレというやつなのだと察しのいい私は思った。まあ面倒な反面ちょっと人間らしい一面があったりして妙に親近感がわくというものだ。
「おい、何か冷たいものを持ってこい」
「氷嚢はないけど冷却シートならあるよ、ちょっと待ってて」
「れいきゃくしーと……?おい貴様、まさか私に変なことをしでかすつもりじゃないだろうな」
「ないない、そんな気毛頭ないから安心して」
「お、おい!どこへ行く!私を置いて行くんじゃ……げほげほごほっ!」
「はいはい安静安静」
立ち上がって戸棚にしまっておいた救急箱を取り出しに行こうとするだけで制止が掛かるが、お構いなしでふり切る。起き上がりかけたところはきちんと押し戻しておいた。持ってきた救急箱から使ったことのない冷却シートを取り出し、鍾会の額にぺたり。
「ヒッ!」
「どう?頭冷やすといい感じじゃない?」
「貼るなら一言寄こせ、全く……まあ、悪くはない、な」
ひんやりした感触に驚いたようで、肩を震わせたけれど鍾会は照れくさそうに答えてくれた。早く元気になるといいね。
「私が寝るまでそこにいろ、いいな?」
「はいはい」
「絶対だからな!」
「大丈夫だって、ほらそんなに怒ると悪化しちゃうかもだから」
ぽんぽんと布団を叩いてぶすくれた鍾会をなだめる、食べやすいもの作るからね。
「フン、せいぜい私の口に合うようにして欲しいね」
「どこまでも減らない口だなあ、もう」
「でないとお前を喰ってやる」
「が、がんばりマース」
風邪を召します天邪鬼
20170205
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