暗から明へ | ナノ


まじまじと、食い入るようにこちらを見つめるなまえ、あの頃と変わらない純粋そのものの瞳と視線が眩しく思え、僅かに目を伏せる。

飽きもせず視線を外そうとしないなまえがぽつりぽつりと呟き出した、聞けば胸の奥で何かがつかえていると言う。

どうしようもなく不安に駆られ、離してなるものかとなまえを抱く腕に力を込めた、いつか心変わりをしてしまうのではないか、他の男に言い寄られてふらりと向こうへ行ってしまうのではないか。

挙げ出したらきりがない、もう二度と失いたくない、呆れられようとなんだろうと構わない、今度こそ共に天寿を全うしたいのだ。

腕の中でもそもそとなまえが動くたびにいい香りが漂う、遠慮がちにちらちらと視線を寄越し、ふと目が合った。

ぶつかり交わった視線、困ったふうに俯いたなまえが小さな声で何かを呟いた。

そっか、そうだったんだ。

一人で何やら納得しているようだが私にはさっぱりわからん。

「張遼さん」
「どうした」
「わたし、多分」


俯いたまま若干言い淀んでいるらしい、心無しか頬は薄紅色に染まっている。

次にどんな言葉が飛び出してくるかと思えば、それは予想だにしていなかったことで、今まで感じていた不安を遥か彼方へと追いやってくれるものだった。

「惚れ直したんじゃないかな、と思います」

全身が震えた。

形容し難いこの気持ちは一体なんだ、愛おしさが膨れ上がり破裂しそうだ……いや既に破裂しているのかもしれない。年甲斐もなく、情けなく不甲斐ないことに、泣きそうになっている。

苦しくて仕方がない。

「張遼さん……?」
「すまん、今だけは、今だけは許してほしい」

抱きしめていた腕の力を緩め、なまえの肩に顔を埋めた、こんな情けない顔は見せられぬ。

熱くなる目頭に鼻の奥が刺激される、無意識のうちに唇をきつく噛んでいた。こんなにも嬉しいことがあっただろうか。

「あの、我慢しなくてもいいです、笑ったりしません、幻滅もしてません」

不覚にも、ず、と鼻をすすったことで気が付いたようだ、堪えていたものが決壊してしまい、ぐにゃりと視界が歪む。

なまえの手が緩やかに背中を撫でる、自分のものよりも随分と小さい手、だがその存在感は圧倒的、じわりと暖かい手のひらに安心した。

「むしろ弱い部分も全部、張遼さんの全部が知りたいです、だから我慢しないでまるごとわたしにぶつけてください」
「……生意気だ」
「捻くれてるところはあんまり変わってないみたいですね、でも涙声で言われてもアイタッ!」
「……一言余計だ」
「こんな弱々しくて可愛い張遼さんが見れるなんてうれアイタッ!」
「……もう黙っていろ」

ほろほろ落ちる涙がなまえの服に吸い込まれていく、少しばかりまずいなと思ったが、それを見越したのかなまえは、気にしないで今は思いっきり全部ぶちまけちゃってください、そう言った。

抱きしめているなまえの体温が心地いい、涙と一緒に不安も落ちていくようだ。

「なまえ」
「張遼さんほんと鼻声かわいアイタッ!」
「真面目に聞け」
「はい」
「一度しか言わない」
「なんですか?」
「愛している」

なまえからの返事はない、だが代わりに回された腕の力を苦しいくらいに強められた。それに応えてやろうと私もきつく抱きしめ返してやった。

「うぐえ」
「……色気のなさも健在か」
「がっかりするのやめてください!」

ああ、これが幸せというやつか。


20131007
20131215修正

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